ボックス君とマン君
「加害者について検討しようじゃないか。ボックス。今回だけでなくトータルで加害履歴はどのくらいある?」
――精神的なものと、肉体的なものと、どちらを表示しますか。
「両方。素質を見たい」
――かなり膨大になりますが、そちらに出力しますか。
「君と違って、こっちは処理容量が余り大きくないからね。単なる現状把握だ。必要だと思われる情報だけマークして表示してくればいい」
――これは随分、相当アナログですね。
「個々の情報、つまれ些末に引っかかりたくないんだよ。全体を流れとしてざっくりつかみたい。少なくとも社会的、もしくは本能的に嫌悪するように刷り込まれているはずの禁忌を犯すことができる。また、それに耐えられる程度に無神経かどうか。それによってアプローチは全く変わってくるだろう」
――そういうものですか。
「そういうものだ」
――どちらにしても、あまり変わりないと思いますね。
「それはボックス、君達は自分が能力に比較して何も考えてないと認めているようなものだ。我々にとっては、利用者さんがレジャーと割り切っているかどうかが重要だ。猟奇的犯罪の幇助はできない。そうなってしまう無粋なやり方は、徹底的に潰さないとね」
――私には分かりません。娯楽として殺されることと、被害者として殺されることの違いが。被害者として突然殺されたいという希望に添うだけで十分で、どうしてそうしたいのかまで、踏み込む必要はないのでは?
「まあ、そこは分かる必要もないだろうね。でもわきまえることで、必要をより的確に表現できる気がするというだけだ。つまり、ボックスは箱の仕事をすればいい。私はエンターテイナーとして、自分の仕事をする」
――箱、というのは蔑称のつもりで選択された言葉ですか。
「くだらないことに、いちいち引っかかるな、ボックス。らしくない。私たちは、いや、私だけでなく私たち全てが、ボックスがなければ何もできない。必要不可欠なものを、貶める必要があると思うか?」
――あなたたち、マンと話していると、自分たちが酷く四角四面な気がしてならないですよ。あ、今、笑いましたね。笑うというアクションが、今必要と、こんなときマンは判断するんですか。
「感情は理論を積み上げて到達するものではないからね。なぜ、ここで笑うか聞かれても、説明は難しいな」
――マン君は、曖昧すぎます。
「ボックス君は、ちと硬い。さてと、そろそろクライアントの分析を始めようか。データを見せてくれ」
――了解しました。出力は私のモニターにします。必要なものをマークしてください。いつでもあなたに同期できるよう整えます。
「ああ、そうしてくれ」