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娯楽死業者

        ~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



 この度は、数多くあるサービスの中から、当社をお選びいただき、まことにありがとうございました。

 ご期待に応えることができますように、スタッフ一同最大限の努力をいたします。

 ただ、お客さまもお分かりと存じますが、加害者をご指定ですので、通常のオーダーより準備に時間が掛かりますことを、なにとぞご理解くださいませ。

 あなたさまの望みにかなう、すばらしい旅立ちになりますように。

 お気に召しましたら、次回もどうぞ当社をお選びくださいませ。ではどうぞ、突然の災難をお楽しみに。


               LDc

               Leisure Dying for you.



        ~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~




 取りあえず、あなたのオーダーは受理(アクセプト)されたと、そう示しておくことがこの際、大切だろう。

 犯罪被害者になるということすらが、レジャーとして公認されている現在、余程のことがない限りある程度の希望はかなえられてしかるべきだと誰しもが考えている。けれど、なかなか人の命を扱うということは、尊厳とかいう概念との兼ね合いの難しいことで、いつも美しく、いい状態でことがなされるというわけにもいかない。


 もちろん、死ぬ方にとってみれば、かつては滑稽な死や無駄な死は大問題だったろう。しかし今は違う。終末の記憶を温存したままで、リスタート当然が前提としてのレジャーダイイングでは、惨めに理不尽に死んでみたいという好奇心すら存在する。そういう嗜好にとっては、美しさすら兼ね備えた、職人仕事によってもたらされる苦痛のない死など、くそ食らえという奴だろう。


 私は自ら好んで、この仕事に従事しているというわけでもないのだが、プロフェッショナルであるからには、やはり、ニーズに対し可能な限り一番近い形でサービスが提供できるよう心がけたい。

 今までの経験の全てを動員して、今のクライアントに、常に今までの職歴においての最高品質の状態を届けなければならないと思うのだ。


 今回のクライアントの場合、最期の苦痛は求めていないはずだ。速やかに確実に、そして苦痛は最低限。食肉業界の屠殺を目指して間違いはなさそうだ。この仕事をしていれば、もちろん常日頃から血塗れは基本だけれど、屠殺ばかりは経験がない。初体験を前に高鳴る心臓がないのが残念だぐらいだ。

 問題は、ただ一つ。執行者に指定があること。いつものように簡単ではない。


 指定者が加害者に自発的になろうとするまで、二、三年いや、最悪、五、六年という時間が必要かもしれない。その途中で、クライアントの希望がブレないことを祈るしかない。我々はいつでもニュートラルに戻れるが、人の意識や思考というのは、外から変えようとした場合、本当にゆっくりとしか変わらないのだから。


 本人が望めば、あれほど簡単に変われるにも関わらず……。


 まあ、難易度が高ければ高いほど、それをなし得るために為す、あらゆる努力は新鮮ということだ。目まぐるしく変化する彼らに対して、我々の時間は遥かに平坦で連続している。多少、彼らの概念で言うところの退屈を感じたところで不思議でもないだろう。


 まあ、つくづく、やっかいな存在ではある、我々のマスターたちは。 


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