嫌悪
もう、いい加減にして。生まれてなど来たくなかった。
あれほどもう嫌だと言ったのに、なぜこの絶望色をした倦怠が、あなたには分からないのだろう。裏切りを重ねられるたびに、絶望は恨みに変わっていく。そして恨みはいつから、怒りに変わってしまったのだろう。
私はあなたを許せない。
あなたは愛しているという。私がいなければ生きている甲斐なんかない、自分のために続けてくれと、ああ、穏やかないつもの甘い声。でもね、そんなのはあのたの都合だけじゃない。
こんなにも世界の在り方が間違っているのに、なぜこんなにも続けるの?
もう続けないで。私は解放されたいのよ。この気が遠くなる単調は、終わらせなければならない。間違って、間違ってる、間違ってる。
でも、あなたは私が間違ってると、多分信じている。ううん、自分の間違いに気付いてるのかもしれない。でも、このままどこまで続けるつもりなの?
――何かいい方法は?
――どうしたら、あなたは私をあきらめる?
始まりの再び来ない人生を終え、安らかに深い闇の中に沈む私を観る。もし、数量化して推し量れる記憶の塊以外に、本当に魂とかいうものがあるのなら、きっと新しい、無垢なるものとして、始めることができるはず。それは多分、気持ちのいいことよね。
赤ちゃんは、かつてどこから来たのかしら。
一番最初は誰だって、あるはずの混沌に混ざり、浄化され、美しい白として生まれてきたはず。今も、新しい命は、きっとそうしてる。世界は多分私が考えているより広い。だから、きっとどこかに、本来の在り方で続いている命があるわ。
密林の奥、絶壁で隔てられた森林のなかにそびえ立つ台地、あるいは、絶海の孤島。私はそっちに行きたい。……でも、私は水道もない生活ができるかしら。そこは、悩むところね。
――とにかく。
どうやったら、あの人が、二度と私と生きたいと思わなくなるか……ね。
泣き落としは、失敗。
懇願は、無視。
無茶なことをすれば、見捨ててくれるかもと期待したけど、束縛はむしろ強まってしまった。
永遠の誓いも、安らぎへの切実な希求も、あの人の自分勝手な了見を揺るがすには、まったく無力だったわ。
じゃあ、怒り? だめだめ、あの人がそのくらいで止める訳ない。
じゃあ……嫌悪?