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いただきます

 あなたがこんなふうに美しく飾られていたことが、かつてあっただろうか。


 白い世界の真ん中に、たった一つの形として生まれ変わって存在している。


 あなたを彩る全てを、私はこの手で作った。


 土を耕すことを初めてし、苗を植え、青くまん丸に並んだつぶつぶが、膨らんで色づいていくのを見た。


 見ながらずっとあなたを思っていた。


 これであなたを飾るのだと。


 鮮やかな緑のフリルが美しいこれも、小さな芽吹きから見守っていた。ずっと。手でちぎり取り、氷を入れたボウルに放したとき、あなたをこの上にちょこんと飾る日が来てしまったと、おびえたような気もするけれど、単に期待が大きすぎて、高鳴る胸の鼓動を、そんなふうに誤解しただけなのだろうか。


 今も、この静かな部屋に音楽が満ちている気がする。あなたが、やさしく笑っている気がする。ああ、全ては、気のせいに過ぎないというのに。私はもしかしたら狂ってしまったのだろうか。


 そして、あなたが私の中へ入ってくる。


 世の中にはそういうことがあるということを、知ってはいたのだけれど、まさか自分に、起こるとは思ってもいなかった。


 愛したかった人が、この中にいる不思議な感動。


 体の中であなたが広がって、私に溶ける。


 いつだって初めては、何かを壊していくのに。

 なのに、それが嫌でない自分がいる。


 それがうれしい自分がいる。

 そのことに、ただ、驚く。


 ふと、大事な儀式を忘れていたことを思い出した。


「いただきます」


 私は両の手のひらを、そっと合わせた。

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