二話
「あ、やっと来たー!」
「早くー、お腹すいた!」
梶に連れられ大広間に行くと、箸を持ち準備万端の双子が不満の声をあげていた。
机の上に並べられた食事は、白ご飯にお味噌汁、漬物に魚など、夕食時と変わらぬ純和風だった。
「ご、ごめんね」
夏梨は頬を膨らませる双子に苦笑し、言われた席につく。
凛は何食わぬ顔で食事を進めていた。
「あ、あの……これって、誰が作ってるんですか?」
目の前にあるたくさんの朝食を見て、怪訝そうに尋ねる。
お手伝いさんや、家政婦の人がいるのかと思っていたが、そういう人は見たことがない。
そしてなにより、この屋敷の中に女の人がいるのは見たことがなかった。
「あぁ、私です」
苦笑しながら、梶が言った。
「え、梶さんが……?」
「はい、この屋敷のことは大体私が」
「そ、そうなんですか……」
そして、目の前にある食事に目を向けた。
これだけの量を一人で作り、屋敷のことも全て一人でやっている、そう改めて考えその凄さに吃驚した。
煮物を一口食べ、夏梨は笑みをこぼした。
「おいしい……」
思わず出てしまった言葉にはっとすると、嬉しそうに微笑む梶が視界の端に映った。
「ありがとうございます。いつも作っているのですが、そうおっしゃって下さることは少なくて……」
「えー!?僕言ってるでしょ、いつも!」
横から双子の片割れ、服装からして海斗だろう。抗議の声を上げている。
「僕だって言ってるよ?梶のご飯おいしいもん」
今度は陸斗が、海斗に負けじと声を張る。
「そうでしたね、ありがとうございます」
柔らかく微笑み、梶は言う。
作られたものは形、味と共に申し分なく、驚くほど口に合う。
そんな梶を見て夏梨はふと思い口を開く。
「何か手伝いましょうか?」
この屋敷は広い、食事を作るのはあまり得意ではないものの、掃除くらいは出来る。それに少しでも梶さんの負担を減らせるはずだ。
そう思って梶に言ったのだが、梶は夏梨を見て目を見開いていた。
「……変わった人ですね」
「えっ……?」
「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらないで下さい」
にっこりと微笑まれ、夏梨は言葉が詰まった。
そして不意に、目の前に座っている凛と目があったような気がした。けれどそれはすぐに逸らされ、凛は食事を再開する。
小首を傾げながらも、夏梨も食事を再開した。
丁寧に作られた食事を口に運び、梶さんの手伝いを何かしようと心の中で硬く決意した。