四話
夏梨はとっさに顔を上げた。
「えっ……?」
少年はただじっと夏梨を見つめ、視線を森の方へ移す。
「おい、こいつが今回のか?」
夏梨は慌てて少年の目線を追い、ぎょっとした。
そこにはたくさんの村人が立っていた。誰もが怯えるような表情で、少年を見つめていた。
「そ、そうです!」
村人の誰かが、そう叫んだ。
そして皆がそれを習うようにして、口々に叫び――私を指差す。
「こいつです!こいつが、今回の――!!」
「は、早く連れて行ってください!」
か細くも、必死に訴えているその状況が、夏梨には理解できなかった。
「狐様――!!」
「生け贄は、こいつでいいでしょう!?」
そんな村人一瞥し、少年は口を開く。
「お前……行くぞ」
戸惑う暇などなかった。言われた瞬間腕をつかまれ、引きずられるようにして建物の中へ入る。
夏梨は必死で村人に視線を向けるも、その瞬間夏梨は固まった。
村人たちは少年に引きずられるように歩く夏梨を見て、安堵の顔をしていた。
「痛いっ……!!」
建物の玄関らしき所まで連れて来られ、夏梨はようやく少年の腕を振り払った。
「な、なに!?あ、あなた誰!?」
色々と聞きたいことは山ほどあったが、上手く言葉に出来ない。
そんな夏梨を少年は鬱陶しそうに見下ろす。
「聞いてなかったのか?お前が今回の生け贄だ」
また、その単語――。村人たちからも、何度も浴びせられた言葉だった。
酷く聞きなれないその単語。
「い、生け贄ってなに!?」
怒りに任せてそういうと、少年は顎をしゃくった。
「ここで話すのも面倒だ。ついて来い」
命令口調なのが気に障ったが、ここにいても埒が明かない。夏梨はしぶしぶ少年の後を追った。
長く続く廊下を歩く少年の後姿を見つめながら、視線をめぐらす。
この建物は木造で、予想より広かった。
しばらく廊下を歩き、少年が右手に折れるのを見て、慌てて後を追う。
「ここが、まぁ、大広間ってとこだ」
大きく開かれた部屋は、床は全て畳、大きな木で出来たテーブルに二つ並べてある座布団。色とりどりで花が描かれている障子。
それらが全て、和風な、落ち着く雰囲気を作っている。
夏梨は差し出された座布団に座り、テーブルを挟んで少年が目の前に座った。
「あのっ……」
少年が座るのを見計らって、口を開く。
「その前に、お前は何も聞いていないのか?」
「え……?き、聞いてません!」
少年はため息をつき、軽く頭をかく。そして意を決して、口を開いた。
「お前は村人たちから俺に捧げられた、生け贄だ」