表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月夜の空  作者: みづき
一章 生け贄
5/18

四話

 夏梨はとっさに顔を上げた。

「えっ……?」

 少年はただじっと夏梨を見つめ、視線を森の方へ移す。

「おい、こいつが今回のか?」

 夏梨は慌てて少年の目線を追い、ぎょっとした。

 そこにはたくさんの村人が立っていた。誰もが怯えるような表情で、少年を見つめていた。

「そ、そうです!」

 村人の誰かが、そう叫んだ。

 そして皆がそれを習うようにして、口々に叫び――私を指差す。

「こいつです!こいつが、今回の――!!」

「は、早く連れて行ってください!」

 か細くも、必死に訴えているその状況が、夏梨には理解できなかった。

「狐様――!!」

「生け贄は、こいつでいいでしょう!?」

 そんな村人一瞥し、少年は口を開く。

「お前……行くぞ」

 戸惑う暇などなかった。言われた瞬間腕をつかまれ、引きずられるようにして建物の中へ入る。

 夏梨は必死で村人に視線を向けるも、その瞬間夏梨は固まった。

 村人たちは少年に引きずられるように歩く夏梨を見て、安堵の顔をしていた。


「痛いっ……!!」

 建物の玄関らしき所まで連れて来られ、夏梨はようやく少年の腕を振り払った。

「な、なに!?あ、あなた誰!?」

 色々と聞きたいことは山ほどあったが、上手く言葉に出来ない。

 そんな夏梨を少年は鬱陶しそうに見下ろす。

「聞いてなかったのか?お前が今回の生け贄だ」

 また、その単語――。村人たちからも、何度も浴びせられた言葉だった。

 酷く聞きなれないその単語。

「い、生け贄ってなに!?」

 怒りに任せてそういうと、少年は顎をしゃくった。

「ここで話すのも面倒だ。ついて来い」

 命令口調なのが気に障ったが、ここにいても埒が明かない。夏梨はしぶしぶ少年の後を追った。

 長く続く廊下を歩く少年の後姿を見つめながら、視線をめぐらす。

 この建物は木造で、予想より広かった。

 しばらく廊下を歩き、少年が右手に折れるのを見て、慌てて後を追う。

「ここが、まぁ、大広間ってとこだ」

 大きく開かれた部屋は、床は全て畳、大きな木で出来たテーブルに二つ並べてある座布団。色とりどりで花が描かれている障子。

 それらが全て、和風な、落ち着く雰囲気を作っている。

 夏梨は差し出された座布団に座り、テーブルを挟んで少年が目の前に座った。

「あのっ……」

 少年が座るのを見計らって、口を開く。

「その前に、お前は何も聞いていないのか?」

「え……?き、聞いてません!」

 少年はため息をつき、軽く頭をかく。そして意を決して、口を開いた。

「お前は村人たちから俺に捧げられた、生け贄だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ