二話
森を出て、何分が経っただろうか。
あまり調べてこなかったせいで、旅館やホテルなどの宿泊施設のことがよく分からない。
辺りを見回してみても、それらしきものは見当たらず、途方に暮れる。
この村は、他の市や村からは孤立しており、そのせいかバスは二時間に一本程度、タクシーもなく、コンビニさえないという状態だ。
誰かに聞こうかとも思ったが、そういうときに限って人がいない。
辺りは風によって揺れる葉の音、鳥のさえずりの音しかしない。
「携帯も使えないし……」
夏梨の持つ右手には、ピンクの可愛らしい小さな携帯電話に、力なく垂れ下がっているうさぎのストラップが揺れていた。
もう一度携帯に目を落とすと、携帯の画面には先ほどと変わらず圏外と表示されている。
夏梨はため息をもらす。
このままでは野宿となってしまう、それだけはどうしても避けたい。
いくら季節が秋で、外で寝ても大丈夫な温度であっても、女の子が外で野宿というのはあまりにも危ない。
もう少し歩いてみよう、そう思い鞄を持ち直す。
「……やっぱり調べておけばよかったかな」
こんな夏休みでもない、中途半端な時期に学校を休んでまでここに来たのだから、もう少し調べておけば良かったと後悔した。
夏梨はこの村へ来たかったのではない、どこでも良かったのだ。
自然が多く、心が休まる所なら、どこでも。
一番家から距離が近かった自然が多いこの村を、夏梨は選んだだけのことだった。
そこまでする理由が、夏梨にはあったから。