一話
まだ昼下がりの頃。
がさりと、何かが動いた。
村と同様、狐の住む屋敷は木に覆われている。
その草や木が生い茂った森の一角で、不自然な音が立つ。
「見えるか……?」
「あぁ。でも……」
動く人影は二つ。
二人の目は屋敷を挟むようにして作られた庭へと注がれていた。
「あいつ、か」
一人の男が双眼鏡を下ろし、考えるように口を開く。
大きな庭で小さく動き回る二人と笑っている少女。つい先日、狐へと生け贄に捧げられた娘だ。
鞠を使い、楽しそうに遊んでいる双子の狐と少女。
狙いを定めるように凝視し、隣にいる少年に目をやる。
その少年もまた、射るような目で少女を見詰めていた。
けれど、男とは違う思いが瞳に宿っていた。
憎しみや憎悪。
それを隠すことなく、少年は歪に笑う。
「おい、本当に……」
相手は年下だ。
自分よりかなり年下の少年。しかし、それは見た目だけの話。
中身や考えていることは、とても少年の年齢には合わなく、酷く歪んでいる。
この村で一番心に憎しみを抱えているであろう少年に、男は怯えた視線を向ける。
「やるに決まってるだろ? そのために、ここまで来たんだ」
そんな男を鼻で笑い、栗色の柔らかな髪をなびかせ鋭く瞳を細めた。
「待ってろよ」
低い声が、木の葉が舞う大気を揺らした。