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月夜の空  作者: みづき
三章 消え願うもの
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三話

「きゃあっ……!?」

 目覚めた瞬間、唇を割ったのはちいさな悲鳴だった。

 夏梨はなぜ、こんなことになっているのかと、覚め始めた頭で考える。

 寝返りをうとうとしたとき、ずしりと何かがのしかかる重みを感じ、ゆっくりと目を開くと目の前には双子がいた。

 その時の体制のまま、夏梨は硬直していた。

「人の顔見て悲鳴ってひどいなー」

 頬を膨らませ、固まっている夏梨の上から降りる。

「せっかく起こしに来てあげたのにー!」

「え……あ、ありがとう」

 我に返った夏梨は時計を見てぎょっとした。

 時間を指し示す針は、午後一時を指していたのだ。

 昨日あまり寝付けなかったからといって、ここまで寝てしまうとは。

「夏梨! ご飯食べたら遊ぼー!」

 時計を見て項垂れている彼女に、陸斗が白く柔らかな尻尾を振る。

 隣りで同じように笑う海斗の手には、鞠のような物が包み込むように握られていた。

「うん」

 微笑んで頷く夏梨に、双子は嬉しそうに顔を見合わせた。

 夏梨はぐっと伸びをし、ほっと息をつく。

 そして布団をたたみ、服を着替えて廊下に出る。

「おはようございます。夏梨様」

 大広間へと進む途中で、何枚かの布を持った梶がいた。

 律儀に御礼をし、挨拶をする梶に慌てて頭を下げる。

「す、すみません……! こんなに、寝てしまって」

 ほのかに顔を赤らめながら謝罪する夏梨に梶は苦笑し、

「いえ、気にしないでください。それよりも……お食事、いかが致しますか?」

 と顔を覗き込むようにして言った。

「はい、いただきます」

「わかりました」

 背を向け去っていく梶を見送り、大広間へと入る。相変わらず広々とした大広間。

 夏梨は何かを探すように視線を動かし、小首をかしげた。

 凛がいないのだ。

「あれ?」

 てっきり大広間にいると思っていた凛の姿はどこにもなく、寂しそうに置かれる座布団がやけに目立った。

 そろりと進み、ひとつの座布団を引っ張り腰を下ろす。ひとりでいる大広間はどこか悲しげな雰囲気が漂い、あまり居心地が良くなかった。

 もう一度辺りを見回そうと首をひねったとき、おぼんを持ってきた梶と目が合う。

「どうかしましたか?」

 ゆっくりと食事が乗ったおぼんをテーブルに置き、怪訝そうな顔で聞く。

「いえ、ありがとうございます」

 小さく首を振り、箸を受け取って温かなご飯を口に運んだ。

 ほのかな甘みが口に広がった。


 食事が終わったのと同時に双子が大広間に押しかけ、夏梨の手を取って庭に出た。

 夏梨の知っていた庭は凛が手入れした庭であり、そこで遊ぶと聞いてぎょっとしていた。

 だが、この屋敷に庭は二つあり、屋敷を挟むようにして作られた庭の片方は、こうやって遊ぶために作られたものらしい。

「ここで遊んでるんだよ」

 広々とした庭は、いつも二人で遊んでいるという双子には大きすぎるのではないかというほどだった。

 得意げに胸を張る二人は、白く生えた耳を動かし、円を書くように回る。

「ね、遊ぼう!」

「うん、何して遊ぶの?」

 夏梨の問いに、手に持っていた鞠を差し出す。

 凝った作りの鞠は、色とりどりの柄で作られていた。

「じゃあ――あれ? 凛だ」

 海斗が首をひねり、小さくつぶやく。

 つられて夏梨も視線を動かし、佇む凛を視界に留めた。

「凛も遊ぶ?」

 陸斗の言葉にちらりと夏梨を見、少しの間をおいて踵を返した。

「あっ……」

 とっさに発した夏梨の声にも反応しなく、からりと下駄の音を立て、屋敷の中に消えていった。

 嫌われているのでは、と、ふと思った。

 今からしてみれば、凛は自分と会えばいつもどこかへ足早に去ってしまう。

まるで、その場所に、自分の近くにいたくないというように。

 凛にとって自分は生け贄だ。

 それならば、早く――。

「人が嫌いなんだよ」

 夏梨の心を見透かしたかのように、海斗が口を開いた。

「だから、そんなに気にしないで」

 安心させるように笑うその顔は、どこか悲しそうだった。

「人が、嫌い……?」

「……うん。凛はね、人が嫌いなんだ。だから夏梨にあまり近づかないし、話さないようにしてるんだと思う」

 人が嫌い。

 だから、自分には近づかないように、話さないように。

 それが本当なら、初めて会ったときに説明をしてくれてたのは、きっと無理をしていたのだろう。

 無理をして、自分と話して――。

「どうして?」

 小さく吐き出された言葉に、双子は顔を見合わせる。

 それから少し考えるように眉をしかめ、顔を上げた。

「それは……僕達の口からは、言えないかな」

「うん、ごめんね。凛から聞いて?」

「そっか……うん、わかった」

 双子の言葉に、ちいさく頷いた。

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