死ね死ねマンの精神病患者救済物語
「グハハー! お前ら全員『皆生かし』にしてやるぞお!!」
世の中には、人々の平和を脅かす、悪い怪人がたくさんいる。
と言っても、この怪人が悪い怪人かどうかは、見ている皆さんが、各々の倫理観でもって判断していただきたい。
この怪人は、人のことを無理やり「生かす」怪人・イキロードである。このイキロードという異形の怪人が、今、日本中で出現しているのだ。
「キャーー! 生きたくないー!」
周りの人は怪人から逃げ惑う。イキロードは全く人を殺さずに、逆に人を生かして健康にしてしまう怪人なのだが、現代、2050年の日本人は皆鬱病患者で希死念慮があるため、イキロードは悪の怪人として扱われるのだ。
「痛ッ!」
そのとき! 一人のいたいけな少女がイキロードの目の前でつまづいてしまったのであるッ!
「グヘへへ、まずはお前から生かしてやるゥーーー!」
怪人が襲い掛かるッ!
「キャーー―! 助けて教祖様ーーーー!」
そのとき、助けを呼ぶ少女のかわいそうな声に、一人のヒーローが駆け付けた! 登場と同時に、イキロードを殴り飛ばしながら、男は登場する。
「ウう……痛え……。俺のことを殺す気か!」
怪人は痛みを訴えるが、男は一切意に介さず、怪人を殴り続ける。
「ぐは……、く、やめろオオオオオ!」
怪人は反撃するが、それを男はひらりとかわし、ジャンプで近くの家の屋根に飛び乗る。男は白いローブを纏った、黒髪で無精髭を生やした若い男だった。
「はーっはっはっは! 人を無理やり生かす無惨な『人生かし』め! 俺が救済してやるぞ!」
男はまさに、後光が指しているかのような輝きを放っている。それを見て、周りの人々は逃げるのをやめ、彼に跪く。
「ああ……、教祖様!」
「教祖、死ね死ねマン様だ!」
「教祖様! 私を殺してえーーー!」
教祖、と呼ばれるこの男の正体は、正義のヒーロー死ね死ねマンである。今、日本で絶大な信者数を誇る新興宗教『死ね死ね教』の教祖であり、イキロードに対抗して戦うヒーローとしても活躍している。
「フン、人の命をむやみに奪う死ね死ねマンめ! 俺が絶対に生かしてやるぞー!」
イキロードは屋根の上の死ね死ねマンにとびかかる。
だが今度は死ね死ねマンもかわさずに、真正面から受けて立つ。死ね死ねマンは見事にイキロードの腕をつかみ、そして
「死ね死ねチョップ!」
掴んだ腕を、切断した。
「グハああアアアアアア!!!」
イキロードはあまりの痛みに悶え苦しむ。急に両腕を失ってしまい、戦う気力を完全に失ってしまったようだ。その様子を見て、死ね死ねマンは哀れみの表情を浮かべる。
「ああ……、一撃で葬り去ることができなくて申し訳ない。しかし、これで分かっただろう。生きるということは痛くて苦しいことなんだ。そんな苦しみから、俺は人々を救済してあげたい。ただ、それだけなんだ。」
彼は怪人に微笑みながら、そう言った。
このとき、怪人は気がついたのだ。生きるのがどれだけ愚かで辛いことか。そして、このお方がどれだけ尊い人物かを。
「教祖様、私は今、悔いております。死にたがっている人々を無理やり生かそうとしていた自分の愚かさに気がつきました。こんな私でも、救済を受けることは可能でしょうか!」
怪人は涙ながらに懇願する。それを、教祖は温かい笑顔でもって答えた。
「一度死にたいと思った瞬間から、君は死ね死ね教の敬虔な信者さ。君には飛び切りの安楽死を授けよう! 君たちも来なさい!」
彼がそう言うと、先ほどまで逃げ惑っていた人々は皆、怪人のもとに集まった。全員集まったその瞬間から、死ね死ねマンの目が七色に輝き始める。
「おお……、教祖様の『死ね死ねビーム』だ……!」
「やっと死ねる……!」
「教祖様バンザーイ!」
「死ね死ねマンバンザーイ!」
人々はやっと死ねるということで、喜びに満ち溢れている。万歳の声がついに止んだそのとき、死ね死ねマンの目には、完全にエネルギーが充填された。
「敬虔な信者たちよッ! 今までの人生お疲れ様ッ!」
そして彼は必殺技名を叫ぶ。
「『死ね死ねビーム』ッッ!!!」
目から、七色の光線が放たれる。
光線に当たると、人間は塵のように粉々になっていく。しかしそこに痛みや苦しみはない。あるのは、苦しみばかりの人生にやっと終末が訪れる、満足と幸福だけだった。
「ありがとう……教祖様……」
*
ビームが終わる頃には、町が一つ消し飛んでいた。
ビームは大木のような太さと、大砲のような威力で多くの人を救済した。死ね死ねマンは、あれほどのビームを撃ったのは久しぶりで、流石に疲れてしまい、かつては町だった残骸の上で倒れ込んだ。
「はあ疲れた! 死にたいな!」
死ね死ねマン……、いや、世間に揉まれて生き、疲弊しきった日本人男性はそう呟いた。
西暦2050年、現代日本人は全員が鬱病患者となり、三大欲求は低下し、人口は減少の一途を辿っていた。
皆が当たり前のように抱える希死念慮、しかしそれを実行に移す勇気がない、そのような迷える子羊を導くために、一人の男が新興宗教を立ち上げた。
死ね死ね教教祖、死ね死ねマンは、今日も人を救済する。
あたまおかC




