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彼女のすべてを受け入れた日

作者: 雨日
掲載日:2025/10/07

オレは気づいていた。


義理の兄が来訪すると知り、妻が怯えたことを。


だが、なぜ彼女がそこまで震えているのか――この時のオレには、まだ分からなかった。


冷たい朝の光が、木の廊下を照らしていた。


髪に触れる妻の手がわずかに震えていたが、

オレはそれを「体調が優れないのだろう」としか思わなかった。


無理をしてでも、笑おうとしていた。


その笑顔の意味を、オレはまだ知らなかった。



朝の食堂には、柔らかな光が差し込んでいた。


香り高い茶が湯気を立て、銀の器にはりんごの砂糖漬けが並ぶ。


普段と何も変わらぬ朝――のはずだった。


「遅くなりました」

静かな声が扉の向こうから響く。


振り向いたオレは、息を呑んだ。


目の前に現れたのは、2ヶ月前に政略で結ばれた妻。


白いドレスに、淡い紫の刺繍。


高く結い上げた金の髪に、ピンクの飾り櫛が光っていた。


それは、オレが贈ったものだった。


ーーピンク色も似合う。


まるで、最初の夜のように美しかった。


・・・いや、あの時よりもずっと美しく見えた。


もっと、彼女を褒めてあげたい。


けれど、上手に言えない。


「身体は大丈夫か」

ようやくそれだけ言葉にした。


「大丈夫です。ご心配をおかけしました」

微笑んだ唇が、少しだけ震えていた。


何かを隠している――そう思った。


しかし、その時、家臣が駆け込んできた。


「ゼンシ様、到着されました!」


オレは小さく息を吐く。


今日は、妻シリの実の兄――ミンスタ領の領主ゼンシがこの小さなレーク城に来訪する日だった。


あの強大な領の長が、わざわざこの貧しい辺境まで足を運ぶ。


城中の者たちは朝から慌ただしく、食堂も玄関も緊張の空気に包まれていた。


シリの体調は気がかりだった。


だが、今はそればかりを案じている余裕はない。


領主として、夫として、まずはこの訪問を乗り切らねばならなかった。



扉が開き、重い足音が響いた。


黄金色の髪、鋭い青の瞳。


ーーさすが、シリの兄上だ。


似ている。


容姿だけではなく、雰囲気も。


堂々たるその姿に、周囲の空気が張り詰める。


「義兄上、お待ちしておりました」

オレは深く頭を下げた。


その背後で、衣擦れの音がする。

視線を向けると、シリが一歩前に出ていた。


どこか怯えを押し隠すように、微笑んでいた。


「兄上・・・お久しゅうございます」

かすかに震える声。


その声を聞いた瞬間、胸の奥で何かが引っかかった。


だが、それが何なのか、まだ分からない。


ゼンシ様は静かに歩み寄り、シリの前で足を止めた。


じっと、シリを見つめ、長い沈黙。


「・・・髪は、下ろした方が似合う」

そう囁いた彼の声が、異様に低く響いた。


その瞬間、シリの肩がわずかに震えた。


オレはただ見つめることしかできなかった。


目の前で交わされる兄妹の距離が、なぜか不自然に近く感じた。


「青色が似合う」

ゼンシ様は、シリの飾り櫛に一瞥をくれた。


その指先が、まるで頬に触れるかのように動く。


不快なざらつきが胸に広がる。


だが、立場上、口を挟むわけにもいかない。


「・・・後で話そう」

ゼンシ様はそれだけ言い残し、視線をオレに戻した。


「グユウ、元気にしていたか?」


オレは頷いた。


彼の眼差しには、何かを計算しているような冷ややかさが宿っていた。


その時、ふと気づく。


シリの瞳が、わずかに潤んでいることに。


けれど、それが恐怖なのか、悲しみなのか、愛情なのか――オレには、まだ分からなかった。




ゼンシ様が到着してから、重臣たちを集めて会議が開かれた。


会議と言っても、実質はゼンシ様が一方的に予定を伝えるだけだ。


「これから国王陛下に挨拶へ向かう。そのために街道を開放してほしい。

それと、道中の宿の手配を頼む。さらに、物資の一部をミンスタ領に預けてほしい」


その声には、命令とも取れる威圧があった。


ーー誰も逆らえない。


シリが嫁いだことで名目上は“同盟”になっている。


だが実際は“臣下”に近い形だった。


夕食のあと、ゼンシ様がふいに言った。


「明日の朝、シリと二人きりで積もる話をしたい」


まるで、シリが自分の戦利品であるかのような言い方だった。


その言葉に、胸の奥がざらつく。


だが、それを顔に出すわけにはいかない。


「二人でゆっくり話せる部屋の提供を頼む」


そう告げるときの顔つきも、命令を下すようなものだった。


ーー逆らうことなどできない。


オレは黙って頷き、重臣のジムを呼び寄せる。


「シリに伝えてきてくれ」


ジムが去ったあとも、しばらく席を立てなかった。


手の中のカップの中身――リンゴジュースは、すっかりぬるくなっていた。


それでも、口をつける気にはなれなかった。


甘い香りが、やけに胸に重かった。



その夜は、ゼンシ様のもてなしに追われ、シリの顔を見ることができなかった。


ーー普段なら、シリの顔を見つめ、艶やかな髪を撫で、その身体を寄せることができるのに。


ゼンシ様の準備に追われ、もう三日もシリと夜を過ごしていない。


翌朝、鍛錬場へ向かう途中、ふと視線の先にシリの姿を見かけた。


長い金色の髪を風になびかせ、青のドレスに身を包んでいる。


背筋を伸ばしたその姿は、まるで戦へ向かう戦士のようだった。


その時、オレは初めて思った。


――シリは、何かを隠している。


だが、それが何なのかに気づくのは、ほんの数刻後のことだった。



レーク城のホールには、朝だというのに人が慌ただしく行き交っていた。


ゼンシ様が突然、「今すぐ帰る」と言い出したのだ。


昨夜、遅くまで宴を開いていたミンスタの家臣たちは、まだ寝ぼけ眼で騒ぎの理由を掴めずにいる。


誰かが小声でつぶやいた。


「なんで、こんなに早く・・・?」


オレも同じ疑問を抱いていた。


ーーなぜ、ゼンシ様はこんなにも落ち着かない様子で帰ろうとしているのか。


「義兄上、もうお帰りですか?」

戸惑いを隠しきれずに声をかける。


ゼンシ様は一瞬だけオレの目を見た。


その視線には、かすかな焦りが宿っていたが――次の瞬間には、いつもの威圧的な笑みを浮かべていた。


「急用ができてな。早々に戻ることにした」


「せめて朝食だけでも・・・」

言いかけたが、その横に、青いドレスのシリが静かに入ってきた。


髪を下ろし、どこか張りつめた笑顔を浮かべている。


「兄上・・・お気をつけてお帰りください」

まるで、舞台の上で台詞を読み上げるかのような声だった。


オレはその笑顔に違和感を覚えた。


けれど、人前で口を挟むわけにはいかない。


ゼンシ様は軽く手を上げただけで、

「世話になった。――また逢おう」

それだけを言い残し、早足でホールを出て行った。


まるで、何かから逃げるように。


しばらく誰も言葉を発せず、

宴の後のような、重たい空気だけが城内を満たした。


オレは城で働く者たちに感謝の言葉をかけ、準備に奔走してくれたことを労った。


その姿を、少し離れた場所からシリが見つめていたのを、オレは気づかなかった。


ほんの三十分前まで、何が起きていたのか。


オレはまだ、何も知らなかった。



家臣たちは安堵の息をつき、侍女たちはようやく緊張から解き放たれたような顔をしている。


だが、オレの胸には重いものが残っていた。


――なぜ、義兄上はあんなにも急いで帰ったのか。

なぜ、シリはあの笑顔を浮かべていたのか。


考えても答えは出ない。


胸の奥がざわつくのを感じていた。


そこへ、重臣ジムが駆け込んできた。

息を切らし、顔は血の気を失っている。


「・・・グユウ様」

低い声で呼ばれた瞬間、胸騒ぎが走った。


「何かあったのか」


「・・・シリ様が、東側の部屋で・・・」

ジムは一瞬、言葉を飲み込み、震える指で一枚の羊皮紙を差し出した。


手に取ると、そこには短い文が並んでいた。


粗い筆致で、ところどころににじんだインク。


読み進めるうち、呼吸が浅くなっていく。


――ゼンシ様、シリ様に接近し、口づけを試みる。

――シリ様、ナイフを手に取り、自らの首に当てる。

――両者、言葉を交わし、最後は和解に至る。


たった三行。

けれど、その背後にどれほどの恐怖と絶望があったのか、想像するだけで胸が焼けた。


「・・・これは」

声にならなかった。


ジムの顔が歪む。


「シリ様のご指示で、記録を残しました。・・・隠し部屋から、すべて見届けました」


その言葉に、手が震えた。


「・・・これが、すべてか」

オレの声がかすれる。


ジムは逡巡ののち、もう一通を取り出した。


「・・・下書きがございます。そこに詳しく・・・書いております」


オレは受け取った下書きを震える手で開く。


そのすべてが、あの場にあった真実を物語っていた。


報告書を丁寧に畳み、胸の内ポケットにしまう。


そして、最初の一枚を握りしめ、くしゃりと丸めた。


「・・・誰にも言うな」

短くそう告げると、ジムは深く頭を下げた。


手の中の紙は、汗でしっとりと湿っていた。


その重みは――シリが抱えた秘密の重さそのものだった。


「シリ様は・・・死ぬ覚悟があったと思います」

ジムの声が遠くに聞こえた。


「シリはどこだ」

立ち上がった瞬間、椅子が倒れる音がした。


「外へ出かけたのをお見かけしました」


その言葉を聞いた瞬間、オレの身体は勝手に動いていた。


廊下を駆け抜け、階段を降り、玄関を飛び出した。


ただ、シリの元へ。



息を切らせ馬場に着いた時、風が静まり、空気が澄んでいた。


陽光に包まれて、シリが立っていた。


青いドレスの裾が風に揺れ、金色の髪が朝の光に溶けていく。


その姿は――戦場に立つ兵のようだった。


「シリ」

声をかけると、彼女がゆっくりと振り向いた。


「・・・グユウさん」

その声が震えていた。


「オレに話したいことはないか」

息を整えながら、静かに問いかけた。


長い沈黙。


「シリ・・・その・・・ゼンシ様とは・・・」

その先の質問を、オレはできなかった。


うつむいたままの彼女に伝えた。


「シリ、隠すな。オレに甘えてくれ。それが何より嬉しい」


彼女は目を閉じ、わずかに頷いた。


「嫁ぐ二日前、兄に・・・」

その先の言葉は、風にかき消された。


オレは何も言わなかった。


ただ、彼女の顔を見ていた。


泣きそうな瞳。


けれど、必死に立ち続ける強さ。


「シリ、死ぬつもりだったのか」

「はい」


「なぜ」

「兄上にまた奪われるくらいなら、死んだ方がましです」


その答えに、胸が締めつけられた。


沈黙の中で、風が二人の間を通り抜けていく。


「シリ・・・」

オレはゆっくりと彼女に近づいた。


「もういい。隠さなくていい」

オレはシリの肩に触れようとした。


「優しくしないでください」

シリはオレの手を払いのけた。


シリはオレ瞳を真っ直ぐに見つめる。


ーーなぜ?


どうして?


疑問が胸につく。


「優しくしないでください」

震える声でシリは、もう一度伝えた。


その瞳は、傷つき、震えている。


拒絶するような仕草に胸が痛む。


「妊娠しています」

シリが震える声で告げた。


「2月には子が生まれます」

声が掠れている。


オレは言葉を失い、ただその瞳を見つめた。


ーー子供?


シリに子が宿ったのか?


次の瞬間、彼女の声が馬場の空気を引き裂いた。


「あなたの子かもしれません。・・・兄の子かもしれません」


膝をつき、地面に手をついたシリは嗚咽を漏らした。


その彼女を、オレは抱きとめ、手を握る。


「シリ、オレは、嬉しい」


「・・・どうして? 父親はわからないのに」

涙に濡れて俯く彼女に、オレは少し笑って答えた。


「オレの子かもしれない」

「でも・・・!」


「回数なら、オレの方が多い」


シリは呆れたように目を瞬かせた。


「シリが産めば、それでいい。どんな子でも、オレの子だ」


その時、初めて彼女が顔を上げた。


「子供はシリに似てほしい」

オレはシリの顔を見て伝える。


「きっと可愛いはずだ」


ーーシリのお腹に子がいる。


その事実は、喜びをオレに与えてくれた。


普段、錆びついて動かない顔が、喜びで崩れた。


オレの顔を見て、シリは小さくつぶやいた。


「・・・そんなふうに、笑うんですね」


ーー笑った顔を誰かに見せるのは初めてだ。


オレを変えてくれた人が目の前にいる。


その彼女の頬に触れた。


涙が、指の上に落ちる。


「口づけしたい。いいか」


「・・・どうして聞くの」


「お腹の子に・・・悪いかと思って」


その言葉に、彼女は笑った。


「大丈夫ですよ。私は一週間前まで馬に乗っていました」


唇を寄せる。


触れた瞬間、世界が溶けていった。


長い口づけのあと、オレは彼女を抱きしめた。


「生きていていれば、それでいい」

「・・・はい」



「城に戻ろう」

「お腹、空きました?」

「あぁ」


自然に、彼女の手を取った。


「大丈夫です、一人で歩けます」

「・・・危ないだろう」


シリは小さく笑い、オレの手を握り返した。


城へ戻る道、陽が高く昇っていく。


シリの言葉を聞きながら、胸の奥で何かが静かに崩れ落ちていった。


シリを傷つけたゼンシ様への怒りは確かにある。


だが、それ以上に――シリが生きていることが、何よりの救いだった。


この世で、こんなふうに想えた女は他にいない。


過去に何があってもいい。


子の父がオレでなくてもいい。


それでも、この人を守りたいと思った。


シリを包むその光の中で、オレは心の底から思った。


――この手を、もう離さない。



城の玄関前で立ち尽くしていたジムは、オレたちの姿を見て安堵の表情を浮かべ、迎えに出た。


「昼食の用意ができています」


昼食はゼンシ訪問のために頑張ってくれた家臣達、侍女、女中、馬丁、城中の者を集めて労を労った。


気さくな雰囲気の中、皆が笑い、食べ、飲み、語った。


ふと、静寂が訪れる。


自分が立ち上がったからだ。


「皆に知らせたいことがある」


数十の視線が一斉にこちらを向いた。

喉が少し乾いた。

だが、伝えるべきことは一つだけ。


「シリに子ができた。来年の二月に産まれる」


一瞬、場が凍りつく。


次の瞬間、歓声が湧き上がった。


ジムは一瞬にして若返ったようだった。


「グユウ様、本当ですか」


「あぁ、本当だ。医者に診てもらった」

オレはシリを横目で見る。


シリが照れたように顔を伏せ、こほんと咳をした。


「・・・そうです」

それだけ言って、小さくうなずいた。


オレはその姿を見つめながら、静かに息を吐いた。


シリが、少し顔を上げてこちらを見た。


頬が赤く、目の縁が濡れている。


その愛おしい顔を見ると、微笑みが自然にこぼれた。


錆びついた心が、ようやく動いたような気がした。


「どうして、こんなに早く発表したのですか」

シリは思わず唇を尖らす。


シリの可愛い文句に、オレは目を細めて告げた。


「喜ばしい事は皆に早めに伝えるべきだ」


その瞬間、シリの顔は嬉しさでほころんだ。


「シリ、二月が楽しみだ」

オレの声は弾んでいた。


――彼女が生きていてくれる。


それだけでいい。


この命を賭けても、オレはこの笑顔を守る。



宴が終わり、開け放たれた寝室の窓から、夏の夜のさざめきが静かに流れ込んでいた。


遠くでは宴の余韻が残り、時折、笑い声や話し声が風に乗って届く。


窓辺に立つシリの背に、オレは、ためらいながら声をかけた。


「シリ・・」


振り返った横顔は、どこか遠くを見ているようで、胸が締めつけられる。


「いろいろあると思うが、ワスト領はゼンシ様に協力する」


「ありがとうございます」

シリは力強く頷いた。


「ミンスタ領とワスト領の架け橋になる。それが、私の役目です」


その言葉を聞きながら、オレは静かに言葉を重ねた。


「ゼンシ様は、素晴らしい領主だ」


その瞬間、シリの表情が歪む。


「領主としては、素晴らしい人です」

その声には硬さがあり、凍るような痛みがにじんでいた。


オレはそっと背後から彼女を抱き寄せた。


「シリが・・・あのまま命を絶っていたらと思うと、怖かった」

喉が熱くなり、言葉が掠れた。


「オレは、シリが生きていてくれるだけでいい。何もいらない」


シリがゆっくりと振り向く。


その瞳には、憤りと悲しみが交錯していた。


「・・・私は、気にします」


「兄は衝動的に私に手を出しただけです。

家臣の妹や乳母にも・・・私も同じように見られていたんでしょう」


「それはない」

オレはかぶりを振った。


「結婚の話を聞いた時から、ゼンシ様はシリを大切にしていると感じていた」


シリはその言葉に、思わずオレの腕を振り払った。


「どうしてそんなに落ち着いていられるのですか?

私のことが好きなら・・・兄上のこと、憎くないのですか?」


胸が痛む。

それでも、落ち着いて答える。


「もちろん、面白くはない」

「嫁入り前にゼンシ様が行なったことには、憤りを感じている」


「だったら・・・なぜ?」

シリの声音は激しく鋭かった。


オレは、ズボンのポケットから羊皮紙を取り出した。


「ジムの記録だ」


シリの表情が固まる。


「この記録を読んで、オレは気づいたんだ」


シリが不思議そうな顔で、オレを見つめる。


「これは・・・シリからの恋文のように感じた」


「えっ・・・」

シリが驚いた表情をした。


「この中でシリは、オレのことを何度も語っている。

『結婚できて幸せ』『あの人のような方は他にいない』・・・そう書かれていた」


彼女は顔を伏せ、小さく肩を震わせた。


その姿に、たまらない愛しさが込み上げた。


「シリが今、オレを好いているのなら、何も問題はない」

オレは静かに言った。


「シリ」

名を呼ぶと、彼女がゆっくり顔を上げた。


外では風が湖面を渡り、カーテンの裾を揺らした。

その音が、二人の間の沈黙を優しく埋めていく


彼女の瞳は濡れて、月の光を宿していた。


「・・・私は、あなたを・・・好いています」

震える声で、シリは告げた。


「オレも、だ」


その瞬間、夜がほどけるように静まり返った。


重なり合った手が、互いの鼓動を確かめる。


月明かりの中で、二人の唇は静かに重なった。


――政略で結ばれた夫婦は、もはや政略ではない。


秘密も過去も、すべてを受け入れて、ただ「今」を生きる。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この短編は『秘密を抱えた政略結婚』本編のスピンオフで、

グユウ視点によるエピソード(第11作目)です。


短編だけでもお楽しみいただけますが、

本編を読むと二人のすれ違いや政略の背景がより深く伝わります。


本編はこちら

『秘密を抱えた政略結婚 〜兄に逆らえず嫁いだ私と、無愛想な夫の城で始まる物語〜』

(Nコード:N2799Jo)

https://ncode.syosetu.com/n2799jo/


完結済み、政略結婚から始まる恋と戦と家族の物語です。



そして、この短編を気に入ってくださった方へ。


短編をまとめた連載版『<短編集>無口な領主と気丈な姫の婚姻録』も公開中です。

https://ncode.syosetu.com/N9978KZ/


※この短編も、1週間後に短編集に追加予定です。

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