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第六話 開始

 街の活力がみなぎり始める昼前――この時間帯になっても目を覚まさない少女が一人。

 街は祭りを前にして、以前よりも大きな盛り上がりを見せている。

 

 その喧騒(けんそう)と、窓の隙間から入り込む涼やかな風に目を覚ますアラヤ。

 寝ぼけ(まなこ)で部屋の時計に目をやると、針は十一時半を指していた。

 

「寝すぎたかな…」

 体を仰向けにしたまま呟く。

 

 昨夜は、 01 達と長く語りつくし過ぎた。盛り上がるうちに時間を忘れ、気づけば夜明け前まであの場で語らっていたのだ。

 ただ、人探しの疲労も相まって、宿に戻るなり布団にくるまり、気絶するように眠りこんだ。

 

「うぅ…体が重い…」

 眠りに就いた時の体勢が悪かったのか、身体を起こしたときに少し腰が痛んだ。

 

 今日は特に予定もない。そこでせっかくなので、昨日いけなかった図書館を今日行こうと考えている。

 アンディの分裂という魔法の事も気になるし、エストリアの魔法技術についても調べたいことがある。情報は多く仕入れていて損はない。これからのためにも。

 

「…でも、もう少しくつろいでから行こうかなぁ」

 と、起こした体を再びふかふかの寝床に身を落とす。

 

 身支度を済ませて宿を出たのは昼をすこし回った頃――時計が十三時を示す頃だった。 

 

 初日に初めて出会った男の子の道の案内を思い出して、図書館へと赴く。

 とはいっても。宿泊施設〈フロフロ〉の目の前の通りを西回りに進むだけでいい。ほどなくすると男の子の言っていた通り、左手に他の建造物と一線を画すような大きさのレンガ造りの建物が見えてきた。

 

 建物の中央上方には大きな時計がこしらえられており、その貫禄(かんろく)のある見た目は街の中央にそびえたつ時計塔を彷彿(ほうふつ)とさせた。壁のレンガ造りはところどころ黒ずんだり、色あせていたりと年季が入っており、この建物が歩んできた歴史を思わせた。

 

 作戦決行までの三日間、魔法研究の本場の図書館で過ごせるという状況に少し胸が躍っていた。

 

 滞在初日で事件に出会い、二日目でその解決に乗り出した。

 三日目にして自由な旅人としての時間を過ごせる。

 別に今回の件に巻き込まれたことに対して、なにか思うわけではない。寧ろ人助けと経験を積むという点に関しては当初の旅の目的と合致している。

 しかし、旅人として故郷を出たのは縛られず、自由に行動できるというのも一つの動機だ。

「だからこういった時間も大切にしたいよね」などと心の中でぶつぶつ言い訳するようにつぶやく。

 

 図書館の中は外とは違い、温かな木造づくりだった。

 紙の独特なにおいと、懐かしさを刺激する木材のにおいが心を落ち着かせる。ここなら、何か掴めるかもしれない――そんな予感が胸をくすぐった

 

 さっそく、新たな知識との出会いを求めて知の探究の旅に出向いていくのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ――作戦決行当日

 

 アラヤはこれまでの間、何も観光や図書館通いだけをしていたわけじゃない。事前に護衛をしてほしい旨を伝えられていたので、街の離れで、時間を見つけては魔法の練習や軽くランニングしていた。なので、身体がなまって動けないなんてことはないと自負している。

 

 そして今日。アラヤは今、二日目に 01 と話した場所。例の離れの広場へと訪れていた。傍らには男の子―― 01 だ。

 ここから祭りの中心の泉までは、街を挟んで反対側にあるけれど、風に乗って街の人が賑わう声が聞こえてくる。

 

 01 の仲間の男の子たちの大半は祭りの会場で案内や店員として配置されているらしい。

 そして、 01 はアラヤにこの作戦の概要を話し始める。

 

「これから僕たちは、あの時計塔の地下に行きます。」

 そう時計塔のある方角を指さしながら真剣な顔をしてアラヤに話す。

 

「地下? あの時計塔に地下があるなんて知らなかった。」

 

 アラヤは図書館などでエストリアの街に関しての資料を読んでいた。その中には時計塔に記されているものもあったが、地下に言及されているものはなかった。

 つまり、それは一般公開の資料に記せない極秘の存在なのだろう。

 

  01 に対して「なんで地下があると知っているの?」なんて野暮なことは聞かない。

 

「はい、地下は存在します。そこには僕らの悲劇を隠す原因になった”魔法技術”が存在しています。僕たちはそれを逆に利用して、僕の記憶を大衆に共有し、真実を明るみにする。それが今回の目標です。」

 

「そんなことができるの?」

 

「できます。これはアンディが地獄のような日々を過ごしていた時に同時に極秘に開発されていた技術。広範囲の人間の記憶や思考に作用し、特定の思想を植え付ける魔法を発動させるのです。今、この街の人は外部の人間も含め、僕たちの存在に違和感を持たないように思考を操作されています。」

 

「ちょっと待って。その情報は正しいの? 確かに、この街の人は奇妙なほど君たちの存在に違和感を持っていないけれど、私は?」

 不意に聞かされた信じられない情報に耳を疑ってしまう。思いついた疑問を 01 に投げかける。

 

「アラヤさんがこの魔法の影響を受けていない理由は分かりません。ですが情報は確かです。研究所にいる協力者の情報というのもありますし、16年前にアンディが責任者から耳にしたという話を覚えています。」

 

「分かった。それじゃあ、どうやってその時計塔の地下に行くの?」

 

 01 の話からすると、部外者が簡単に侵入することはできないはずだ。

 

「研究区域内部の協力者がその入り口まで案内してくれます。」

 

 なるほど。それはおそらく、 01 に秘密の技術を共有しくれた協力者と同一人物なのかもしれない。

 そして 01 は話を続ける。

「地下からはアラヤさん、あなたに護衛を頼みたいです。」

 

「…分かった、任せて」

 

 その言葉を聞くと 01 は安心したように微笑んだ。

 まだ少し聞きたいこともあるが、時間は有限だ。早めに取り掛かったほうがいいと思い、疑問を飲み込む。

「それじゃ、行きましょう」と、 01 は言い、アラヤと一緒に研究区域に足を向けた。

 

 ――研究区域に差し掛かるころ、周囲の建物が質素なものになりだす。

 先ほどまでいた観光区域には人通りは平時よりも閑散(かんさん)としていたが、極端に少なくなっているほどでもなかった。しかし、研究区域に片足を踏み入れた今、全く人を見かけない。

 

 そして観光区域と研究区域の境界を仕切る金属の敷居版を超えたとき、前方に女性が街灯にもたれかかって、考え込むようにうつむいているのが見えた。アラヤはどこかその女性の容姿に見覚えがあった。

 

 女性はこちらに気づいたのか、顔を上げこちらを見た。アラヤを見るや否や、女性は軽くため息をついた。

「な、失礼だな」と思わず眉をひそめた。ただ、アラヤの女性に対する感覚はその顔を見て過去の記憶と結びつく――昨日、喫茶店で男の子と一緒にいたあの女性だった。ただ髪は後ろでまとめられており、黒縁の眼鏡をかけて、以前より一層知的な印象を強めていた。

 

「あなたが私たちの協力者なんですか?」

 先ほどの女性の態度もあってか、少しだけ語気を強めて聞いてしまった気がする。

 

「そうよ。なにか不満がありそうね。」

 相変わらず表情をほとんど変えずに言う。

 

「そんなことないです。嫌な気分にさせたのなら謝ります。」

 相手も相手だが、せっかくの協力者相手に失礼な態度はよくないと、反省する。

 

「あ、あの! 〈カリスタさん〉今日はよろしくお願いします!」

 アラヤと女性の間に流れる冷えた空気をかき消そうとするかのように、割って話しかける 01 。

 

 この人の名前は〈カリスタ〉というのか、と女性を見ながら(ふけ)っていると、彼女の首から名札が垂れ下がっているのに気付いた。それには〈カリスタ・サビーナ〉と書かれていた。響きがいい美しい名前だと思った。

 

(いろいろと、こう、完璧そうね…)

 

 見た目も美麗で、研究所の職員なら頭もいいだろう。隙が見当たらないその立ち姿に昨日、男の子に見せていた笑顔は人も引き付けるだろう。

 少し尊敬の色がアラヤの目に混じっていることを指摘されたら、彼女は否定できなかっただろう。それほどカリスタという女性は優れている印象を他者に与える。

 

「えぇ。じゃあ着いてきて。」

 そう淡白に言うと、研究区域の奥へと進み始めた。それにアラヤと 01 は続いていく。

 

 やはりというか、人を全く見かけない。元より研究区域は人通りが少ない方ではあるが、この祭りの日に限っては別世界のように静まり返っている。

 歩を進めていくにつれて周囲の建物の間隔は狭まり、圧迫感を増していく。ここの空気感にどこか息苦しさを感じられずにはいられなかった。もうこの研究区域の中心部に入っているのだろう。

 

 いつの間にか時計塔を見上げるほどまで近づいていた。

 目の前には重厚な扉が開かれている。普段は観光地として開放されているため、このように扉が開いていてもおかしくはない。

 

 この時計塔の上層にある展望室からの見渡すことのできるエストリアの夜景は「ルート統一王国百景」のうちの一つに選ばれているそうだ。宿の観光パンフレットでみた覚えがある。

 しかし今目指すのは”上”ではなく、”下”である。

 

 風が時計塔内部へと吸い込まれるように、三人の背後から吹き抜けていく。アラヤたちは内部へと足を踏み入れる。

 内部はそこそこ広く、50人は余裕をもって中に入ることはできるだろう。光源はないのになぜか空間内は淡く光り、灰白の壁に反射している。自然光が入り込む余地はないのでおそらく魔法だろう。中心には上へと続く昇降機が伸びている。この薄い明かりの中、昇降機に入るとなると、昇降機の入り口で躓くかもしれない。

 

 カリスタは無言のまま昇降機の裏へと回り込む。アラヤたちもそれに続く。

 裏手には扉があった。これがきっと地下へと続く入り口なのだろう。

 

 その扉は来るものを拒むように、その入り口を固く閉ざしている。

第六話を読んでいただきありがとうございます!


今回から漸くエストリアの中での話が動き始めた感があると思います。

実生活で少し色々と忙しいので、少し雑な仕上がりになったかもしれません。それでも温かい目で見守ってください、


次回もすぐに上がると思います。

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