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第五話 火を囲んで

 正午を知らせる鐘の音が街にこだまする。

 街の中心――研究区域へと近づくたびに人通りが減り、鐘の音だけが鳴り響く。


 すれ違う人の姿も派手な装いやラフな私服などではなく、所属先を表すような同じ格好をした人や、学者しか着ないような地味な服装の人とすれ違うようになった。いや、地味な服装だからって学者だと判断するのは偏見だ。よくない、と反省しつつ歩く。

 この静けさや人の様子を観察していると研究区域へと近づいている、あるいは既にその内部にいると実感する。


 街並みも観光区域や商業区域ほどの派手さはないが、厳かな空気が漂う。しかし派手ではないが随分と個性的な建物が見える。

 例えば、全面が遮光硝子で覆われている施設や窓一つ見当たらない石柱のような建物――無駄が省かれ”理”を重んじている印象を受ける。


(でも、もう少しこう、外観にも気を使った方がいいんじゃないかな…。)

 などと考えつつ辺りを見て回る。


 研究区域は街の中心に位置しているため、面積自体はそこまで広くない。広くはないといってもすべて見て回るには一日はかかるだろう。小さな喫茶店や料亭などもあったりするが、それ以外の建造物は(いろどり)が少ない。そのため午前中の探索よりも少し気持ち面での疲労が早い気がする。

 この疲憊(ひはい)の原因はそれだけじゃない。午前と同様、01 の仲間が全く見当たらなかった。その成果の無さがアラヤを焦らし、余計疲れを加速させているのかもしれない。


(01 の話からじゃ、もうちょっと街中で見つかってもいいとおもうんだけどなぁ)


 しかしこうも思う。商業施設で男の子らが使役されているように、研究施設内で働いているのであれば外で見つからないのも納得できると。

 じゃあ、どうすれば研究施設内に入ればいいのか。部外者で町に住んでいるわけでもない旅人が研究所に入れるわけがない。秘匿されている技術や研究もあるだろうから、何かしらの方法で内部の者を識別し管理しているはず。例えば、最先端の魔法工学の技術を利用した機械とかで。そう考えてふと思い出す。


(あ、今日図書館行けないじゃん…)


 いままで忘れていた。でもやらないといけないことがある。あの子たちのために今はやるべきことを全力でするだけだ。


 施設内に入る方法を考えても埒が明かないので、今のアラヤができることをする。

 とりあえず、足を使って男の子たちを探しつつ施設内に入る方法を探ること。考えるよりも行動する。アラヤは再度方針を固め、人探しを再開した。


 ――探し回ること二時間ほど。

 この間、通りや点在する店で男の子を見かけることは一切なかった。


 しかし、この区域の人に見学をしたいという(てい)で聞いてみて、判明したことがある。

 部外者が研究を行っている施設内に入ることは基本的に許可されていない。しかし施設内関係者からの招待などがあれば話は別。とのことだった。


 この街には施設内に入るためのコネのある人物などアラヤにはもちろんいない。なので研究所内を探すことは不可能ということが判明した。だからといって、二時間も歩いて男の子が見つからなかった通りを探し回るのもどうかと思う。


(これからの事を考える必要もあるし、少し疲れてきた…。どこか休める場所…)


 そういえば途中、喫茶店を見つけた。そこであれば、じっくりと考えることもできるし、身体を労うこともできるだろう。

 そうと決まれば、記憶を頼りに喫茶店まで戻ろう。


 研究区域の建物はどれも他の区域より高く、圧迫感がある。道は狭いところが多く、石畳の上を歩く音が、周囲の高い建物に反射する。その音がここの静寂をより搔き立てる。

 ただ道を間違えないようにと慎重になっているアラヤにとって、その静寂は気になりはしなかった。


「こっちだっけ、いやこっちだ!」などと一人ぶつぶつ言いながら、うろうろと彷徨っていると、いつの間にか目的の喫茶店に到着していた。外観はなんの飾りっ気もなく、落ち着いた淡い茶色の木造の平屋。大きさとしては、小さな民家一・五戸分の大きさだった。


 中に入ると、白を基調とした単調な内装が広がっていた。これも外観と同様に派手に飾っているわけではないのが、まさに知識だけを探求する研究区域の喫茶店という感じがする。


 店員に案内がされるがままに窓辺の席にほっと息をつく。

 もうすでに昼食は済ませていたし、空腹感があるわけでもない。ただ落ち着きたいと思ってここに来た。メニューを見て〈コヒー〉という、大人の飲み物の代名詞を頼む。

 5分くらいしてから、飲み物が届いた。


(これが、大人の飲み物…苦い)


 あまりの苦さに付属のミルクと砂糖を追加する。いい香りはするのに味は苦いなんて騙したな、と勝手に被害者ぶってみたりしながら甘くなったコヒーを嗜む。

 ふと、あることに気が付いた。店の一番奥の席。アラヤの席から三つ奥の向かいの席に何やら見覚えのある人影が見える。

 後頭部だけしか見えないが、あの背丈と言い、淡い金色の髪といい、もしかしたら探していた男の子かもしれない。


 声を掛けようかとも思うが、まだ確信が持てていないのと、彼の向かいの席に女性が座っているのが確認できた。その女性は、滑らかで艶があり肘まで伸びるきれいな茶髪をしており、額の真ん中で髪は分けられている。面長であごは細く、シュッとした顔の輪郭。目は細く、見つめられたら固まってしまうようなどこか怖い雰囲気を醸し出している。格好は背広姿で、それがよく似合っている。


 どこかの研究所の職員で、男の子の監視役かなにかだろうか。しかし時折、女性の顔が微笑むようにも見えた。もしかしたら、アラヤと同じように人として接している? いや相手がまだ例の男の子だと決まったわけじゃあるまいし。

 色々な憶測がアラヤの頭を駆け巡る。


 それにこれからの探し方も考えなくてはならない。まだ全てを見て回れたわけではないので、探せていない場所に男の子がいる可能性もある。そういえば、ほかのエリアでも同じことが言える。


 どうしようか、どうしようかと逡巡(しゅんじゅん)していると、あの女性と男の子が席を立つのが見えた。

 今一度、少年の顔を深く注視する。


 ――翡翠の瞳。まぎれもない。探している 01 の仲間に他ならない。


 二人は会計を済ませて店を後にした。アラヤも急いで残りの冷め切ったコヒーを飲み干し、会計を済ませて後を追った。


「すみません!」

 息を切らせながら追いついた二人にそう声を掛ける。


「なんでしょう」

 そう口を開いた女性の声はアラヤが抱いていた印象よりもずっと柔らかく暖かい声だった。

 少し緊張がほどけた。息を整えて言う。


「あ、突然すみません。その…隣のその子に用があって声を掛けたんですが」


 女性は男の子を一瞥(いちべつ)し、淡々と答えた。


「そう。――ダメ。それじゃ」


 短くそう言い残し、アラヤから去っていく二人。女性から発されたその言葉は先ほどまでの声とは違い、冷たく感じた。

 去り際に男の子がアラヤに微笑みかけたように見えた。


 アラヤはただ立ち尽くし、去り行くその背を見送る。

 昼下がりの街中。そよ風がその場を吹き抜け、十五時を知らせる鐘の音が静寂を破り、エストリアに鳴り響く。


 それ以降、01 の仲間を研究区域内で見つけることはできなかった。

 西日が傾き、建物の影を長く引き延ばしていく。少年たちを探すうちに観光区域へと抜け、そして商業区域にまでいつの間にかたどり着いていた。その表情には疲労と落胆の色を滲ませていた。とぼとぼと彷徨うように歩き続けることしかできなかった。


 太陽の燃えるような赤色が空を茜に染め上げ、いよいよ沈まんとする頃、アラヤは気づけば街の外縁部の公園のような場所でベンチに腰を下ろしていた。


 (結局二人だけか…。でも、そのうち一人はまともに話せてすらいない。)


 目の前を中年の男性が走り抜けていく。快活に走り抜けていく男性の姿を見て、アラヤは小さくため息を漏らした。

 周囲は次第に暗くなっていく。ベンチ横の街灯は周囲の暗さを検知して明かりを灯す機能を持っているのか、アラヤを照らすように自然に点灯する。 風も冷たくなり始め、木々の隙間を抜ける風が髪を揺らした。


(私はどれほど役に立てたのかな)


 茜色の空を背景に黒い二つの影が飛んでいるのが見えた。

 どこかで「カアカア」と一日の終了を告げるかのように鳴く声が聞こえてきた。


 何もできなかったという忸怩(じくじ)たる思いに駆られていると、背後から

「お疲れ様です! アラヤさん。 01 です。今日はどうでしたか?」


 その声を聞き振り向く。そこには明るい表情をした 01 が立っていた。

 そんな明るい声に言葉が詰まる。どう答えるべきか迷ったのち、


「…ごめん、あまり役に立てなかったかもしれない」


 ほんの少しの沈黙の後、01 は口を開く。


「アラヤさん、あまり落ち込まないでください。あなたは何の得にもならないのに、僕たちのために動いてくれています。それだけでも僕はすごく感謝しているんですよ」


 それに、と 01 は続ける。


「アラヤさんの声掛けはちゃんと効果がありましたよ。みんな着実に動き始めています」


 その言葉に自然にほほ笑みを浮かべてしまう。


「ありがとう。その言葉に少し救われたよ」


「それならよかったです! ――それでは、今日の深夜に昨夜と同じところに来てください!」


 え、深夜?! と声に出しそうになった。顔には出てしまっていたとは思う。

 その表情を読み取ったのか、01 は微笑んで「話したいこともありますので」と手を振って去っていった。


(深夜か…。まあ、日中だと話しにくいこともあるよね)

 と割り切って、ベンチを立ち上がる。

 重い体を引きずるように帰路に就く。しかし、気持ちは次のなすべきことのために向いて、静かな火を灯していた。


 宿に戻ると、寝床に身を投げる。いくら気持ちはあっても、この疲労ばかりはどうにもならない。5時間ほどは睡眠をとれそうだ。アラヤは顔を枕にうずめたまま眠りについた。

 ――目を覚ました時にはもうすでに辺りは真っ暗になっていた。眠る前はまだにぎやかだった街中も、今は闃然(げきぜん) としていた。部屋の時計をみると、深夜を回っている。「しまった、寝過ごした!」と思い、軽く身だしなみを整えて宿を出る。


 アラヤはかなりの方向音痴だが一度通った道はある程度覚えることはできる。昨夜、というか厳密には一昨日の夜だが、01 と話した場所は街から東に少し離れた川の近く。そこまでの道を思い出しながら走っていく。 

 深夜の沈黙の中、アラヤの走る音が際立って辺りに反響する。建物の明かりもなく、街灯だけが頼りの暗い街は昼とは全く別の顔を持っているようだった。


 昨日と同じ街はずれの原っぱ。しかし、部分的に草が禿げ、土の地面が広がっている場所がある。そこが 01 とアラヤが話した場所。

 今日、その場には昨日とは違い、大勢の人が小さな焚火を中心として集まっていた。ざっと見ただけでも百人近くいるのではなかろうか。しかし、その様子は普通とは異なる。服装は違えど全員同じ背丈に、同じ顔をしているのだ。また焚火を取り囲むように集まっているのではなく、四、五人の塊が点在している感じで集まっていた。

 何も知らない人間がこの光景を目にすれば、腰を抜かしおびえるだろう。


 しばらく突っ立っていると、集団の一人がアラヤに近づいてきて


「遅いですよ! アラヤさん!」


「えぇと、01 かな?」


「もう何度も会っているんですから、識別できるようになってください!」

 そう冗談交じりにアラヤに言い、01 はアラヤの手を引いて集団に案内する。


「みんな聞いてくれ!」

 その言葉を聞いて、百人近くの同じ顔の人間がこちらを振り向く光景は、異様でありながらもどこか幻想的だった。


「改めて紹介するよ! こちらは我らが救世主、アラヤ・ナミウチさんだ!」

 周りから「おお~!」とちょっとしたざわめきが起こる。


「えっ、救世主!? ちょっと、大げさに紹介し過ぎだよ!」

  あまりに誇張した 01 紹介の仕方に恥ずかしさと身に余る称号に困惑した。


「いいじゃないですか。僕たちに必要なのは希望とそれによる士気です。」

 そうアラヤに小声で耳打ちする。


 アラヤはあきらめて「よ、よろしく…」と自信の無さがまるわかりな挨拶をする。


 どうやら、今この場には街全体の実に7割の分裂体が集まっているとのこと。そして、残りの仲間は監視の目が厳しくここに来ることはできなかったそうだ。

 今は、「自分たちの存在をどう公にするか」――その作戦の最終確認の最中だというが、内容までは聞かせてもらえなかった。

 01がアラヤに告げたのは、ただひとつ。


「アラヤさんには僕たちの護衛をお願いしたいです」

 護衛? と少し(いぶか)る。それに作戦の全容を教えてもらえないのも気がかりだ。


「それは、構わないんだけれど作戦の内容を教えてもらわないと、私もうまく立ち回れる気がしないよ」


「そうなんですけど、すみません。でも詳しいことはそのうち話します! 僕たちのことを信じてください!」

 そう言われ、疑念は拭い切れないが今は彼らを信用するしかない。


 その作戦の決行は今日から三日後らしい。その日はエストリアにある神聖な泉に眠る女神に感謝をささげる祭りがあるとのこと。

 泉というのは今日アラヤが行ったあの〈眠れる女神の泉〉のことだろうか。

 人々も一か所に集まり、真実を白日の下に晒すには最適な日であるという。


「アラヤ様、さあさあ美味しいエストリアの食料を集めているので今日の決起集会は楽しんでください!」


「さ、様?!」

 いきなりの様呼びに困惑しながら、 01 とは別の個体の〈38(サンハチ)〉と名乗る少年に手を引かれる。夜は冷えるのにこの少年は袖のない白の服を着て、ズボンはところどころに小さな穴が開いてボロボロだ。

 アラヤの哀れみの感情を感じ取ったのか 38 は明るい声でアラヤに野菜と肉が交互に突き刺された串焼きを渡す。


「これ! さっき焼きあがったばかりですよ!」


「ありがとう」


 渡された串焼きはジューシーで、野菜も芳醇な旨味があった。そのようすを見て 38 は嬉しそうにほほ笑む。

 そんな中、ふとアラヤの頭に疑問がよぎった。


「こんなに盛り上がって街の人に気づかれないの? 街から離れているとはいえ、火も焚いているし料理のにおいだってある。話し声だって小さくはないよね。」


「その点は大丈夫ですよ。この火は研究所の内部の仲間から借りた特別な魔力性の火打石を借りて、煙が出にくくなっているし光も抑えることができるんです。それに匂いや音もそれを最小限に遮断する魔法装置を借りています」

 と、01 が説明してくれた。

 なんと驚き。これも魔法工学とやらのおかげなのかな。


「ただ完全に遮断するわけではないので、過度な騒ぎは控えてくださいね」


「安心して、私はそんなにはっちゃけれるような性格じゃないの」

 苦笑いしながら答える。


 その後は、みんなで料理を食べたり、雇い主の愚痴を聞いたり、アラヤの持っているケータイで盛り上がったりと楽しい夜を過ごした。


 宴は一夜限りの賑わいを見せ、これから訪れる試練のためにアラヤたちは絆を深めていくのだった。

第五話を読んでいただきありがとうございます!

今回の話はプロットの段階では四話に入る予定だったのですが、必要だと思った描写や表現を足していくうちに一つの話に収まり切りませんでした。前回同様大きな変化や進行は見られませんし、退屈に感じるかもしれません。そう感じたならまだまだ僕の技量不足ですね。


 今週中にもう一話更新したいのですが、正直危ういです(汗。そう思い、色々勉強したのですがどうやら初期ブーストとやらがあるらしいのを初めて知りました。それに書き溜めというのは盲点でしたね。事前に勉強していたつもりなのですが、まだまだみたいです。

まあでもマイペースに趣味の範疇でやっていくのでこれからもよろしくお願いします!

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