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第四話 発見

 東の空から日が差し込み夜が明ける。

 

 遮光カーテンの隙間から漏れた光が、眠るアラヤの顔を照らす。朝日の眩しさに(まぶた)を震わせ、目を覚ます。

 窓を開けると朝の爽やかな風が部屋に入り込む。その風に乗ってパンの焼けたいい香りがこの部屋に染み込んでいくようだった。外からは街の人々の話し声、店の鎧戸が開く音――この街が目覚め、一日が始まる気配がする。

 

 身を起こしたアラヤの表情には少し疲れの色が残っていた。昨日の出来事が頭に残り、充分に眠ることができなったのだ。分裂という魔法の存在。金持ちに利用された悲劇の少年。そして、アラヤが預かった彼らの願い。

 

 アラヤは朝の気持ちいい空気を吸い込むように深呼吸をして、身支度を始める。時折、昨夜の 01(ゼロイチ) の悲しい表情が脳裏をよぎる。彼の昨夜の気持ちや表情が脳裏をかすめ、胸がひどく重くなった。

 

(でも、今日はあの子たちのために頑張らないと!)

 

 気持ちを切り替え、鏡の前で気合を入れる。

 

 午前は店や通りを中心に彼らを探す。

 商業区域や観光区域となると人が多く、背の低い男の子を探すのは大変だろう。しかしアラヤは特徴的な翡翠の瞳は見逃さない自信があった。

 

 午後からは研究区域へ。01 曰く、研究区域にも仲間がいるらしい。研究区域というと制服のような同じ衣装を纏った人がいるので、探しやすくなるだろうし、人も比較的少ないはずだ。

 

 今日の方針をある程度決め、宿を後にする。

 

 朝食をパン屋で済ませ一息つくと、さっそく目的の少年たちを探しに行くことに。

 朝でも商店街は賑わっている。少し歩いてみて回るが人が多く、いくら男の子の特徴を把握しているとはいえこの中から探すのは大変だ。

 

 一時間ほど探し歩き回ってみたが、全く見つかりそうにない。

 いくつかの店舗に入ってみたりしたが、働いている 01 と瓜二つの店員がいたということはなかった。興味深い魔法道具や食欲を刺激するおいしそうな食べ物は見つけたが。

 

 すべての箇所を見て回れたわけではないが、人のもっと多いだろう観光区域へと足を向けた。観光区域の特徴として飲食店や宿泊施設、目の引く場所や不思議な力が湧いてくる場所などがあり、街の内外問わず人が多く集まるのでその分、労働力として 01 の仲間がいるはずだ。

 そのため通りを歩いて彼らを探すのは非効率的。それじゃ営業中の店にお邪魔して情報を聞きながら探して回る方がよいだろう。

 

(でも”男の子探してます”なんていきなり聞いたら変かな…)

 なんてことを考えつつ、近くの目についたテキトーな店に入ってみる。

 

 店内を見渡した感じここはエストリアのお土産さんなのだろう。店内を一瞥(いちべつ)しても探している男の子の姿はない。

 せっかく入店したのでお土産を見て回ることにした。魔法の杖を模した装飾品やこの街の観光地の風景を焼きいれたお菓子まで。いろんな種類のお土産が置かれている。

 お土産を見て回っていると、あるお土産がアラヤの目を引いた。

 

(…これ、可愛い)

 アラヤが見とれているのは鹿の形をした魔物がゆるくデザインされている人形。

 

「この人形、可愛いですよね」

 不意に声を掛けられ、顔を上げる。声を掛けてきたのは若い女性の店員。

 

「はい、すごくかわいいです! この鹿の魔物は何なんですか?」

 

「気になりますよね。この子は”デア・ドルミト”っていってエストリアに伝わる精霊だそうです。見た目は可愛いのに、勇ましい名前ですよね」

 そうこちらも元気になるほどの可愛らしい笑顔で話す店員。

 

「…これ買います!」

 少し考えた後アラヤは購入を決めた。

 

 店員と一緒に会計へと向かう。人形を清算カウンターの店員に渡す。

 

「三アースと五〇メルです!」

「はい、これで」

 メルはアースに対しての下位の補助通貨単位だ。一アース=一〇〇メル。

 

 代金を渡すときに意を決して聞いてみる。

「あの、この辺りで薄い金色の髪で宝石のような翡翠の瞳をした一〇歳くらいの男の子を見ませんでしたか?」

 

「…男の子ですか?」

 

 女性店員から少し不審者を見るような疑いの目を感じる。

 

(まあ、警戒しますよね…)

 内心予想通りと思いつつも少し傷つく。どう説明しようかと思案し、言葉を考える。そして口を開く。

 

「あ、代行サービスの“人形”のことです。この街に来る途中で、よく働くすごく完成度の高い魔法人形がいるって聞いて……」

 自分の口から発した言葉に胸が痛む。

 

「ああ! 人形ちゃんのことですね!」

 そう話の内容を理解したといわんばかりに明朗に答える店員。

 

「それならこの店を出て、西回りに歩いていくと森が見えてきます。その森の中にこの街の観光名所の一つ『眠れる女神の泉』があるんですよ。その近くの案内所で働き者の人形ちゃんが働いていますよ!」

 

(…眠れる女神の泉)

 アラヤはその観光地の名前を心の中で反芻(はんすう)した。

 店員にお礼とチップを払い、店を出る。

 

 日も高くなり始めている。日光が先ほどまで室内にいたアラヤの顔を照らし、その燦々(さんさん)と眩しい光に目を細める。同時に清爽(せいそう)な風がアラヤの体を吹き抜けた。

 人探しは大変だが、天気は味方してくれているような気になった。

 

 店員に言われたとおりに西回りに歩いていると、街の中に似つかわしくない森が目の前に現れた。しかし、この街に来るまでに通った鬱蒼とした不気味な森とは異なる。息を吸い込むだけで胸の奥から澄んでいくような、そんな神秘的な空気。

 

(多分ここだよね)

 

 アラヤは森へと足を踏み入れる。

 

 森の中は木々が生い茂っているのに、陽光が差し込み森の中は不思議と明るい。光が森の植物を照らし、空間全体を深く鮮やかな緑に演出する。

 道は整備され広く、人が五人並んで歩けるほどある。ただ通る人はそこまで多くなく、四、五分に二人すれ違うかくらいだ。

 

 入り口に入ってから15分ほど歩いただろうか。沢山の人が集まっているのが見えてきた。人々は落下防止の柵だろうか、そこから身を乗り出し下の方に視線を落としている。

 

(あそこに泉があるのかな)

 

 少し足早に近づいてみる。人のいない場所を探してそこから覗いてみる。皆が見るものに視線を向けると、その先には大穴が開いていた。

 中くらいの船が三つほど並べるような大きさ。その穴の奥に水が湧出し、地底湖を作り出している。規模自体は小さいが、水は底まで透き通り深いことがわかる。色はなく無色で、揺れる水面の影と覗き込む人の影が水底(みなそこ)に映っている。人が良く訪れる場所だろうにごみの一つもなく、泉の中は人の手をまるで感じさせない。

 

(ここが『眠れる女神の泉』…。きれいな場所。なんだろうこのふわふわしているのに、不思議な感じ…。魔力かな?)

 魔力の探知を習得していないアラヤでもわずかに魔力を感じる。それほど強い特別な力がこの泉から湧き上がっているのだろう。

 

 ここが例の泉なら近くには案内所があるはずだ。もう少しここにいたかったが、優先事項は他にある。

 

 泉を隠すように開いた大穴の周りを歩いて案内所を探してみるが、それらしき施設は見当たらない。

 アラヤとこの大穴がある場所は森が開けた場所にあり、この空間に入るための道が二つある。一つはアラヤが先ほど歩いてきた道。もう一つはその道と穴を跨いで反対側にある。泉を見に来た人々は穴を囲むようにその二つの道を往来している。

 

 アラヤは道なりに歩いて探していた。人が集まっているとはいえ、向かい側の道の方は見渡せるほど空いている。なのでわざわざ穴の周りを一周しなくてもいい。

 

 もう一つの道へとたどり着いたとき、大穴の前に案内板が設置されているのに気付いた。

 そこには「↑南区 ↓北区・休憩所及び案内所」と記されていた。”↓”――つまりアラヤが今背にしている道の方に案内所があるのだろう。アラヤは案内板に従い、その道に歩みを進めた。

 

 しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。

 広場の入り口の柵には「木漏れ日広場」と書かれている。

 子供が元気に走り回れるほどの最低限の広さがあり、地面は裸足で歩くと気持ちよさそうな芝生で覆われている。広場の一角には休むためのベンチが2つほど。その向かいには植物の屋根でできた東屋。そして奥には目的の案内所だ。

 

 案内所の中は思っていたよりは広い。入って左手には小休止の場所。右手には小さな無人売店。前方にはカウンターとパンフレットが置かれている。

 しかしカウンターには誰もいない。その上には鈴が置いてある。これで受付を呼べということだろうか。試しに押してみた。

 チリーン、と澄んだ音色が案内所に響いた。

 

「はいはーい! 今行きまーす!」

 

 カウンターの奥の扉から声が聞こえてきた。扉越しとはいえこの声の正体に確信を持た。

 扉が開き、声の主が姿を現した。四度目となると驚きはない。今はむしろ「見つかって良かった」という安堵の気持ちがある。

 そこには 01 と瓜二つの少年。

 

「こんにちは! どのようなご用件でしょうか。パンフレットですか? 泉の案内ですか?」

 

「…いや、君に用があってきたの」

 少年は少し訝しむ表情を顔に浮かばせ、首をかしげる。

 

 アラヤは周囲に人がいないことを確認し、声を潜めて言う。

 

「 01 からの頼みで集まってほしいって」

 

 少年は全てを察したのかのように黙り込む。しばらくして

 

「…分かりました。お姉さん、ありがとうございます!」

 頭を下げ、笑顔でそう言った。

 

「私はそれだけを言いに来たから。集まる場所は分かっているよね?」

 

「はい! 大丈夫です!」

 

「よかった。それじゃ私はこれで」

 そう言って、アラヤは案内所から出る。「ありがとうございました!」とはつらつとした明るい声が、背後に届いてきた。

 

 この場所での用事を終え、森を出る。

 森の外は入る以前と何も変わらないにぎやかな街が広がっていた。

 案内にあったようにここはエストリアの北側。

 

(まだ昼には早いけど、お腹もすいたしこの後の予定も考えたら早めに済ませておこうかな。)

 

 昼食をとることに決め、街の更に賑わう場所に向かう。

 通りにあった麺料理屋に入って食事を済ませたあと、予定通り研究区域に向かうことにした。

 

(昔から魔法学が盛んだっていうんだし、研究区域の街並み気になるな~)

 これからのことに期待を膨らませ、アラヤは軽やかな足取りで街の中心に向かって歩を進めた。

 ここからでも見えるあの大きな時計塔は、おそらくこの街の一番の中心点なのだろう。

 

 

 澄み渡る碧空の頂点に陽が頂くころ、ちょうど正午を知らせる鐘の音がエストリアの街に鳴り響いた。

第四話を読んでいただきありがとうございます。

全然進展というか、面白みのある場面はないですね。変化の少ない場面でも面白く書くことができたらいいのですが、まだまだ訓練中ということでこの話と一緒に成長出来たらなと思います。


五話は割と早めに上がるかもしれません。よろしくおねがいします。

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