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第一話 遭遇

 黒こげ茶色の髪を肩口で切りそろえ、キュロットパンツのような軽快なズボン、シャツの上に濃い藍色のポンチョ風の服をまとい小柄な鶏一羽が入るくらいの大きさのリュックを背負っている少女が、田舎道をとぼとぼと歩いていた。

 ここは大陸中央にあるルート統一王国東方の郊外ソノ・ハゼラキ市の東端にある小さな町――「バース」。少女の名は アラヤ・ナミウチ。歳は十六。大陸東方の小国カナギに生まれ、人生経験を積むために人助けをしながら旅を続ける、まだ若き旅人である。


「困ったな…。」


 そんな独り言を言う彼女の顔は困惑に満ちていた。大陸地理院が発行する、持ち主を中心に周囲の地理を自動で紙面に表示してくれる便利な「魔法地図」を、野生のヤギ型の魔物に奪われてしまったのだ。取り返そうと追ったものの、相手は予想以上に狡猾で素早く、あっけなく見失ってしまった。

 魔力の追跡など高度な技術を使えるほどの魔法使いでもないアラヤにとって、もはや探しようがない。仕方なく、地図なしで次の目的地――ルート王国の首都アルケーへの玄関口「フローム」を目指すことにした。


 とりあえず道なりに歩く。右手には農耕地と民家がぽつぽつと並び、左手には暗く深い森が広がる。背後にはバースの中でも栄えている町を越えてきた小高い山。進行方向には鬱蒼とした暗い森への入口。最低限の整備しかされていない道。

 フロームへはちゃんと整備されている国道が存在するがアラヤは地図どおりに道を進むことが苦手ゆえに、このような悪路にたどり着いてしまった。そしてそんなアラヤからは地図が失ったときた。目的地にちゃんとたどり着けるのだろうかという不安で彼女の頭がいっぱいになる。


 森へ入って二十分。周囲を三メートルほどの木々が覆い、日差しは遮られて薄暗い。動物の鳴き声ひとつせず、聞こえるとしたら風による小さな葉擦れの音くらいだ。不気味な森の中でなければ心地よいが、いまはそのような音はアラヤの孤独感や恐怖心を駆り立てる雑音にしかならない。アラヤの歩みを進める速度は自然と速くなっていった。すると前方左手――倒れかかった木の根元から、かさりと音がした。

 次の瞬間、血に塗れた一人の男性がふらふらと道へ倒れ込む。五十代半ばくらいだろうか。頭からも大量の血を流している。

 急な事態に固まってしまった。何が起きているのか、その状況への理解に苦しんだ。しかしすぐにアラヤは我に返り男性のもとへ駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか⁈」

 そう声をかけた直後、男は「た……す……」と聞き取れるかどうかの微かな声を漏らした。アラヤは助けを求めているのだと判断し、携帯型魔装遠隔通信デバイス――通称〈ケータイ〉を取り出して救急と警察へ通報した。


 三分後に救急隊、さらに二分後に対魔警察バース支部の警官三名が到着。応急処置を受けた男性は息も絶え絶えに語った。

 彼の住む山中の集落「サンラ」が、敵性魔生命体ケイオスに襲撃されたという。駐在の対魔警察も村の戦闘経験者も歯が立たず、集落は壊滅。逃げ延びられたのは彼ただ一人であろう、と。


 ケイオス――それは魔物とは根本から異なる、純悪の存在。魔物が既存生物に魔素が長年作用し進化・分化した種であるのに対し、ケイオスは純粋な魔素から生まれる。はじめは形なき黒塊だが、目にした生物を襲い、捕食し、魔力や形質、記憶や技術すら取り込む。生態系を破壊する脅威として、駆除の対象とされてきた。

 集落を丸ごと滅ぼすほどの個体となれば、ただ事ではない。警察三名では対処しきれないことは明白であった。


 警官の一人が通信機で応援を要請。アラヤも何か協力できることはないかと警官たちに

「私、一応ケイオスとの戦闘経験があります!戦いに参加できるための資格もここにあります!協力させてください!」

「しかしなぁ…。」

「おねがいします!」

 戦闘資格を持つことを示し協力を申し出たが、警官たちは実力も知れぬ人間を戦闘に参加させるのは流石にダメだということで許可をなかなか下ろさなかった。しかしアラヤの提示した”資格”を検分するや否や、警官たちは「身の安全を最優先に」という条件付きで参加を認めた。空からの増援はケイオスによる撃墜の危険があるため地上移動となり、到着は遅れるという。


 負傷した男性は簡易的な事情聴取を終えた後に、救急隊によって先に運ばれていった。それから4人は警察の応援部隊を待っていたのだが、いくら待てどもなかなか到着しない。

「遅れるとは聞きましたが、遅いですね。」

 そうアラヤが言うと、中年くらいの男性の警官が

「そうですね。10分ほどで到着するとは言ってたんだが…。」

 しかしもうすでに増援の要請から20分は待っている。

 すると森の入り口の方角から何やら騒ぎが起きているような音が聞こえてきた。

(なんだろう。なにか起きているのかな。)と入り口のほうを見つめていると、

「どうかした?」

 と少し背の高い若い女性の警官がアラヤに聞いてきた。

「いや、向こうの方から何か聞こえてくる気がして」

 そう指をさしながら言うと、警官はみな「何も聞こえないが」と言わんばかりの顔をして見つめてきた。するとだみ声の若い男性の警官が

「もしかすると応援部隊が到着したのかもしれませんね。」

 というので、アラヤと警官三名は音のする方角へと足を運んだ。アラヤが歩んできた道を引き返し、森の入り口へ戻ると――そこではすでに苛烈な戦闘が始まっていた。


 五人の警官が、一体のケイオスを相手に奮戦していた。

 そのケイオスは体長は二メートルほど。人と似た形状だが、肩甲骨の部分が翼膜のない翼のように肥大化し、目は一つ。聴覚器官らしき部位は蝙蝠のように頭部に広がり、口は存在しない。しかし攻撃のたび、不気味な音が響くことから発声器官だけは備えているのだろう。全身は濃い黒に染まっている。

 すでに戦闘不能になった隊員が八人、さらに後方には負傷者六人とその手当てをする二人がいる。戦況は圧倒的にケイオスが優勢だ。。


 アラヤと警官たちが戦闘に加わろうと駆けつけると、ケイオスはこちらを見てわずかに動揺を見せた。その隙を突こうと隊員の一人が攻撃を仕掛けたが、返り討ちに遭い戦闘離脱。ケイオスは肉弾戦を主とするようだ。

 本来、人型のケイオスであれば人間を捕食しているだろうから魔法を使えるはず――だが行使の兆しは見られない。魔法を使えるだけの魔力の量が不足しているのか、とアラヤは一瞬考える。


 しかしその思考は、次の瞬間に打ち砕かれる。

 ケイオスが地面を蹴り上げ、跳躍したかと思えば、拳を叩きつけるように急降下。轟音と共に大地が揺れ、衝撃波が周囲を薙ぎ払った。


 アラヤは辛うじて防御姿勢を取ったため擦り傷程度で済んだが、他の隊員たちは衝撃をまともに浴び、立ち上がることさえ困難になっていた。


 やがて土煙が晴れたかと思えば、ケイオスの胸元に魔力が集束している。両の手のひらを合わせ、赤い光を凝縮していく。光は次第に強まり――そして、ふっと収まったかと思えば、周囲が暗転した。


 刹那、アラヤの鼻先に熱風。続いて全てを薙ぎ払う衝撃波が奔った。大地をえぐり、木々をなぎ倒し、炎が生まれ、辺りは灼熱の奔流に包まれる。


 ――その場に残っていたのは禍々しくも圧倒的な強者として立つケイオスと、アラヤのいた場所には赤黒い卵状の塊だった。


 溶けだした塊は一つの帯として、中から現れた少女の手首付近に吸い込まれていく。


 ――妖赫魔法(ようかくまほう)

 己の血液に高濃度の魔力を混じらせ、それを自在の性質へと変質させる魔術。単位あたりにとけこむ魔力量が多いほど強力となり、拡張性も高い。だが体外に放出された血液は特定の方法を除いては使い物にならなくなるため、貧血状態に陥りやすい危険な魔法。高度な魔力変換と制御を要する危険な魔法である。


 アラヤは一瞬で全身を覆う殻を形成し、衝撃をある程度防いだのだ。体外に放出した血液も再度取り込む術を熟知していたため、致命的な失血を免れていた。しかし、相手もそんなに甘くなかった。アラヤの手や膝あたりに軽いやけどを負わせていた。アラヤは少しの痛みを我慢し、ケイオスへとその視線を向ける。


「……今度は、こっちの番だよ!」

 そう強気に叫ぶと、右手に炎を纏う真紅の剣が形を成した。全身の筋肉、血流、骨までも魔力で強化し、ケイオスへ突撃する。


 ケイオスは迎撃のため魔力を練る――が、勝負は瞬く間に決まった。

 正面にいたはずのアラヤは、次の瞬間にはケイオスの背後へ。剣閃が走り、ケイオスの体は左肩から右脇腹にかけて切断され、黒き巨体はゆっくりと崩れ落ちた。


 戦闘終息後、救急要請と追加の応援がなされる。結果として、現場にいた二十四名のうち五名が死亡、八名が重体、十一名が中程度の傷や脳震盪を負った。後着の部隊が収拾を行い、アラヤは事情聴取のため対魔警察バース支部へと赴いた。


 後に判明する――このケイオスは魔王〈テロスディア〉の強い影響を受けた個体であった可能性が高いと。

 襲撃を受けたサンラの集落は完全に荒れ地と化し、生存者はゼロ。遺体もほとんど残されておらず、捕食か破壊によって失われたと推測された。最終的な死者行方不明者は200人強といわれている。一般的なケイオスによる事故の中でも今回の件は特に凄惨なものであり、一夜にしてルート王国中に広まった。


 アラヤはケイオスによる戦闘は幾度か経験はしていたが人の生死に関わるものは経験していなかったため、今回の事件は彼女の心を抉るものとなった。フロームへの出発は今回のケイオスとの戦闘から3日後にすることとし、それまではバースで休養をとることに決めた。

 その夜、少女は想う、目の前の人間を助けられるだけの強さを持たねばと。

個人的にはもう少しどうにかなったのではないかと思う部分があるのですが、そこは読者のみなさまからご意見をいただきたいです。まだまだ情景描写や人物の描写でどうにかなるのではと思います。

週に2,3話のペースで更新していこうとは思いますが、それは自分の納得のできる仕上がりになるか次第です(汗

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