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第十話 黎明

 太陽はその顔を完全に現し、この惨劇で汚れたエストリアの町を照らす。何も隠させまいと言わんばかりに。

 風が吹き、森中の植物の葉が互いを擦らせあって、誰に聞かせるでもない旋律を奏でる。

 その風は椅子に座る二人の人間の間を通るように吹き抜けた。

 

「聞いていいですか。あなたのこと、そしてあなたといた男の子のことも」

 

 そんなアラヤの言葉を聞いて、カリスタは少し顔をしかめる。

 過去を追憶する彼女の目にどんな光景が浮かんでいるのか、想像できないがいい記憶ではないのは確かだろう。

 

「そうね。知りたいよね。分かった、話すわ。」

 

 そして彼女は語り始めた。彼女と彼女が出会った一人の少年の話を。

 

 

 ――始まりは十五年前。私が八歳の頃だった。

 

 私の父はエストリアの中でも権威のある研究所に所属していたの。だからか、家の中でのルールはどの家庭よりも厳しかった。

 基本的な娯楽は許可がない限り禁止。学校を除いて、一日に合計八時間は勉強しないといけない。

 他にも細かい規則はあったわ。

 

 まあ、そんな家庭だから友人はいなかった。みんな、私のことがつまらないからって。

 

 そんな私にも唯一の楽しみがあったの。

 それは休日に父の研究施設に行くこと。施設内を見学したり、父の話せる範囲だけれど研究の話を聞いたり。あの時の私は、新鮮で日常とは違うその空間が好きだったわ。

 何より、普段は厳しい父が研究の理論の話をするときのとても楽しそうな表情を見ると、私も嬉しくなったものね。

 

 そんなある日、いつものように父の研究施設を見て回っていると、休憩所のような場所で一人の男の子に出会うようになったわ。

 それまで私以外に子供がその研究所をうろついているなんてことはなかった。だからこそ、気になったのね。

 気づけば話しかけていた。

 

 どうやら男の子はここの研究所のお手伝いをしているらしかった。

 それからというもの研究所へと行くたびにその男の子と同じ場所で会うようになっていったわ。

 

 しばらくそんな感じで、研究所で男の子と会うようになったある日、まだ彼の名前を知らないことに気づいたの。そのことに気づくまで、一、二週間くらいはかかったんじゃないかしら。変な話よね。

 名前のことをその男の子に聞くと〈38〉って自分のことを名乗っていたわ。曰く、大人はみんな、男のことを番号で呼ぶのだと。

 かわいそうだと思った私は、男の子の為に名前を考えることにしたわ。その場では思いつかなかったから、その日は普通にお話をして研究所を去ったけれどね。

 

 名前を付けるためには彼のことをよく知る必要があると思った私は、彼と会うたびに彼のことについて沢山尋ねた。

 結構、秘密主義でほとんどの質問には答えてくれなかったことを覚えているわ。誕生日や家族、好きな食べ物、行きたい場所。

 改めて思い返すと、本当に酷い質問ばかり。

 

 そんなだから、名前も思いつかなくて名前を考えると決めた日から半年くらい経った時かな。

 彼はいつも会っていた休憩所に来なくなった。

 

 私の中で研究所へと行く楽しみが、ただの知的好奇心と父との交流より、いつしか 38 と会うことになっていた。

 ただでさえ友人がいなかった私は彼のこと、好きになっていたのかもね。それは今も変わんないけどね。

 あの子の爽やかな笑顔、明るい声色、前向きな性格、優しい気遣い、ふと見せる儚い顔。

 もう一生見れないのかと思うと、酷く胸が苦しくなって、孤独感が増した。

 

 だから私は、父の研究所に入るためにもっと勉強することにした。

 その研究所に入れば、38 と会えるかもしれない。38 のこともっと知れるかもしれない。 38 につけてあげれなかった名前をつけることができる。そう思って必死に努力したわ。

 

 私が16歳の時、15の頃から研究し、開発した魔法が学会で認められて、父の研究所に入ることでできた。

 私は魔法の才能こそなかったけれど、魔法理論の構築や解析などは難なくこなせたの。自慢じゃないわよ。

 

 あなたは知っているかもしれないけれど、魔法の種類について説明しとくわね。

 

 魔法には特性魔術と習得魔術の二つがあるわ。

 前者は人類が先天的にもっている魔法で、後者は特性魔術を軸にして人工的に開発された魔法の事ね。

 

 本来、魔法使いってのは特性魔術しか使えないんだけれど、それだと不便だからっていうことで昔の偉い人が考えたのが万人が使える習得魔術。今は、一般魔術とかって呼ばれていたりもするわ。まあ元となった特性魔術より性能も効率もものすごく落ちるから、最適化が必要なんだけれどね。

 でも、私が開発した魔法はオリジナルを凌駕(りょうが)する効果を持つ魔法だったわ。

 

 それが、あなたたちが時計塔の地下で使った魔法〈啓示(けいじ)〉。

 あれは威力も範囲も機械で底上げされているけれどね。

 

 その魔法は魔法使用者の記憶を共有したり、行動原理や思考、価値観などを強制させることができる、いわば洗脳の魔法。

 そんな気味の悪い魔法を、啓示と名付けた人はとても面白い感性をしていると思うわ。

 

 その魔法で見事研究所入りした私だけれど、その研究所には既に 38 はいなかった。

 職員や当時、 38 と話していた人に聞いても、はぐらかされて有益な情報を得ることはできなかった。父も同じように知らぬ存ぜぬだったわ。

 

 何? 私の昔話は退屈? あくびなんかして。

 別にそんなに慌てて取り繕わなくていいわ。少し無駄なことを話し過ぎたわね。

 分かったわ、手短に話しましょうか。

 

 私は研究者の生活を過ごす中で、別の施設で 38 と同じ顔の子を見かけたけど、それは分裂体の別の個体だった。

 それから、私は彼らが何者なのかについて調べるようになった。日々の研究も並行してね。

 

 私が18歳になるころ、研究の成果が認められて、より高い権限を得ることができたの。

 それも最高レベルの権限。あの忌まわしい時計塔の地下室へのアクセス権限よ。

 あそこは、本当にごく一部の有能な研究者しか入ることが許されない場所よ。

 

 当時、そこでは魔法の性能を底上げさせる技術を開発することについて盛んに研究されていたわ。

 その研究を推し進めるきっかけに私が行った研究があったの。そのおかげでプロジェクトに参加することになった。

 

 そして、その地下室で大体九年ぶりくらいに、 38 と再会することができたわ。

 その時の私の感情は言わなくても分かるわよね。

 

 そんなだったから、当時のことは気持ちと再会した時の彼の顔くらいしかよく覚えていない。

 でも、彼の正体や彼のオリジナルとなったアンディのことを教えてくれたことは覚えている。

 そして彼らが救済を求めていることもね。

 

 そんな中、私の参加していた研究プロジェクトの完遂の知らせを聞いた。

 

 それからは、分かると思うけれど分裂体は〈万能雑用代行人形サービス〉として町に売り出され、その研究のせいで町民はそれについて違和感を抱くことなく、町の仕組みの一つとして受け入れた。

 

 私は自分の研究のせいで 38 たちが苦しむ羽目になった。その現実に耐えられなくて、逃避したわ。

 38 はそんな私といつも通りに接してくれていたけれど、内心どう感じていたのかしらね。想像もしたくないけれど、もう向き合わなくちゃね。

 

 

 ――カリスタはそう言うと、しばらく黙り込んだ。

 

 これで彼女の過去の話は終わりなのだろう。

 

(カリスタにもつらいが過去あったのね…)

 

 彼女の後悔と罪。

 アラヤはカリスタに今の自分を重ねていた。

 

 広場の入り口から、口を布で覆った軍の関係者が二人がかりで、白い布に包まれた何かを運んできているのが見えた。

 その運ばれているものは赤黒い血で汚れている。

 それを死体の並べられている列の端にそっと置き、次だと言わんばかりに広場を走り出ていった。

 

 アラヤは顔を広場から反らし、足元を見つめる。

 あの光景を見ていると、色んなことが頭を巡り、また泣き出してしまうと思ったからだ。

 

 地面を見つめたまま、気になっていることを聞こうとした。

 しかし、そのことはカリスタの傷ついた心を更に傷つけてしまうだろう。

 

「どうしたの? 下なんて見つめて。」

 

「カリスタ…、あの…、さ、さん…」

 

 言葉が詰まる。

 

(やっぱり聞くのはやめよう。38 のことなんて私が知る必要はないでしょ。カリスタの心を抉るだけだ)

 

「38 がどうなったか知りたいの?」

 

「いや、違う! 何でもない!」

 

 咄嗟(とっさ)にごまかそうとするが、彼女は穏やかな表情をした。

 目覚めたときから、カリスタにずっと気を遣わしてばかりだ。そんな自分が更に嫌になる。

 

「別にいいわよ。彼はもう死んだわ。」

 

 深呼吸をしてからカリスタは続ける。

 

「私が時計塔から出て、祭りの北の外苑会場に着いた時、まだ戦火はそこには及んでいなかったけれど、張り詰めた空気が支配していたわね。少しでも分裂体の子か町の魔法使いが不審な動きでもしたら、戦いが始まりそうな、そんな空気。」

 

 当時の光景を思い出すかのように、カリスタは俯く。

 今のアラヤはカリスタにつらい記憶だけを思い出させて、黙って人形のように座って聞くだけ。

 その状況が酷く自己嫌悪を加速させたが、01 の始めたこの戦いの結末を見届けることを誓って時計塔を飛び出した時のことが頭をよぎってしまう。

 カリスタは、隣で自分を責めるアラヤを気にせず話を続ける。

 

「私はそんな中、 38 と待ち合わせしていた場所で彼と会い、今の状況を聞いたわ。頭の中に 01 の考えが流れ込んできて、今は様子を見ていると言っていた。南側の状況は分からないけれど、少なくともここでは何も起きていないとも言っていたわね。」

 

 そこまでは淡々と話していた、彼女だったがここまで言い終えると、深呼吸をしてから少し苦い表情をして話を続けた。

 

「なにが皮切りになったのか分からないわ。いきなり周囲に強烈な揺れと轟音が走ったの。すぐに 38 の手を引いてその場から離れたわ。 38 は何か起きた方を見つめていたけれど、私に手を引かれるままでいてくれた。でも、運命は私たちを逃がしてくれなかった。」

 

 カリスタの顔を見れなかったけれど、恐らく苦しい表情をしていただろう。苦痛の混じった声をしていたから。

 

「その時は私たちは、狭い建物に挟まれた路地を走っていたんだけれど、左の建物を突き抜けて白い光を放つ魔力の塊が突き抜けてきたわ。 38 はその魔力弾が降ってきていることに気づいていたんだろうね。私をかばって、その凶弾の餌食になった。目の前で、彼は――」

 

「ありがとう、カリスタ。…ごめんなさい。もういいよ。」

 

 アラヤはカリスタの話を遮った。彼女が本当に苦しそうな表情を浮かべていたから。

 壊れてしまうんじゃないかと思わせるほどに苦しそうな顔だった。

 

 俯いたままこちらを驚くように見ていたカリスタの目には、今にも決壊しそうな涙の塊を浮かべていた。

 その一滴が零れると、カリスタは溜めていたものを吐き出すように泣き始めた。

 

 その泣いているカリスタの背を、アラヤはひたすら撫で続けるしかできなかった。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

 

 誰に対しての謝罪なのか、この場にはいない誰かへ、ひたすらカリスタは謝り続けた。アラヤは彼女が落ち着くまで、子供をあやすように背を撫で続けた。

 

 いままで自分の心の中がぐちゃぐちゃだったのに、不思議なものだ。目の前に泣いている人がいると、自分は冷静になれた気がした。

 

 まだ陽は浅い。

 一日は始まったばかりなのに、もう半日は過ごした気分だった。

第十話を読んでいただきありがとうございます。


今回のお話はカリスタの過去についてでした。ありがちだったと思います。そして、彼女たちの現状を考えるともしかしたらここの話自体、蛇足だったかも?とか思ってしまいましたが、まあでも書きたかったので書きました。はい。

ここで漸く習得魔術とか特性魔術とかの話が挙がりましたが、追々深堀します。

お分かりかと思いますが、アラヤの妖赫魔法は特性魔術です。それと、アンディの分裂魔法も。魔法地図とかは習得魔術の枠組みに入りますね。


正直、これから更新ペースを維持できる気がしませんので、思い出したときとか目に着いた時に「見てやるか」の精神で読んでいただければと思います。

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