裏切り
テルマハルト温泉郷の夜。
湯気の町は、表面上は活気に満ちていた。
卵の噂は真鑑定によって打ち消され、翌日の市は再び客でごった返している。
だが、、
「トリス様、ひとつご報告が……」
クローヴェが低い声で耳打ちしてきた。
「宿屋〈金の杯亭〉が、黒衣商会の連中と密談していたという噂が……」
「……もう仕掛けてきたか」
俺は眉を寄せる。
「宿屋の親父は強欲な男よ」
ミーナが帳面を開く。「借金も多いし、商会の金に釣られる可能性はある」
「それに、あそこは旅人の拠点でもある」
アリアが腕を組む。「宿が掌握されれば、噂や値も一気に操作されるわ」
フレイアはワインをあおりながら、にやりと笑った。
「ほらね。火が消えたと思ったら、次は煙でいぶしてくる。連中、嫌らしいことをやるわ」
⸻
「卵が値上がりしてるぞ!」
「いや、昨日の値段じゃなかったのか?」
「“宿屋の仕入れが倍になった”って言ってる!」
ざわざわとした声が広場を包む。
昨日の信用逆転で持ち直したはずの空気が、再び揺れ始めていた。
「……動きが早い」ミーナが低く呟く。
「昨日の“公開帳簿”をかいくぐって、別ルートで操作してきた」
「つまり、内部からの横流しか」
俺は《統治》を発動する。
視界に広がるのは、市場全体の動き。
誰がどこに立ち、どの品を持ち、どの方向に動いているか、まるで盤面を見るように把握できる。
(……いるな)
不自然に動く者が数人。
宿屋の関係者と繋がり、卵を“裏で横流し”している。
「クローヴェ、怪しい三人を押さえろ。ギルド規約違反として拘束だ」
「承知」
数分後、広場の一角で揉め声が上がる。
「な、なんで俺たちが……!」
「組合を通さない取引は無効!」クローヴェが一喝する。
周囲がざわめく中、ミーナが前に出て冷ややかに言った。
「“裏取引”をした帳簿は、もうこちらに揃ってる。隠せると思った?」
拘束された男たちの顔が青ざめる。
⸻
◇ 宿屋〈金の杯亭〉
夕刻。
俺と仲間たちは宿の奥座敷にいた。
対面するのは、脂ぎった顔の宿主・ベルノ。
「トリス様、誤解です! 私はただ、客の要望に応えただけで……!」
「“客”じゃない。黒衣商会だ」俺は冷たく告げる。
「領の秩序を乱す取引は、もはや裏切りだ」
「ま、待ってくれ!」
ベルノは必死に頭を下げる。
「金に困っていたんだ! 借金が……! だから、つい……!」
「借金を盾に裏切るなら、領民とは呼べない」アリアが厳しい声で言う。
フレイアは鼻で笑った。
「火を見る目がないわね。連中の金なんか、一時の煙。本物の火はこっちにあるのに」
ミーナは冷静に帳面をめくり、静かに告げた。
「ベルノ。選ばせてあげる」
「……え?」
「一つは、組合に正式に加入し、公開帳簿の下で取引を続けること。借金は領が肩代わりする。その代わり二度と裏切りは許されない」
「も、もう一つは……?」
「宿を失う。信用は失墜し、誰も泊まらなくなる。ギルド規約違反者として名が残れば、二度と商いはできない」
ベルノの顔が蒼白になり、汗がぼたぼたと落ちる。
「……従います。従います! どうか、見逃して……!」
俺は短く頷いた。
「従うなら、それでいい。ただし――監査は続ける。次はない」
ベルノは畳に額をこすりつけ、震えながら泣いた。
⸻
◇ 夜・領主館
「……内部からの罠も防げたわね」
ミーナが帳面を閉じ、安堵の息をつく。
「いや、まだだ」
俺は窓の外を見やる。
湯気の街の灯りが揺れているが、その背後に黒い影を感じた。
「買い占め」「噂」「内部崩し」……順番に来ている。
次はもっと直接的な手を打ってくるだろう。
「トリス」アリアが真剣な目を向けてくる。
「戦いは剣だけじゃないのね」
「そうだ」俺は刀の柄に触れた。
「でも、剣と同じだ。弱点を突かれる前に、先に“型”を作る」
フレイアがにやっと笑った。
「いいね。じゃあ次は“燃やす準備”だ。火を焚いておけば、虫も鼠も勝手に炙り出される」
「燃やす準備……」ミーナが頷く。
「情報戦をこちらから仕掛けるのね」
俺は拳を握った。
「守るだけじゃない。こっちから動く」
窓の外に昇る月は白く、湯気に霞んでいた。
(次こそは――仕掛ける番だ)
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




