卵の信用を守れ!
テルマハルト温泉郷・朝市。
いつもなら卵を蒸す湯気と、むき卵を頬張る子どもたちの笑い声で賑わう広場が――今日は妙にざわついていた。
「聞いたか? 温泉アント卵を食ったやつが腹を壊したって……」
「本当か? うちの婆さまも昨日食ったぞ……」
「俺もだ! だが腹なんざ壊してねえ!」
「いやいや、町外れの旅籠じゃ、吐いた客が出たって……!」
ざわめきは伝染のように広がり、人々の顔が不安に曇っていく。
「トリス様!」
駆け込んできたのは市場係の若手だ。額に汗を浮かべ、声を震わせている。
「卵が“毒だ”って噂が……! 買い手が一気に引きました!」
俺は一瞬だけ息を詰めたが、すぐに頷いた。
「……やはり来たか」
「やはり?」アリアが眉をひそめる。
「昨日の買い占めが潰されたから、次は“信用”を狙ってくると思っていた」
俺は《統治》の視界で人々の不安が広がるのを見据える。
「これはただの噂じゃ済まない」ミーナが帳面を叩く。
「卵が“毒”と見られたら、一夜で市場が死ぬ。価格も保証も意味を失うわ」
「だったら証明すりゃいいんだろ?」
フレイアがにやりと笑った。
「出番じゃないの、トリス」
⸻
昼前、広場中央に大きな板台が据えられた。
俺は人々の前に立ち、《真鑑定》を展開する。
「見てくれ。これが事実だ」
――――――
【真鑑定】
対象:温泉アント卵
属性:高たんぱく/滋養強壮
特性:熱処理で毒性消失/保存性向上/摂取で疲労回復を促進
副作用:過食時のみ胃もたれ(軽度)
毒性:存在せず
――――――
「……“毒性:存在せず”だと……!」
人々の目が大きく見開かれる。
俺は続けて蒸した卵を割り、黄身をその場で口に放り込んだ。
「食ってみせる」
アリアも一歩前に出る。
「私も」
彼女は軽やかに卵をむき、ぱくりと食べてにっこり笑った。
「ほら、いつも通り元気よ」
「私もよ」ミーナは落ち着いた手つきで卵を割り、口にする。
「商人は“信用”が命。疑うなら私の身体で確認すればいい」
「なら、私も!」
フレイアが豪快に三個まとめて頬張り、どんと胸を叩いた。
「ふん! 毒どころか、もっと欲しくなる味じゃない!」
⸻
「……っ!」
ざわめいていた人々が次第に笑い声へと変わっていく。
「やっぱり嘘じゃないか!」
「領主様が食べて平気なんだ!」
「そうだ、俺らだって毎日食ってる! 腹壊したことなんざ一度もねえ!」
次々と声が上がり、広場の空気が一気に晴れやかになった。
クローヴェがすかさず前に進み、ギルド印を掲げる。
「今後、“信用確認会”を定期的に行う! 採卵から加熱、運搬まで、ギルドが立ち会い安全を証明する!」
「それなら安心だな!」
「ギルド印があるなら間違いねえ!」
歓声と拍手が広場に響いた。
⸻
夜・領主館
「……完璧な逆転だったわ」
ミーナが帳面を閉じ、にやりと笑う。
「彼らの狙いは“恐怖”。それを“公開の事実”で潰した」
「俺たち自身が食べたのが効いたな」
アリアが頷く。「領主と仲間が信じているものを、村人も信じた」
「なにより」
フレイアが足を投げ出し、ワインをあおる。
「真鑑定ってやつはズルいくらい便利ね。あんたが領主で良かったわ」
俺は肩を竦めた。
「便利じゃない。責任が増えただけだ」
窓の外では、夜市で卵を頬張る人々の笑い声が聞こえる。
灯りは絶えず、湯気が白く夜空に昇っていた。
(卵を守った。けれど まだ終わりじゃない)
俺は拳を握る。
噂を流した連中は必ず次の手を打ってくる。
その影は、すでに王都の貴族と繋がっているのだから。
(守る。必ず――この温泉郷と人々を)
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




