湯けむりの笑顔と陰謀の影
「ん~……極楽極楽!」
フレイアが足湯でのけぞり、湯気を胸いっぱいに吸い込んだ。
紅の瞳は蕩け、銀の髪はしっとり濡れて首筋に張り付いている。
「そんなに大げさに言わなくても」
アリアが苦笑する。だが彼女の頬も緩んでいた。
「でも分かるわ。温泉って、心までほどけていく感じがあるもの」
「ふふ、経済効果も期待できるわね」
ミーナは膝に帳面を広げ、さらさらと何かを書き込んでいる。
「滞在客の平均消費額……食費、宿泊、土産……“温泉卵”は主力商品にできる」
「今この瞬間も仕事してるのね、ミーナ」
アリアが呆れながら笑った。
「当然。領地経営は遊びじゃないもの」
ミーナはさらりと答えるが、その表情は楽しげだった。
「ははは! それでこそだ」
俺は桶から温泉卵を取り出し、殻を割った。
黄身がとろりと光り、湯気と共に芳ばしい香りが広がる。
「……! うまっ!」
思わず声が漏れた。
舌の上でとろけ、疲労が一気に抜けていくような滋養感が体に広がる。
「でしょ? これは絶対売れるわ」
ミーナが胸を張る。
「兵士、旅人、貴族の食卓。どこに出しても需要がある。保存も効くから遠方輸送も可能」
「……ほんとに商人の娘ね」
アリアが呟くと、ミーナは涼しい顔で微笑んだ。
⸻
その頃。
テルマハルトの温泉街から少し離れた宿。
暗い部屋に三人の男が腰を寄せ合っていた。
「領地の温泉卵、売れ行きはどうだ?」
「笑えるほどだ。市場に出した途端、飛ぶように売れる。疲労回復だの滋養強壮だの……噂が噂を呼んでいる」
「ほう……ならば我らの出番だな」
男たちは互いに視線を交わし、にやりと笑う。
「王都のマルケス伯爵様も仰っていた。“新参領主に任せきりにするのは危うい。商人に任せ、秩序を与えよ”とな」
「要するに、俺たちに独占しろってことだ」
「ほうら、あの子爵領は若い。隙だらけだ。裏から買い占めてしまえば、王都に回す頃には俺たちの値札になる」
蝋燭の炎が揺れ、彼らの笑みがいやらしく照らし出された。
⸻
「ねえトリス」
アリアが湯に足を浸しながら声をかけてきた。
「これから、テルマハルトはどうなるの?」
「どう、って?」
「温泉卵だけじゃないわよ。宿も、土産も、食べ物も……村の人たちが“観光”に慣れるまで、相当苦労すると思う」
「そうね」
ミーナが帳面から顔を上げる。
「需要が急に膨らむと、必ず供給に歪みが出る。その隙を突いて、悪質な商人が入り込むわ」
「悪質な商人……」
フレイアが眉をひそめる。「そんなの、追い出せばいいんじゃない?」
「簡単に言うなよ」俺は苦笑した。
「商会は貴族と繋がってることが多い。正面から排斥すれば、逆にこちらが“悪者”にされる」
「面倒くさいなぁ」
フレイアは大きく伸びをした。
「じゃあ、どうするの?」
「決まってる」
俺は真っ直ぐ答えた。
「先に“こっちの秩序”を作る。冒険者ギルド支部もその一環だし、商取引の窓口も領主が握る。乱れを放置しない」
「……ふふ」
ミーナが目を細める。
「頼もしい領主様」
「照れるな」
俺は肩をすくめて笑った。
⸻
夜。
湯けむりに包まれた宿の廊下。
「……トリス様」
声をかけてきたのは、テルマハルト村のテルド爺さんだった。
「どうした?」
「外から、怪しい商人の姿がちらほらと……」
爺さんの声は低い。
「湯治客に紛れておりますが、どうにも腹に一物ある者どもに見えます」
「……来たか」
俺は刀《繋》の柄に手をかけた。
(温泉卵を狙って、もう動き始めたな)
「分かった。放置はしない。必ず、ここは守る」
湯気に包まれた夜空の下、俺は心に誓った。
テルマハルトを乱す者は、誰であろうと許さない。
評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!
初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




