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転生したら孤児院育ち!? 鑑定と悪人限定チートでいきなり貴族に任命され、気付けば最強領主として国を揺るがしてました  作者: 甘い蜜蝋
新たな土地に夢を託して

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帰還、そして円卓で決めること

外の風は、思っていたより冷たかった。

 《蒼晶の眠る洞》の湿った空気から抜け出した瞬間、胸の奥の重さがほどける。


「ふぅ……外の空気って、こんなに甘かったっけ」

 アリアが弓紐をゆるめ、空を仰ぐ。


「甘いんじゃなくて、洞の匂いが濃すぎたのよ」

 ミーナが苦笑して杖をつき、「帰りながら整理しよう」と帳面を開いた。


「整理って言えば、素材の扱いもだ」

 カインが指先で結晶片をつまむ。

「ロックバットの翼は硬化層が薄い。刃の“返り”に使えるが、熱に弱いから油焼き止まり。

 クリスタルスコーピオンの外殻は……亀裂の走り方が素直で、研磨すると光る。飾り縁や、軽い盾の“面材”にいい。

 モスゴーレムの苔は乾燥させて粉にすると接着補助になる。湿度管理がきついけど、道具屋の稼ぎにはなる」


「もう鍛冶場の図面が頭に出てる顔だな」

 俺が笑うと、カインは肩をすくめた。


「俺はそういう性分だ。戦いは最低限。素材を“生かして”勝つのが職人の戦地だ」


「頼もしい」

 アリアが目を細める。「素材の出口が見えると、こっちの動きも変わるわ」


「帰ったら、すぐ会議を開こう」

 俺は村の方角に目を向けた。「王家監察への“追加報告”、ギルド支部の“本申請”、それと洞の“運用方針”を決める」


「了解。〆切は今日中で」

 ミーナがさらりと言う。


「……今日中?」

 俺とアリアとカイン、三人そろって同時に聞き返した。


「今日中」

 ミーナはにっこり笑った。「勢いは資本よ?」



 夕刻、ハルトンの集会所。

 円卓の上にランタンが三つ。光の輪の中に羊皮紙が重なり、インクの匂いが漂う。


「戻ったか」


「おまえらの表情でわかる、当たりだな」

 先に来ていたクローヴェが椅子から腰を浮かせる。「座ってくれ。まずは口頭で」


「浅層で三種のモンスターを確認した。」

 俺は端的に伝えた。「《クリスタルスコーピオン》《ロックバット》《モスゴーレム(幼体)》

いずれも群れ行動あり。毒性・奇襲・耐衝撃でバランスが相手にするには悪い。油断は禁物」


「真鑑定のログを」

 ミーナが用意した写しを渡す。

 クローヴェは目を走らせ、短く息を吐く。


「百階層規模“になり得る”。……この書きぶりは上手い」

 クローヴェがにやりと笑う。「確定でも誇張でもない。“備えろ”の合図になる」


「備えると言えば、素材の取り扱いだ」

 カインが前に出る。

「素材の収益化の順は

 一、外殻・こうもりの翼の“民具”転用(安定)。

 二、ゴーレムの苔粉の“資材”化(試行)。

 三、サソリの結晶の“研磨”は設備が要るから保留。

 四、総合的になんだが、戦用は当面見送り。鍛冶場の火力と研磨機が足りない」


「設備投資の“言い訳”が整ったわけね」

 ミーナがペン先で机を軽く叩く。「王家監察に“管理と加工の体制整備が急務”と添える。予算を引っ張ってこれる。」


「言い訳じゃなく、実際に急務だな」

 クローヴェが肩をすくめる。「よし、三本立てで行こう」


 クローヴェは指を立て、順に示す。


「一、王家監察への追加報告。

 内容は“成長中につき運用不可”“将来的商機大”“管理体制整備が急務”。

 二、ギルド支部の本申請。

 “運用実績あり”“依頼掲示で冒険者が自然流入”“治安維持は支部が担保”。

 三、洞の運用方針。

 “浅層限定の調査・誘引・素材回収”“深部は封鎖”“村人への情報は最小限”。」


「異論なし」

 俺は頷く。「もう一つだけ“みんなの逃げ道の整備”を。百階層規模なら、浅層でも確認してきたように強力な魔物がたくさんいる、そのため、事故は起きる。街道側に“緊急点呼所”を置いて、ロープ誘導と鐘を設置して合図を決めたい」


「それ、いい」

 アリアがすぐ乗る。

「合図は鐘を三連打=撤退、二連打=集合、一打=通行注意!とか」


「鐘は鍛冶場で作る」

 カインが即答した。「鳴りのいい青銅配合、俺に考えがある」


「完璧」

 ミーナの羽根ペンが走る音が、ランタンの光と同じリズムで心地よい。



「内容を書くから文面をお願い」

 ミーナが姿勢を正す。俺は息を整え、ゆっくりと語り出した。


「件名、王家監察への追加報告。提出者、トリス領領主、トリス=レガリオン。

 一、街道整備は計画通り順調。アント素材活用で耐久・排水が改善。

 二、テルマハルトの温泉資源は住民の健康・観光に寄与。名物品“温泉アント卵”の供給基盤はギルド管理下で整備中。

 三、《蒼晶の眠る洞》について。浅層にて三種の魔物を確認。群れ行動あり。

 四、当該ダンジョンは“成長中”につき、現時点の運用は限定的。将来的商機は大きいと考えられる。

 五、素材の管理・加工体制の整備が急務。人員はギルド支部の設置により補う予定。

 六、住民の安全を最優先し、深層探査は当面見送り。浅層の点検・避難動線の確保を実施中  以上」


「……いい。硬い、正確、抜けがない」

 クローヴェが満足げに頷く。「王家は“出過ぎない口実”を欲しがる。これは乗る」


「次、ギルド支部の本申請」

 ミーナが紙を繰る。「支部長ポストは本部裁量、代理はクローヴェ継続で」


「助かる」

 クローヴェが苦笑する。「認可までは走り続けるさ」


「申請文の骨子」

 ミーナが読み上げる。

「一、複数ダンジョンの存在。

 二、街道完備による物流基盤。

 三、運用実績。

 四、治安維持の必要性。

 五、領主の協力体制。

 六、収益の一部を“王家孤児基金”へ拠出」


「待って、“基金”に触れる?」

 アリアが首をかしげる。


「触れると“王家の面子”が立つ。しかも、トリス様自身が孤児院出身で領主になったって事実と結びつけば、説得力は倍増する」

ミーナが即答する。「“孤児たちの未来を支える”と打ち出せば、王家も文句を言いにくいわ」

「触れると“王家の面子”が立つ」


「……いい」

俺は思わず頷いていた。「俺が背負ってきた場所を、今度は俺が支える。そう書いてくれ」


「言うようになったな」

 カインが笑って、結晶片をころりと机上に置く。「その席の名札は俺が打つ。見栄えのいいやつをな」



 話題は運用へ移った。

「浅層調査のローテは?」とクローヴェ。

「二日稼働、一日休み。休み日は“加工・講習”日」と俺。

「講習って?」とアリア。

「新人冒険者向け。『毒の見分け方』『群れの崩し方』『素材の外し方』」とカイン。

「“外し方”は重要ね。品質が利益を左右する」ミーナがペンを走らせる。


「鐘の合図は決定でいい?」と俺。

「いい。鍛冶場で三基。広場、街道の中継、洞窟口の前衛所」とカイン。

「前衛所には救護箱と“解毒の素”も置くわ」ミーナが追記。「材料はミーナ商会が持つ在庫でスタート。補充はギルド経由」


「村人への説明は?」

 アリアの問いに、俺は一度だけ考える間を取った。

「“危険だから近づくな”を先頭に。“素材が暮らしを支える”を続ける。

 夢は俺たちが運んでくる。村人には、今日の食卓を安心して囲ってほしい」


「……好きよ、そういう言い方」

 アリアが柔らかく笑う。


「言い方と言えば、名付けもだ」

 クローヴェが茶を飲みつつ言った。「浅層の道に名前を付ける。“青の回廊”“苔の庭”“蝙蝠の天蓋”とか。迷いにくくなる」


「いいね。地図にも残るし、依頼票に載せられる」

 ミーナがぱっと顔を明るくする。「案を募集しましょう。採用者には“温泉宿一泊券”」


「商人は抜け目ないな」

 カインが笑い、俺もつられて笑った。



 書類に最後の署名を入れ、各人の役割を確認したところで、窓の外は群青に沈んでいた。

 ランタンの炎が揺らぎ、机に置いた結晶片が小さく蒼く光る。


「最後に俺から一つ」

 俺は姿勢を正す。「“撤退の線”を決めよう。どれだけ旨味が見えても、命より重い素材はない。

 合図一つで必ず戻る。戻った者だけが次を掘れる」


「賛成」

 アリアが即答した。「私は、逃げるために強くなりたい」


「職人も同じだ」

 カインが結晶片を懐にしまう。「死んだら“続きを作れない”」


「……良い円卓だ」

 クローヴェが立ち上がり、周囲を見回した。「この調子なら、支部はすぐ回る。俺は本部へ飛脚を出す。返事が来る前に、前哨線を固めよう」


「任せて」

 ミーナが書類を束ねる。「明朝には発送できる」


「ありがとう、皆」

 俺は深く頭を下げた。

「ハルトンを“都市”にする。言葉じゃなく、仕事で」


 そのとき、机の下から小さな鼻先がちょこんと出た。

 モルネルだ。金色の目でこちらを見上げ、「もるっ」と一声。


「ネルも賛成って」

 アリアが笑う。


「じゃ、決まりだな」

 カインが椅子を鳴らして立ち上がる。「俺は鍛冶場。鐘と、素材の乾燥棚からやる。弟弟子、図面は任せる、明日の朝に持って来い」


「了解。避難動線の図面も添える」

 俺は頷き、窓の外を見た。

 群青の空に一番星が瞬く。街道の先から、夜回りの足音が近づいてくる。


(ここからだ)

(《蒼晶の眠る洞》、そしてハルトン。――必ず“回る”仕組みにする)


 ランタンの炎が、蒼い結晶の芯に映り、わずかに光が強くなった。

 都市の灯が、ゆっくりと形を成していく。

評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!

初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。

AIをとーても使いながらの執筆となっております。

あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。

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