報告と再調査(前半:書類パート)
ハルトンの集会所。
木製の大机いっぱいに羊皮紙と羽根ペンが広げられ、インクの匂いがむっと立ち込めていた。
その中央に座るミーナは、腕まくりをしたまま真剣な顔で筆を走らせている。
「さて。王家監察への“追加報告書”、形にするわよ」
カリカリと音を立てながら、ミーナは視線だけで俺を射抜いた。
「また俺の署名か」
俺は苦笑し、机の端に腰を下ろした。「領主の名前って便利に使われてる気がする」
「便利じゃなくて“責任”よ」
ミーナは即答する。
「領主の署名ひとつで、王家の反応が変わるの。軽く考えないことね」
「はぁ……」
ため息をつくと、カインがにやにやしながら肘で俺の肩を突いた。
「おいトリス。弟弟子のくせに、もう立派な“領主の顔”してんじゃねぇか」
「やめてくださいよ兄弟子。俺はまだ……」
「まだって顔じゃねぇ。昨日のアント討伐の采配、あれは完全に領主だ。自覚しろ」
「……ほら、カインまで言ってる」
アリアがにこにこと笑い、俺の前に紙束を置いた。
「さ、署名の練習でもしておいたら?」
「お前ら……」
俺は頭をかきながらも、書類に目を通した。
――――――
件名:王家監察への追加報告
提出者:トリス領領主 トリス=レガリオン
・街道整備は順調。アント系素材を用いた技術で水捌けと耐久性を強化。
・テルマハルト村にて温泉資源を確認。観光資源としての将来性あり。
・アントダンジョンは安定運用可能。定期採取で素材供給は持続。
・新ダンジョン《蒼晶の眠る洞》を確認。現状は“成長中”につき運用不可。将来的商機大。
――――――
「……まとめると、こうなるわ」
ミーナはさらさらと追記して、俺に渡した。
「堅いな」
俺は思わずこぼす。
「堅くなきゃダメなの」
ミーナは眼鏡の位置を押し上げる仕草まで似合ってしまうほど真剣だった。
「“将来の商機”を強調しすぎると強欲な貴族が押し寄せる。だから“監督管理が必要”を前面に出すの」
「弱みを見せて、でも期待は残す、ってやつか」
カインが笑う。
「そう」
ミーナはうなずき、俺を見据えた。
「トリス、署名を」
俺は一拍おいてから、羽根ペンを取り、署名欄に筆を走らせた。
領主としての重みが、また一つ増した気がする。
⸻
「じゃあ次、ギルド支部の設立申請書ね」
ミーナが新しい羊皮紙を広げる。
「クローヴェさん、本部からは“条件が整えばすぐ動く”って返事だったわよね」
「ああ」
隅に座っていたクローヴェがうなずく。「ダンジョンが二つ、街道も整備済み。これで動かない理由はない。あとは“運用実績”だ」
「昨日のアント討伐が実績になったってことね」
アリアが微笑んだ。
「そういうことだ」
クローヴェは笑う。「おかげで俺も肩の荷が下りる。正式支部長が来れば、俺は代理を降りられるからな」
「寂しがってるんじゃないの?」
アリアがからかうと、クローヴェは大げさに肩をすくめた。
「いやいや、むしろやっと落ち着ける。君らの勢いについていくのは骨が折れる」
「お世話になってますからね」
俺は真面目に頭を下げた。
「やめろ、こそばゆい」
クローヴェは笑いながら手を振った。
⸻
机の上には、二つの報告書と申請書。
ハルトンの未来を左右する紙束だ。
「これでトリス領の基盤が固まる」
ミーナが胸を張る。「あとは……未踏ダンジョンの再調査ね」
「だな」
カインが槍を肩に担ぐ。「あの洞窟、放っておけねえ。どんな魔物が巣くってるかわからねえんだ」
「私も気になる」
アリアは弓を撫でる。「湿気と匂い……あれはただ事じゃない」
俺は深くうなずいた。
「じゃあ、行こう。
《蒼晶の眠る洞》――俺たちで、確かめる」
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AIをとーても使いながらの執筆となっております。
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