王都-温泉アント卵騒動
朝霧を割って鐘の音が響き、人々が王都市場に集まっていた。
果実、布、香辛料、そして
新しく並んだ見慣れぬ白い卵。
「旦那、これが噂の“温泉アント卵”でさぁ!」
威勢のいい声を張り上げるのは、テルマハルトから戻った行商人だった。
「湯で茹でるだけで疲れが吹き飛ぶ! 旅路で食えば足が軽くなるって評判でしてね!」
「ほう……」
兵士上がりの男が眉をひそめる。
「アントの卵だと? 魔物のもんじゃねえか。本当に食えるのか?」
「食ってみなせえ。ほら、剥いたやつを」
商人は布で拭いた半熟卵を差し出した。
香りに釣られた兵士は半信半疑でかじる
「……っ!? う、うまい……!」
目を見開き、思わず声を上げた。
「濃厚なのにくどくない……体に染み渡る……」
「お、おい、俺にもよこせ!」
「二つだ! いや、五つ!」
瞬く間に人垣ができ、卵は飛ぶように売れていった。
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「なあ、知ってるか?」
「王都に“疲れが取れる卵”が出たらしい」
「兵士も学者も商人も、こぞって買ってるって」
居酒屋でも学舎でも、温泉アント卵の名は日に日に広がった。
「一個食べただけで徹夜明けの論文が仕上がった」
「試合前に食べたら剣の切れが違った」
「老いた母が“体が軽い”と涙ぐんでた」
真偽不明の逸話も混ざり、噂は尾ひれをつけて膨らむ。
やがて“王都三大珍味”に次ぐとまで囁かれるようになった。
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王都中央区 冒険者ギルド本部。
重厚な扉の奥で、ギルド長ライゼルは皿の上の卵を見つめていた。
「……これが、トリス領産の“温泉アント卵”か」
白髪交じりの髭を撫で、慎重に殻を割る。
とろりと溢れる黄身を一口
「……! これは……!」
老いた体に、じわりと熱が広がる。
「噂は誇張ではなかったか……」
「いかがです?」
隣で控える秘書が問いかける。
「……ただの卵ではない。素材はアントの卵……だが、この効能、兵站に組み込めば軍の動きが変わる。
そして、これを供給しているのは」
「テルマハルト村です」
「ふむ……。小さな辺境が、面白いことをしてくれる」
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さらに王宮。
食堂で王妃が口にしたのもまた、温泉アント卵だった。
「まあ……体がぽかぽかしますわ。夜の冷えも気にならなくなりそう」
「母上のお身体に合うなら何よりです」
皇太子は笑みを浮かべた。
「これは一度、正式に調べさせねばなりませんね」
やがて王宮侍従を通じ、王家監察局にも情報が届く。
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「……つまり、王家も注目していると」
ギルド長ライゼルは、王都支部の幹部を集めて言った。
「温泉アント卵を独占したい商会も動いている。
ハルトンはまだ小さい。だが、このままでは……」
「貴族たちが群がるでしょうな」
「利権の匂いに敏感な連中です」
会議室には重苦しい空気が漂った。
だがライゼルは口元をほころばせる。
「ふむ……トリス領主。面白い小僧だと聞く。
よかろう、会ってみるか」
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「……王都で温泉アント卵が爆発的に売れている?」
報せを受けた俺は、思わず声を上げた。
「はい。行商人たちが持ち込んだ卵が、どこも完売。
今や“王都一の人気土産”と呼ばれているとか」
ミーナが手帳を閉じ、目を細める。
「しかも……王家の食卓にまで上がったそうです」
「おいおい……」
カインが頭を掻いた。
「王家の口に入っちまったら、もう後戻りはできねえぞ」
「領主様」
アリアが真剣な眼差しを向ける。
「これは……チャンスでもあり、危険でもあるわ」
「だな」
俺は深く息を吐いた。
「ここからが本番だ。トリス領は、王都に名を轟かせる」
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その頃、王都の貴族街。
黒衣の商会主が密談していた。
「トリス領……あの辺境が、卵でこれほど騒ぎになるとはな」
「放っておく手はない。買い占めるか、あるいは……」
静かに笑みを浮かべる影があった。
温泉アント卵は、人々を笑顔にしただけでは終わらない。
王都全体を巻き込む“大波”となって、徐々にしかし確かに広がっていくのだった。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




