未踏ダンジョン《蒼晶の眠る洞》
朝靄の残る街道を、荷車の車輪が心地よく転がっていく。
足を踏み締めるたび、乾いた路盤が「きゅっ」と鳴き、雨上がりでもぬかるまないことを誇示していた。
「……やるじゃない、うちの道」
アリアがかかとで路面を軽く叩く。
「硬い。乾いてる。滑らない。……これなら剣を振ってても安心ね」
「水はけも完璧」
ミーナが路面を指でなぞっては、満足げに笑う。
「砂塵にならない。荷車も旅人も楽だわ。滞在時間、確実に伸びる」
「道が店を呼ぶ、店が人を呼ぶ、ってやつだ」
カインは荷を背負い直し、空を見上げる。
「鍛冶場の炭も湿らず運べる。……こりゃ職人冥利に尽きるな」
俺は頷き、街道の“呼吸”を五感で確かめる。
乾いた縁。湿りの残る側溝。踏圧で締まった中心線。
――地図じゃなく、足で領地を覚える。それが一番だ。
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「ねえ、トリス」
アリアが肩をつつく。
「足湯は大成功。次はどうするの?」
「帰る。ハルトンに」
「まあ、そうよね」
「で、帰りながら考える。……“道”が整ったら次は“人”だ。人が動く理由、泊まる理由を増やす」
「理由、か」
ミーナが顎に指を当て、にやりとする。
「温泉、食、宿、催し……それと――ダンジョン」
「おい、最後のが一番重いぞ」
カインが苦笑する。
「けど、確かに一番カネになる」
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前方から、荷を積んだ旅人が近づいてきた。
篭の中の湯の花、干し果物。まさにテルマハルト帰りだ。
「兄さんたち、道がありがたい。おかげで足が軽い」
旅人は帽子を取って笑う。
「あの足湯、最高だったよ。肩まで軽くなった」
「それはよかった」
俺は軽く頭を下げる。「またテルマハルトに来てくれ」
「もちろんさ。……なんでも、その先に――」
「その先?」
ミーナが即座に拾う。商人の耳は風より速い。
「森の奥で洞が見つかったって話だ。未踏の洞窟さ。“宝が眠ってる”とか“魔物がうようよ”とか。まあ、噂は大げさなもんだがね」
旅人は肩を竦め、去っていった。
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俺たちは自然と足を止め、顔を見合わせる。
「宝が眠る……悪くない響き」
アリアが剣の柄に指をかけ、目を細める。
「未踏は収益の香り」
ミーナは即断する。「“最初に押さえる”ことに価値があるわ」
「だが簡単じゃない」
カインが腕を組む。「装備、手、時間……どれも必要だ」
「……確認する」
俺は深く息を吸い、森の奥へ視線を絞る。
「【真鑑定】」
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光が走り、視界は地中へ潜る。
絡み合う根。水脈。硬い層、柔らかい層。
――そして舌にピリ、と乗る“金気”。魔石の波長。
――――――
【真鑑定】(遠隔・概観)
対象:未踏ダンジョン(成長中推定)
資源反応:微弱ミスリル/極小アダマンタイト/魔結晶(低純度)
危険:成長中につき不明(魔力反応有り)
商機:高(加工技術と運用人員が条件)
備考:地熱弱、湿度高。入口狭隘。
――――――
(……“ある”。だが、今すぐ突っ込む話じゃない)
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俺は光を閉じ、仲間を見た。
「当たりだ。鉱気がある。魔結晶も薄く反応。――ただし今じゃない。まずは手順だ」
「手順、ね」
アリアが頷く。
「まずはハルトンへ戻る」
俺は指を折って数える。
「アントのダンジョンを“定常運用”に。未踏の洞は“冒険者ギルド支部”と連携して分担する。……ハルトンを、ダンジョン都市に育てる」
「いい響きだわ」
ミーナが笑顔で頷く。「店、宿、依頼掲示板。……人が絶えない“中心”にね」
「鍛冶場も増設だな」
カインが肩を回す。「鉱石が来るならなおさら。よし、やってやろう」
⸻
「ところで、その洞窟……名前は?」
アリアがわざとらしく問いかける。
「名前?」
「ダンジョンに名前があった方が、人は惹かれるわ」
俺は少し考え、森の奥を見やった。
湿った空気、ほの暗い魔力、そして眠る鉱石の光――
「……《蒼晶の眠る洞》としよう」
その場の空気が、わずかに震えた気がした。
「いい名前ね」
アリアが剣を鳴らす。
「“蒼晶”。宝の響きだ」
「商人受けもいい」
ミーナがにやりとする。「チラシに刷りたくなる名前だわ」
「……派手な名前は看板になる」
カインが唸り、「よし、腕が鳴るな」と笑った。
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俺は街道の先――ハルトンの屋根を見やった。
乾いた道は今日も人を運び、旗が風に揺れている。
(――蒼晶の眠る洞。その存在が、領地を新たな段階へ押し上げる)
足取りは自然と早まる。
やることは山積みだ。
けれど、その一歩一歩が未来へ続く。
街道の脇でホーンラビットが顔を出し、すぐに逃げた。
アリアが弓に手をかけて、しかし笑って手を下ろす。
「今日は狩りより、帰還優先」
「珍しいな」
カインが肩を揺すって笑う。
「だって――」
アリアは前を見据えた。
「“やること”が山ほどあるから」
街道の先、ハルトンの旗が小さく揺れていた。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




