テルマハルト開発
翌朝。
俺はモルネルを抱え、アリアとミーナ、それから鍛冶場から顔を出したカインを連れて、テルマハルト村へ向かった。
「温泉が出るかもしれない村、だっけ?」
「“兆し”だな。実際に出るかは……やってみないとわからん」
「ふふ、あなたってこういう時、やたら楽しそうよね」
アリアが横目で笑う。
「領地の未来がかかってるんだ。楽しまずにいられるか」
街道はアント素材で固めた道床が乾いており、足取りは軽い。道の両脇にはストーンウルフの石材で組んだ土留めが続き、まるで昨夜の篝火の残り火のように頼もしさを放っていた。
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テルマハルト。
白い粉が風に舞い、足元からはほんのり温かさ。村人たちはそれを「地の熱」と呼び、冬は家畜を寄せて暖を取るのだという。
「まずは全体を見よう。……【真鑑定】」
視界に、地層の図が重なる。
赤い帯が地下深くを走っていた。主脈は深い――だが副脈があった。浅い、ぬるい水のにじみ。
「アリア、杭を。そこから三歩分ずらして」
「はいはい、任せて」
コン、コンと杭が打たれる。カインが木を削り、ミーナが手際よく縄を張った。
「モルネル、頼むぞ」
「もるっ!」
モルネルが鼻を突き立て、前足でちょいと掘る。
大地が息をしたように沈み、指先ほどの穴からぬるい水がじわりとにじんだ。
「出た!」
アリアが思わず声を上げる。
「この温度なら足湯ね」ミーナが即断する。
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「主脈は深すぎる。でも副脈を集めれば……」
「小さな湯だまりくらいは作れるな」
「観光の試金石、ってわけか」
カインが腕を組んでにやりとする。
「石材は俺が削る。縁石くらいなら今日中に作れる」
「お、仕事が早いわね」アリアがからかう。
「当たり前だ。鍛冶屋に任せろ」
村人の若者たちが土手を切り開き、ストーンウルフ石材を運ぶ。カインが加工し、ミーナが流れを指示する。
モルネルは穴を一周し、水脈導きで細い流れを湯だまりに繋ぎ直した。
やがて、水が増えて――白い湯気が淡く立ちのぼる。
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「試しに、浸かってみる?」
ミーナが笑う。
村の子どもが恐る恐る足を入れ、「あ、あったかい!」と歓声を上げた。
次に老婦人が歩み寄る。
「わしも……ちょっと失礼していいかね」
「もちろん。段差に気をつけて」
湯に足を沈めると、しわの寄った顔に驚きが走った。
その肩に、モルネルが鼻先をちょこんと触れる。
ふわり。淡い光。
“聖癒光”。
「……あら。膝が、楽に……?」
老婦人が震える声でつぶやき、周囲からどよめきが起きた。
「奇跡……!」
「守り神だ……」
光は強すぎず、ただちょうどよく痛みを和らげる。
日常に寄り添う奇跡だ。
「モルネル、よくやった」
「もるっ!」
誇らしげに胸を張り、子どもたちの頭を鼻で順番につつく。笑い声が広がり、湯面が波打った。
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俺は湯の縁にしゃがみ、温度を確かめる。
(主脈はまだ先だ。だが副脈で始められる。街道は整った。次は“来る理由”だ)
「ミーナ。足湯は無料。茶屋を置いて、温泉卵と干し果物。湯の花は袋に詰めて土産に。宿は簡易でいい」
「段取り了解。初回は“無料”で呼び込み、茶屋で回すのね。王都じゃなく、まずは近隣領から……」
「送迎もつけましょう。街道が活きます」
カインが笑いながら石粉を払う。
「露天の囲い、今夜中に立てられるぞ。手すりもつけとこう。……トリス、柄のいい石は残すか?」
「残せ。観光資源だ」
アリアは動線を確認していた。
「見張り台を一基。灯りを三つ。滑らない小道。事故は絶対出さない」
「頼もしいな」
「当然」
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湯気の中でモルネルが光を少し強め、大人たちの肩や背を撫でる。
働き詰めの体がほどけ、笑顔がこぼれていく。
「看板は『ようこそテルマハルトへ』でいきましょう」
ミーナが目を輝かせる。
「“聖癒の夜”。湯気と灯り、音楽でイベントを。売り上げは茶屋と土産で回収」
「名前は雑でも……悪くないな」アリアが肩をすくめる。
村人たちが口々に喜びの声をあげる中、俺はモルネルの背を撫でた。
「ありがとう。……一緒にやろう」
「もるっ!」
モルネルが小さく胸を張り、湯面が揺れた。
白い湯気は空へと昇り――テルマハルトの“最初の一歩”は確かに刻まれた。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




