勝利と余韻
巨体が崩れ落ち、黒く濁った酸の塊が床いっぱいに広がった。
床石を焼くジジジ……という嫌な音とともに白い煙が立ち昇り、やがてその質量は光に変わり、わずかな残骸だけを残して霧散していく。
「……か、勝った……」
木剣を杖のように突き立て、トリスはその場に膝をついた。
腕は酸のせいで皮膚がひりつき、衣服はあちこち焦げて破れている。胸は荒く上下し、今にも酸素が足りなくなりそうだ。それでもあの巨体はもう動かない。
つい先ほどまで、逃げ場のない通路で、死と隣り合わせの戦いを強いられていた。
酸を浴びれば大怪我。踏み潰されれば終わり。
ただの木剣一つで挑むなど無謀にも程があった。だが、最後の最後、核の動きの癖を見抜き、命を賭けて突き込んだ一撃がすべてを決めたのだ。
床に残されたものに、トリスは目をやる。
そこには小さな結晶と、どろりとした濃い粘液がいくつか。
「……これは、素材か」
恐る恐る手を伸ばし、結晶を拾い上げる。
冷たい輝きが指先に伝わり、まるで心臓の鼓動のように淡く明滅する。
瓶を取り出して粘液を流し込むと、重たげな質感が手首にずしりとのしかかった。
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【ドロップ入手】
・《濃縮スライム核の欠片》 ×1
・《高濃度スライム粘液》 ×2
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無機質な通知のように頭の中に響く声に、トリスは小さく息を漏らす。
それは確かに冒険の証であり、命を賭けた対価でもある。
(これをギルドに持ち帰れば……少しは金になるはずだ)
金額にすれば、決して大きくはない。
孤児院で待つ子どもたちに腹いっぱい食べさせるには、とうてい足りない。
それでも、ほんのわずかでもいい。焼きたてのパンを一つでも持ち帰れるのなら――命を懸けた甲斐はある。
「……よし」
木剣を支えに立ち上がる。
足は震え、視界はまだ霞んでいる。
けれど瞳だけは、決して揺らがなかった。
暗い通路の奥を見上げる。
遠くで水滴が落ちる音が反響し、冷たい風が肌を撫でる。
深淵のような闇の中、ただ一人、少年の瞳だけが確かな光を宿していた。
(俺は、絶対に生き残る。何度でも、何度でも……!)
ふらつく体を無理やり前へと押し出し、トリスは帰路につく。
血と汗と涙で塗り固めた一歩一歩を踏みしめながら。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。