祝宴と貴族の闇
玉座の間での叙任が終わると、広間は一転して華やかな宴へと変わった。
高い天井に灯されたシャンデリアが煌めき、長卓には豪奢な料理が次々と並べられていく。
楽人たちの竪琴が柔らかく響き渡り、重苦しい緊張が少しずつ解けていくのを肌で感じた。
◇
「子爵殿、実に見事な働きであった」
白髪の老臣が近づき、杯を掲げてくる。
「アントの巣を討伐しただけでなく、素材の利用法を確立するとは……。
その技術こそ、王国にとって金貨の山にも等しい価値を持つであろう」
「ありがとうございます」
俺は姿勢を正し、杯を合わせた。
酒が喉を焼き、胸の奥まで熱を届ける。
別の重臣も前に出る。
「だが領地経営は討伐とは違う。民は魔物のように斬れぬ。
治めるとは、守ること。そして導くことだ」
「肝に銘じます」
俺は深く頷いた。
(――ここからが本当の戦いだ)
◇
そんな俺の背を、アリアが軽く突いた。
「堅苦しい顔してる。もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃない?」
「そう見えるか?」
思わず苦笑いを返すと、彼女は杯を手に小さく笑った。
「うん。でも、今のあんたなら――胸を張っていいと思う」
◇
「ほら、重臣の相手ばかりじゃ疲れるでしょ」
隣にいたミーナが柔らかい声で割り込む。
「挨拶に来る人の名前と肩書き、あとで整理してあげる。書き留めるのも任せて」
「……助かる。僕だけじゃとても覚えきれない」
「子爵様って呼ばれるの、慣れてきた?」
いたずらっぽく笑うミーナに、耳が熱くなるのを感じた。
「やめてくれ、まだ落ち着かない」
◇
やがて、アルトリウス王が立ち上がり、杯を高く掲げた。
「皆の者、聞け! 本日の主役は――若き子爵、トリス・レガリオンである!
アントの群れを打ち破り、新たな資源を王国にもたらした英雄だ!」
「トリス子爵に、栄光あれ!」
「栄光あれ!」
広間が大きな歓声と拍手に包まれる。
無数の視線と声援を浴びながら、俺は自分が背負ったものの大きさを改めて噛みしめていた。
アリアが隣で小さく呟く。
「……本当に誇らしいわ、トリス」
ミーナも杯を掲げる。
「でもね、これからが本当の勝負よ。領地をどう動かすかで、あなたの未来が決まる」
「わかってる」
俺は二人の杯に自分の杯を重ねた。
「トリス領の未来に――そして仲間たちに」
澄んだ音が重なり、広間に広がっていく。
それは、俺たち三人の決意を刻む音のように響いた。
表向きは、誰もが若き子爵を称え、杯を掲げていた。
だが――その裏で。
◇
広間の隅、柱の陰でひそやかに声が交わされる。
金刺繍の衣を着た中年貴族が、杯を指先で弄びながら吐き捨てた。
「……馬鹿な話だ。孤児院上がりの小僧が、子爵領を与えられるとはな」
隣の肥えた貴族が鼻を鳴らす。
「しかも名ばかりではなく、実際に領地と技術を手にした。
アント素材の技術……あれを独占されれば、我らの利権に響く」
「国王陛下は賢王と呼ばれているが……あの若造に肩入れしすぎだ」
「ふん、いずれ失敗して民に見放されるだろう。
その時こそ、真に統治できるのは我らであると示せばいい」
杯の葡萄酒が揺れ、どす黒い笑みが浮かぶ。
彼らの囁きは音楽と笑い声にかき消され、誰の耳にも届かない。
◇
一方で、祝宴の中央では王の声が高らかに響いていた。
「――再び告げよう。トリス・レガリオン子爵に、栄光あれ!」
「栄光あれ!」
喝采と拍手が広がり、トリスの名は繰り返し呼ばれる。
アリアが小声で囁く。
「……見て、皆があなたを英雄のように見てる」
ミーナも笑みを浮かべながら、しかし真剣な瞳で続けた。
「けど、その視線が全て味方とは限らないわ。
この先は……敵も増える」
「わかってる」
俺は二人の言葉を受け止め、静かに杯を掲げた。
「――それでもやる。トリス領を、必ず守ってみせる」
杯が重なり、澄んだ音が広間に響いた。
その音の裏で、不穏な影が確かに息づいていた。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




