観察と気づき
ビッグスライムは再び体を震わせた。
ずるり、と通路いっぱいに広がる巨体。
次に来るのは――突進。
その事実を、トリスは全身で理解していた。
背中には冷たい石壁。
もう一歩も退けない。
逃げ場はない。
「……はぁ、はぁ……」
荒い呼吸を押し殺し、トリスは必死に思考を回す。
(落ち着け……焦るな……! 観察だ……!)
脳裏に、今まで幾度も使ってきたスキルの感覚が蘇る。
観察眼――敵の動きを見抜き、癖を掴む力。
(核は……どこに……?)
目を凝らす。
濁った体液の奥、光る球体がかすかに揺れていた。
しかし核は常に動き続け、中心から逃げるように位置を変える。
だから、どれだけ剣を突き込んでも当たらなかったのだ。
「……そうか……!」
トリスの瞳が細く光る。
(核は完全にランダムじゃない。――体を震わせるたびに、必ず左へ寄って……それから戻る!)
何度も、何度も、その動きを確認する。
震えれば左。戻る時は右。
規則的に、決まったリズムで繰り返されていた。
(なら……その一瞬を狙えば!)
⸻
「ぷるんっ!!」
ビッグスライムが跳ね、突進の構えを見せた。
床が揺れ、酸の滴が飛び散る。
ジジジ……と煙を上げ、石畳が黒く焼け焦げていく。
「う……!」
熱気と異臭が押し寄せる。
だがトリスは目を逸らさなかった。
⸻
「うおおおおおっ!!」
全身の力を振り絞り、正面から駆け出した。
まるで突進を受け止めに行くように。
周囲で冒険者が見ていたら、きっと無謀だと嘲笑しただろう。
だがトリスには見えていた。
核の動き。
揺らぎの癖。
そして左に寄る瞬間が迫っていることを。
「まだだ……まだ……!」
巨体が影となり、酸が肩に降りかかる。
布が焼け、煙が立ち上がる。
肌が焼けるように熱い。
それでも一歩も止まらない。
(今だ!!)
核が、確かに左へ寄った。
⸻
「はあああああっ!!」
渾身の突きを放つ。
木剣の先がぶよぶよとした表層を突き抜け、重い抵抗を受けながら奥へ進む。
ぬるりとした嫌な感触を振り払い硬い手応えを掴んだ。
「……砕けろぉぉぉっ!!」
全身の力を込めて押し込む。
ぱきんっ!
鋭い音が響き渡り、光の粒が四方に飛び散った。
⸻
巨大なスライムが、痙攣するように震えた。
次の瞬間、濁った緑の体が内側から崩れ、粘液が一気に爆ぜる。
酸の雫が通路に飛び散り、ジュウウと煙を上げる。
だが核は砕かれた。
その証拠に、スライムの巨体は光の粒へと変わり、ゆっくりと消えていった。
「……はぁ……はぁっ……!」
トリスはその場に膝をつき、荒い息を吐いた。
肩も腕も焼けただれて痛みはひどい。
全身汗まみれで、木剣の先は酸で黒く焦げている。
けれど――勝った。
「やった……倒した……!」
震える声で呟いた。
孤児の少年は、たった一人で巨大な魔物を討ち取ったのだ。
その小さな胸の奥で、確かな実感が芽生えていた。
(俺は……生き残れる。生きて、みんなを守れる……!)
光の残滓がきらめきながら消えていく。
それはまるで、少年の未来を祝福するかのように輝いていた。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。