不穏な兆し
その夜、村は笑いに包まれていた。
焚き火を囲みながら、ラットモールの話題でもちきりだ。
「温泉に入れるなんて、夢みたいだな」
「いやいや、まずは倉庫だ。麦を雨で駄目にするのはもうごめんだ」
「でも、道も掘ってくれるんだろ? 商人がもっと来るぞ!」
未来を語る声は尽きない。
普段は口数の少ない老人たちでさえ、子供のように夢を語っていた。
俺は笑いながらも、胸の奥で小さな違和感を抱いていた。
(……魔物が役立つ存在になる。それは確かに良いことだ。
だが、自然界の均衡がそう簡単に変わるはずがない)
そう思いながら、夜空を仰いだ。
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翌朝、見張りの若者が駆け込んできた。
「トリス! 森の方から、また出てきたぞ!」
「またラットモールか?」
「いや……違う! 蟻だ!」
駆けつけた先で目にしたのは――。
森の縁から現れた《ワーカーアント》の群れ。
昨日まで二匹、三匹で姿を見せる程度だったのが、この日は十匹以上の列をなしていた。
しかも、それぞれが木の枝や獣の死骸を運んでいる。
「数が……多すぎる」
ルークが唸る。
「普通の群れじゃない。まるで軍隊だ」
アリアも険しい顔で弓を構えた。
「見て。動きが整ってる。ただの獣じゃないわ」
俺は《洞察眼》を発動した。
そこに浮かんだ情報は、いつものワーカーアントとは違っていた。
――《ワーカーアント》:巣の拡張行動。規律性:高。
(……やっぱりか。巣が拡大してる。つまり、奥にもっと大きな存在がいる)
背筋に冷たいものが走った。
(これまで現れていたのは、表層の個体にすぎなかった……)
⸻
「お、おい……あれ全部敵なのか?」
「俺たちじゃ手に負えないぞ!」
「また誰か死ぬんじゃ……」
村人たちがざわめき、恐怖が広がる。
昨日までの希望が、一瞬で不安に塗り替えられようとしていた。
俺は一歩前に出て、声を張り上げた。
「落ち着け! 数は多いが、まだ襲ってきてはいない。
あいつらは――巣のために動いているだけだ!」
「巣……?」
「じゃあ、まだ本気じゃないのか?」
「そうだ。けど、このまま放っておけば……。
巣はどんどん広がり、いずれこの村も飲み込まれる」
俺の言葉に、誰もが息を呑んだ。
⸻
アリアが弓を下ろし、小声で俺に問う。
「トリス……これ、ただの群れじゃない。組織だわ」
「組織……?」とルークが首をかしげる。
俺は静かに答えた。
「ああ。きっと巣の中には、兵士も、指揮を執る存在もいる。
俺たちが知らない、蟻の“王国”が広がってるんだ」
ミーナが顔を強張らせる。
「もしそうなら……街道作りどころじゃなくなるわ。交易どころか、この村自体が……」
誰もが言葉を失った。
ただ、ラットモールの檻の中から聞こえる鼻息だけが、妙に重く響いていた。
俺は拳を握りしめ、呟いた。
「……やるしかない。このままじゃ未来なんて来やしない」
⸻
【次回予告】
アント・ドミニオン(蟻王領ダンジョン)への初侵入――。
そこにはワーカーアントだけでなく、ストーンウルフやロックバッタすら雑兵として従える、蟻の王国が待ち受けていた。
まぁ、アリですからねそりゃ繋がりますよねAI様。
蟻のダンジョン
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




