荒れ果てた村
王都を出て西へ向かう街道は、しだいに活気を失っていった。
城下では賑やかに声を張り上げていた商人たちも、門を越えれば姿を消し、代わりに風が草を揺らす音ばかりが耳に残る。
馬車の車輪が土を踏み締め、ぎしりと軋んだ。
窓の外に目を向けると、かつて耕されたはずの畑が雑草に覆われ、麦の黄金色はどこにもない。
黒く焦げたような土の跡が点々と続き、村人の手が長らく入っていないことを物語っていた。
「……ずいぶん荒れてるな」
思わず言葉がこぼれた。
御者台で手綱を操るカインが肩越しに応じる。
「まだこれでもマシな方だ。奥に行けば、もっとひどい。
戦や魔物のせいもあるが、一番の理由は……人が疲れ果ててるからだ」
言葉の重みが、馬車の中に落ちた。
アリアが窓際に寄り、じっと畑を見つめる。
「父も同じことを言っていた。剣で村を守れても、人の心までは守れないって」
俺は拳を膝の上で握った。
――これが、俺に託された領地。
これから向き合う現実。
◇
道中、時折すれ違う村人たちは馬車をちらりと見るだけで、挨拶もない。
痩せこけ、背を丸め、視線を合わせようとしない。
かつての俺も、こんな目をしていたのかもしれないと思うと胸が詰まった。
「トリス、顔がこわばってるぞ」
カインが笑いを含んだ声で言う。
「緊張するのは当たり前だが、肩に力を入れすぎると空回りする」
「……緊張してるよ。でも、それ以上に覚悟してる」
「ほう、言うじゃねえか」
カインがにやりと笑い、手綱を軽く引いた。
アリアはそんな二人を見て小さく笑った。
「大丈夫。六年間、誰よりも努力してきたのを知ってる。だから、きっと乗り越えられる」
「……ありがとう」
自然と声が低くなる。彼女の言葉は、どんな剣よりも強く胸を支えてくれた。
◇
やがて丘を越えると、村の全貌が現れた。
屋根瓦は崩れ、壁はひび割れ、広場の大樹は枝先が枯れ落ちている。
道には小石が散乱し、井戸の周りには人影すらない。
生活の気配があるはずの場所に、あるのは静けさと諦めの匂いだった。
「これが……俺の村」
声が自然に漏れた。
アリアもまた視線を落とし、息を詰めていた。
馬車を広場に止めると、数人の村人が集まってきた。
最初に前に出たのは、鍬を杖にした年配の男。
深い皺の刻まれた顔は険しく、眼光だけは衰えていなかった。
「……あんたが、新しい領主か」
低く抑えた声に、周囲の村人がざわつく。
「はい。トリス・レガリオンと申します」
俺は深く一礼し、声をはっきりと響かせた。
「子どもじゃないか。俺たちは何度も待たされ、何度も裏切られた。もう言葉は聞き飽きた」
男は鼻を鳴らす。その名はバルドと名乗った。畑をまとめてきたという。
「言葉だけを持ってきたつもりはありません。俺は剣を振るい、鍛冶を学び、畑を耕すことも覚えました。
村のために、この手を動かします」
沈黙が落ちる。
だが、後ろから女性が一歩進み出た。
子を抱いた若い母親だ。目は不安と、それでもわずかな希望で揺れていた。
「……もし本当にやってくれるなら、信じたい。私たちの子どもにだけは、飢えさせたくないんです」
彼女の声に、周囲の村人たちが小さく頷いた。
バルドは目を細め、吐息を洩らす。
「ならば見せてもらおう。口ではなく、行動でな」
「はい。必ず」
俺は深く頷いた。
◇
そのとき、群れから小さな子どもが駆け寄ってきた。
痩せた手で俺の服を掴み、大きな瞳で見上げる。
「領主さま……ごはん、くれる?」
心臓を掴まれるような衝撃。
俺は膝をつき、子どもと視線を合わせる。
「必ず食べられるようにする。約束だ」
子どもの目に、わずかな光が宿った。
――この村を立て直す。
それが、俺に課せられた最初の仕事だ。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




