二年目の夏 ―道具に宿る想い―
修行を始めて二年が経った。
俺は十三歳になり、火と汗と槌に染まった毎日を過ごしていた。
最初は槌を握れば腕が震え、炉の熱に近づくだけで息が苦しかった。
だが今は違う。
豆だらけだった手のひらは硬く鍛えられ、火傷の痕さえも努力の証に思える。
工房に立つことが、もう当たり前の日常になっていた。
⸻
「今日は特別な課題を出す」
ガルドの鋭い眼差しに、背筋が自然と伸びる。
「課題……ですか?」
「孤児院で役立つ道具を打て」
「孤児院で……!」
胸が熱くなる。
浮かんだのは、ひび割れた木の杓子、すり減った鍬。
いつも皆で苦労して使っていた道具たちだ。
あれを、俺の手で作り直せる――。
「鍋杓子と小鍬を作れ」
「はい!」
返事は迷いなく飛び出していた。
⸻
まずは杓子。
炉に鉄片を入れ、じっと火を読む。
ぱちぱちと弾ける音、鼻を刺す金属の匂い。
一年前よりずっと鮮明に、鉄の呼吸がわかる。
「今だ!」
火箸で取り出し、金床へ。
カンッ! カンッ!
槌を振るうたび、鉄が丸みを帯び、柄が伸びていく。
長い柄。深い丸み。折れない厚み。
何度も失敗を繰り返しながらも、手を止めることはなかった。
「おお、形になってきたな」
カインがにやりと笑う。
「けど最後の丸みは難しいぜ。下手すりゃヒビだ」
「……わかってます」
息を整え、迷いなく槌を振るう。
リズムが響き、鉄が応える。
夕暮れ、杓子は確かに完成していた。
⸻
次は農具、小鍬。
「鍬は土を割る。刃を鋭くするだけじゃ駄目だ」
ガルドの声が低く響く。
「腰を残し、力を受け止めるように打て」
「はい!」
再び炉へ。
赤く光る鉄を取り出し、土を割る姿を想像しながら槌を振るう。
カンッ! カンッ!
厚みと角度。
すくう形と割る力。
何度も修正し、ようやく刃の腰が残った。
「……!」
最後の一打を終えた瞬間、鉄は鍬になっていた。
「よし。不格好だが、使える」
ガルドの言葉に、胸が熱くなる。
――――――
【スキルログ】
・《鍛冶》 Lv1 → Lv2
――――――
視界に浮かんだ瞬間、心臓が跳ねた。
努力は無駄じゃなかった。
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数日後。
杓子と鍬を孤児院に届けた。
「すごい! 本物の鉄の鍬だ!」
「この杓子、大きい! スープいっぱいすくえる!」
子どもたちの歓声が広がる。
院長先生は驚き、そして涙を浮かべて微笑んだ。
「ありがとう、トリス。あなたが打った道具が、みんなを助けてくれる」
その言葉に、胸が熱くなり、目頭がじんとした。
アリアが横で笑っている。
「ほらね、言った通りでしょ。あんたは、そういうの得意なんだから」
「……鍛冶屋になる気はないよ」
「わかってる。けど、この経験は絶対に無駄にならないわ」
その瞳は真っ直ぐで、俺はうなずかずにはいられなかった。
⸻
工房に戻ると、ガルドが待っていた。
「今日からお前は、一人前の見習いだ」
「……はい!」
「覚えておけ。鉄は嘘をつかん。だが人は嘘をつく。
お前が鍛えたものが誰かを笑顔にするなら、
それはお前自身の誠実さだ」
火の前で、その言葉を心に刻む。
⸻
この経験は確かに俺を強くした。
火を読む目。
しぶとく槌を振り続ける根気。
仲間や孤児院の子どもたちの笑顔を守りたいという気持ち。
全部が、これからの俺の力になる。
槌音に宿るのは技術だけじゃない。
未来を切り開く、俺自身の誠実さだ。
十三歳の夏、俺は新しい一歩を踏み出した。
鍛冶の修行で得たものを、必ず未来へ繋げるために。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




