炎を読む少年
翌日も、俺は工房の炉の前に立っていた。
両手は豆だらけでひりひり痛み、腕は筋肉痛で鉛のように重い。
それでも、不思議と胸は高鳴っていた。
「今日は槌は握らせん」
ガルドの低い声が響く。
「……え?」
「鉄を打つ前に覚えることがある。火を読め」
「火を……読む?」
「そうだ。鉄は生き物だ。熱しすぎれば脆く、冷めすぎれば硬くなる。
色と匂い、そして音で、鉄の声を聞き取れ」
◇
ごうごうと燃える炉に目を凝らす。
鉄は炎に包まれ、真っ赤に輝き、じわじわと橙色へ変わっていく。
鼻を突く金属の匂い。ぱちぱちと弾ける火の粉の音。
「どうだ、今の鉄は」
「……赤が暗くなって、音も小さく……熱が落ちてきてます」
「正解だ」
ガルドは火箸で鉄を引き上げ、再び炉に戻した。
その瞳に、ほんのわずかだが期待の色が宿った。
◇
「へぇ、初めてにしちゃ上出来じゃねえか」
カインが横から覗き込み、にやりと笑う。
「でもな、色だけで判断すると痛い目見るぞ。匂いと音も大事だ」
「匂い……音……」
俺は汗を拭いながら、鉄に意識を集中させた。
じっと見つめるうちに、不思議な感覚が芽生える。
赤から橙、橙から黄へと変化する色合いが、まるで呼吸のように見えてきた。
「……鉄が、呼吸してるみたいだ」
「おっ?」
カインが目を丸くする。
「そうだ、それだ! 鉄の呼吸を感じ取れりゃ、打つタイミングは自然と見えてくる」
◇
その時、アリアが桶の水を抱えて近づいてきた。
「トリス、本当に集中してるのね。昨日とは別人みたい」
「昨日は力任せで失敗したから。今日はちゃんと、見たいんだ」
「……ふふっ。そういうとこ、好きよ」
不意に微笑まれ、顔が熱くなる。
……いや、炉の熱のせいだ。きっとそうだ。
◇
夕暮れ。
ガルドが無言で鉄を炉に入れ、取り出した。
「さあ、こいつをどう見る」
俺は一歩前に出て、炎に包まれた鉄を凝視する。
橙に黄が混じり、火の爆ぜる音は少なく、甘い金属の匂いが漂っていた。
「……今が、打ち時です」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、ガルドの口元がわずかに上がった。
「悪くない。よく見えている」
◇
「なかなか筋がいいじゃねえか」
カインが豪快に肩を叩いてきた。
「俺より早くコツ掴んだんじゃね?」
「そ、そんなことは……」
「ははっ、謙虚もいいが胸張っとけ。自分で掴んだ力だ」
アリアも嬉しそうに頷く。
「父さんがあんな顔するの、久しぶりに見たわ」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
昨日はただ必死に槌を振るっただけだった。
だが今日は鉄の声を、確かに聞き取れた。
炎と鋼が呼吸する音。
俺は、その会話を少しだけ理解できたのだ。
◇
夜、孤児院に戻った時も、耳にはまだ火の爆ぜる音が残っていた。
痛む手のひらを見下ろし、思わず笑みがこぼれる。
(俺は、鉄と話せる。少しだけど……確かに)
十一歳の夏。
鍛冶屋の道を歩き始めた俺にとって、二日目は“火と会話する日”になった。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




