帰還、名がひとつ増える日
森を抜けたとき、夕陽が目に沁みた。
その光は温かさよりも重さを帯び、戦場の血と煙の匂いを鮮やかに蘇らせる。
俺たちの耳には、いまだに咆哮と剣戟の余韻が残っていた。
「……戻ってきたんだな」
ルークが深く息を吐き、肩の盾を背負い直す。
砕けかけた鉄板は、戦いの記録そのものだった。
「それ、もう使えないね」
アリアが盾を見て言う。
「でも最後まで持ちこたえてくれた」
「お前が守ってくれたからだろ」
俺が言うと、ルークは苦笑して空を見上げた。
「指、見せて」
アリアが俺の手を取る。皮膚は裂け、血がにじんでいた。
「痛いでしょ」
「平気。これくらいなら」
「黙って塗る」
ミーナが薬草の膏を差し出し、指先に塗りつけた。
ひやりとした冷たさに顔をしかめると、ディルが笑う。
「痛いってのは、生きてる証拠だ」
⸻
王都の東門に近づくと、街のざわめきが風に混じった。
見張り台には兵士だけでなく市井の人々まで詰めかけ、俺たちの列を見つけた瞬間、声が上がった。
「帰ってきた!」
「討伐隊が戻った!」
子どもが泣きながら手を振り、母親が赤子を抱えたまま膝をついて兵士に頭を下げる。
「ありがとう……ありがとう……!」
鐘が打ち鳴らされた。
それは勝利の鐘ではない。
「守り抜かれた」ことを告げる重い響きが、王都全体に広がった。
俺たちは胸を張ることもできず、ただその声と涙に押されるように門をくぐった。
⸻
冒険者ギルドの扉を押すと、空気が張り詰めていた。
依頼掲示板の前に集まった冒険者たちが一斉に振り返る。
沈黙の視線が突き刺さる。
「《風切りの羽》さん!」
カウンターからナナミが飛び出してきた。
大きな瞳が潤み、声が震えていた。
「無事で……本当に……!」
ミーナが杖を掲げる。
「傷は癒した。……でも、甘いもの」
空気が少し和らぎ、ナナミは涙を拭った。
「証拠は……?」
アリアが布袋を差し出す。
黒光りする『王冠骨』が姿を現した瞬間、ギルド全体が凍りついた。
「……キング?」
「信じられねえ……」
ナナミは震える手でそれを抱え込み、声を張り上げた。
「査定室を開けます! ギルド長を呼んで!」
⸻
白石の台に王冠骨が置かれ、職人が息を呑んだ。
「本物だ……君たちが?」
「俺たち五人で」
ルークが静かに答える。
やがてギルド長が現れ、厳しい目で一人ひとりを見渡した。
「儀礼は必要だ。名を」
「ルーク」
「ディル」
「ミーナ」
「アリア」
「……トリス」
名を告げるたび、ギルド長は頷き、低く言った。
「覚えた。《風切りの羽》五人。その名は今日から王都の記録に刻まれる」
その場にいた全員が、重みを理解した。
ざわめきはなく、ただ静かな圧が漂った。
⸻
夜、ギルドの掲示板に新しい紙が貼られた。
《王都東方防衛戦》記録
討伐:ゴブリンキング一体
戦果:森の魔物群退却
記録:冒険者パーティ《風切りの羽》
(ルーク/アリア/ミーナ/ディル/トリス)
参照:王冠骨提出済
――ギルド長
「覚えろ。《風切りの羽》だ。ゴブリンの王を討った五人の名だ」
誰かの呟きが広がり、静かな誓いとなった。
⸻
ギルドの片隅でナナミが皿を抱えて戻ってきた。
「……これは私から」
肉の串、煮込み、焼き菓子。どれも湯気を立てている。
「戦った人への、せめてものお礼です」
「やった」
ミーナが手を伸ばし、ディルも同時に。
「甘いもの先な」
「いや、肉だろ」
「……両方」
小さな笑いがこぼれた。
⸻
食事を終えると、俺はナナミに頼んだ。
「焼き菓子を包んでくれる?」
「孤児院へ、ですね」
ナナミは微笑み、蜂蜜を多めにして渡してくれた。
孤児院に戻ると、メリサ院長が迎えてくれた。
「まあ、トリス……そして皆さんは?」
ルークが一歩前に出る。
「俺たちは《風切りの羽》。トリスの仲間だ」
「そう……仲間なのね。ありがとう」
メリサは深く頭を下げた。
子どもたちが駆け寄り、焼き菓子を抱えて笑顔を見せる。
ルークは盾を誇らしげに、アリアは剣を撫でさせ、ミーナは菓子を分け、ディルは紙細工を折って見せる。
その輪の中で俺は小刀を子どもに握らせた。鞘ごしに。
「ちっちゃい!」
「僕も、まだちっちゃいから」
笑い声が溢れ、戦場の記憶がわずかに遠のいた。
⸻
夕暮れ、孤児院を出て石畳を歩く。
西の空は赤く、街のあちこちで「森」「防衛」「五人」という言葉が囁かれていた。
アリアが小声で聞く。
「見ておく? 今日は“時々”の日」
俺は頷き、意識を掌に落とす。
――――――
名前:トリス
スキル:
・《鑑定》 Lv2【レア】
・《スキル詐奪》 Lv2【レジェンド】
サブスキル:
・《観察眼》 Lv2【アンコモン】
・《人心掌握》 Lv2【コモン】
スキル一覧:
・《体捌き》 Lv3【コモン】
・《基礎剣術》 Lv3【コモン】
・《石投げ》 Lv4【コモン】
・《威圧》 Lv2【コモン】
――――――
(……確かに、強くなった)
「どう?」
「少し、強くなった」
アリアは微笑んだ。
「それなら眠れる」
「その前にお風呂」
ミーナの一言に、また笑いが生まれた。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




