王の喉に届く一手
森に響いていたのは、血の匂いと鉄の軋み、そして絶え間ない唸り声。
ゴブリンキングの大剣は一本の大木を薙ぎ倒すほどの威力を持ち、迫るたびに空気が歪む。
後衛を任されていたはずの俺たち五人は、気がつけば王そのものと対峙していた。
「列を崩すな!」
ルークの怒声。盾は既に限界に近く、縁は歪み、腕には血が滲んでいる。
「矢、あと六本」
アリアが告げる。
「近接に寄る。――トリス、目を貸して」
「わかった」
俺は裂けた掌に布を巻き直し、石を握る。指はまだ動く。
⸻
雑兵ゴブリンが盾のように前に出て棍棒を振る。
だがミーナの〈ウィンドカッター〉が三体を裂き、列に乱れを作った。
ディルがそこに滑り込み、足腱を掠めてさらに列を崩す。
「右から三、戻りが遅い!」
俺の声にアリアが飛び込み、剣を横に差し込む。
黒い血が散った。
怒号と共に、大剣が薙ぎ払われる。
ルークは盾を斜めに構えて受けるが、その衝撃で膝をついた。
「ぐっ……!」
「〈マジックシールド〉!」
ミーナの膜が光り、衝撃を鈍らせる。
「俺が倒れたら終わる……まだいける!」
ルークの声は掠れても強かった。
⸻
ゴブリンキングは薙ぎ払い、突き下ろし、さらには大地を叩きつけ衝撃波を放った。
地面は裂け、木々は悲鳴を上げる。
そのたびに兵士の悲鳴が遠くに混じった。
「ルーク、持つか!」
アリアの叫び。
「……持たせる!」
ディルは背を狙っても、大剣が振り返らずとも軌道を変えて迫ってくる。
「くそ、化け物が!」
紙一重でかわし、枝を蹴って退いた。
⸻
俺は息を整え、巨体の動きを読む。
踏み込みは深い分、戻りが遅い。肩より先に腰が回る癖。
その半拍を突けば、喉に線が開く。
「次の戻り、狙う!」
俺の声に、アリアが頷き、剣を構えた。
ルークが大剣を受け止め、火花が散る。
返す刃を振り上げた瞬間、アリアの剣が脇腹を裂いた。
ディルが背後から短剣を突き、ルークが押し込む。
(決めるなら今――)
俺は倒木と露出した根を見た。
「ルーク、右へ! 倒木に誘導!」
「任せろ!」
「ミーナ、根に風を!」
「〈ウィンドカッター〉拡散!」
根の表面が裂け、滑る板のようになる。
「ディル、蹴れ!」
「了解!」
巨体が右足を踏み出し、根に乗る。
足首が滑り、腰が遅れる。
「今だ!」
俺の声に、全員が動いた。
アリアが剣を喉へ突き込み、ルークが盾で左を塞ぐ。
ディルが背を蹴り、体勢を崩す。
ミーナが閃光を浴びせ、視界を奪う。
浅い裂け目が喉に走った。
だがまだ倒れない。
血を撒き散らし、大剣を最後の力で振り上げる。
「やめろぉ!」
俺は石を掴み、喉の傷口へ投げ込む。
小石が沈み、裂け目が広がる。
アリアが刃を重ね、傷が繋がり、喉が断たれた。
巨体が崩れ落ち、地面を震わせた。
キングゴブリンの赤黒い眼光が消え、広間はようやく静けさを取り戻す。
僕の足は震えていた。
勝った、のか……?
その瞬間、あの感覚と共に数字が走った。
【レベルアップ】
名前:トリス(9歳)
Lv:5 → 7
HP:95 → 120
MP:1100 → 1500
STR:18 → 22
VIT:16 → 20
AGI:19 → 22
DEX:24 → 28
INT:30 → 34
MND:24 → 28
LUK:57 → 61
「……っ、すご……!」
胸が苦しいくらいに跳ね上がる数値。
魔力は成人の十五倍以上
桁違いの領域だ。
⸻
「……勝ったのか」
ディルが短剣を杖にし、息を吐いた。
ルークは盾を落とし、笑った。
「よくやった……俺たちで勝ったんだ」
ミーナはへたり込み、息を吐く。
「甘いもの……先」
「賛成」
ディルが笑う。
アリアは剣を払って鞘に納め、顎の奥から硬い『王冠骨』を取り出す。
「証明はこれ。牙と爪も使える」
⸻
そこへ兵士たちが戻ってきた。
中隊長が剣を杖にして立ち、低く言った。
「名を名乗れ。――この功績は王都に伝える」
ルークが胸を張る。「ルーク」
ディルが口元を緩める。「ディル」
ミーナが杖を支えて。「ミーナ」
アリアが剣を拭って。「アリア」
そして俺。「トリスです」
中隊長は一人ずつ目を合わせ、深く頷いた。
「覚えた。お前たち五人が、後衛を守り王を討った。この戦は全員の名で語られる」
兵士たちの間にざわめきが広がる。
「子どもが……」「いや、五人だ。全員だ」
その声に胸が熱くなった。
⸻
帰路。
アリアが俺の頭を撫でた。
「よく見てた」
「……みんなが強かったから」
俺は笑った。
「そう、みんなで勝った」
アリアも笑う。
血と焦げの匂いの向こうに、瑞々しい緑の香りが戻ってくる。
兵士と冒険者の列は揃って歩き、森の出口に光が差していた。
王都で今日のことは広がるだろう。
だが大事なのは――仲間と一緒に、帰れること。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




