ゴブリンキングの出現
森の奥から、低い唸りと共に風が押し寄せた。
枝葉が揺れ、鳥が散り、土の匂いが一気に濃くなる。
すでに討ち取ったホブゴブリン三体の死骸からは黒い血の臭気が立ち上り、辺りは戦場の空気に染まっていた。
「……なんだ、この気配」
アリアが眉を寄せ、剣に手をかける。
次の瞬間、前方から人の叫び声が届いた。
「下がれ! 隊列を崩すな――!」
「くそっ、押されるなぁっ!」
重い音が連続し、森の奥で兵士たちが次々に弾き飛ばされてくる。
鎧が裂け、盾が砕け、兵士たちは血に塗れて後退してきた。
その背後から――現れた。
木をなぎ倒しながら、巨体が姿を見せる。
普通のゴブリンとは明らかに異質。
体格は人の大男をも超え、肩幅は倍近い。
握るのは刃こぼれの少ない大剣。
赤黒い瞳が、群れを従える支配者の光を宿していた。
「ゴブリン……キング」
ルークが唸る。盾を構える手がわずかに震えた。
周囲の雑兵ゴブリンたちが吠え立てる。
だがそれはただの興奮ではない。
巨体が一歩進むたび、雑兵たちが呼吸を合わせるように動き、整列していく。
それは“指揮”ではなく“支配”。
命令すら要らない。存在だけで群れを操っていた。
⸻
「後衛まで押してくるとは……!」
ディルが舌打ちし、短剣を逆手に握る。
「俺たちで抑えるしかないな」
「退くわけにはいかない」
ルークは盾を構え直し、唇を噛んだ。
「ここで止める。後ろは街だ。絶対に通さない」
アリアが矢を一本つがえる。
「正面は任せて。――私たちの番だ」
⸻
ゴブリンキングが唸り声を上げ、大剣を振り下ろした。
前方の兵士ごと、地面を叩き割る。
土が爆ぜ、破片が飛ぶ。
兵士たちは悲鳴をあげながら後退し、ついにトリスたちの列へ押し寄せた。
「来たぞ!」
ルークが叫び、盾を正面に構える。
雑兵たちが一斉に突撃してくる。
棍棒、錆びた剣、牙――数で押し潰そうと迫る。
「〈ウィンドカッター〉!」
ミーナの風刃が走り、三体の肩を裂いた。
そこへトリスの石が飛ぶ。
額、こめかみ、足首。外れもあるが、狙いは“線”。
敵の動きがわずかに乱れ、ルークの盾が受け止めやすくなる。
「押さえた!」
ルークが吠え、盾で一体を押し返し、剣で喉を突いた。
アリアは矢を次々と放ち、喉や胸を正確に射抜いていく。
だが、雑兵を倒しても、背後から次々に補充される。
「止まらない!」
ディルが息を荒げる。短剣で一体を刺し伏せるが、すぐ次が迫る。
⸻
その時――キングが動いた。
大剣を振り上げ、前へ。
ルークが盾で受け止める。
「ぐっ……重っ!」
盾の縁がきしみ、地面にめり込む。
腕が痺れる。それでも、踏みとどまる。
「ルーク!」
アリアが横から斬り込み、剣を肩に滑らせた。
だが、分厚い筋肉が刃を弾き、黒い血がにじむだけ。
キングの足が跳ね上がり、蹴りが放たれる。
ルークの盾ごと体が弾かれ、地面に転がった。
「ルークさん!」
トリスが叫ぶ。
だが、ルークはすぐ立ち上がる。盾を握る手は白くなるほど固い。
「まだだ……まだ、倒れねぇ!」
⸻
「トリス!」
アリアの声が飛ぶ。
「キングの動きを読んで! 合図を!」
「わかった!」
トリスは目を凝らす。
《洞察眼》が巨体の動きを拾う。
踏み込みは深い。だが、その分――戻りが遅い。
「戻りのときが穴!」
「了解!」
アリアが剣を構え、キングの攻撃を待つ。
大剣が振り下ろされ、ルークが盾で受け止める。
返す刃を振り上げた瞬間――
「今!」
トリスの声。
アリアが踏み込み、剣を脇腹に滑り込ませた。
黒い血が噴き出す。
「効いた!」
ディルが背後から短剣を突き立てる。
浅いが確かに肉を裂く。
「このまま削る!」
ルークが吠え、盾を再び押し込む。
⸻
キングの目が赤く光る。
低い唸りが響き、雑兵たちが再び列を整える。
一斉に吠え、突進してきた。
「終わらせない気だ!」
ミーナが叫び、火花を弾かせる。
〈ファイアスパーク〉が前列を焼き、悲鳴が上がる。
トリスは石を握りしめる。
狙うは――キングの目。
指先から放たれた石が、巨体の顔をかすめ、頰に当たった。
わずかに視線が逸れる。
その瞬間、アリアの矢が頰を裂いた。
赤黒い血が一筋、流れる。
「通る……!」
アリアが低く呟き、再び剣へ切り替えた。
⸻
戦いはなお続いていた。
雑兵はまだ群れをなして押し寄せ、キングは動きを止めない。
兵士たちは恐怖に震えながらも後列で体勢を立て直していた。
「俺たちが――ここで止める!」
ルークが盾を叩き、声を張り上げた。
アリアは剣を振り抜き、ミーナは風を裂き、ディルは刃を閃かせる。
トリスは石を投げ、合図を飛ばす。
森の奥から、なおも唸りが重なる。
だが、少年の胸の中には恐怖よりも強いものがあった。
(僕たちで、守るんだ)
彼の小さな拳は、もう震えてはいなかった。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




