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転生したら孤児院育ち!? 鑑定と悪人限定チートでいきなり貴族に任命され、気付けば最強領主として国を揺るがしてました  作者: 甘い蜜蝋
小さな一歩、大きな始まり

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複数の脅威、連携の刃

森の奥から、地鳴りのような唸りが重なった。

湿った空気が押し返してくる。木の葉が震え、鳥は沈黙した。


「来る」

アリアが低く呟く。弓を引き絞ったまま、視線だけで左右を測っている。


茂みを分けて現れたのは――背丈が一回り大きい、濁った黄緑の肌の巨躯。

腕は太く、棍棒は木の枝ではなく、削った丸太をそのまま振るう。

ホブゴブリンが三体。後ろに、普通のゴブリンが十数。


「正面、俺が受ける!」

ルークが盾を構え、土を踏み締める。

盾の縁がわずかに下がり、重さに備える角度になった。


「ディル、右のやつを攪乱。ミーナ、目くらまし優先!」

アリアが矢羽を撫で、短く指示を飛ばす。

「トリスは足を止めて。肩か膝、どっちでもいい」


「うん!」


三体のうち正面の一体が吠えて突進。

地面が、どん、と沈んだ気がした。丸太の棍棒が盾に叩きつけられる。

衝撃音が森を震わせ、ルークの靴が半歩だけ後ろにめり込んだ。


「ぐっ……!」

膝を抜いて衝撃を殺し、盾で滑らせるように棍棒をいなす。

すかさず二体目が斜めから割り込んでくる。

ルークの肩越し――トリスの手が動いた。


――《石投げ》。


一つ目は、斜めから走ってくる二体目の頰をかすめた。

二つ目は膝頭へ。

ごつ、と鈍い音。巨体が半歩沈む。肩が落ちる。そこに――


「今!」

アリアの弦が鳴り、矢が膝裏に突き立った。

膝が崩れた瞬間、彼女は弓を肩に背負い、地面を蹴る。

剣が抜かれる音は短い。銀の線が走り、喉に浅い傷を刻んだ。

浅い。だが十分。血が吹き、巨体は思わず体勢を整えるために後ろへ半歩。

その一拍が、味方の呼吸を整えた。


「右、任せろ!」

ディルが低い姿勢のまま側面に回り込み、短剣でアキレス腱を狙う。

刃は浅く入り、黒い血が飛んだ。

怒りで振り向いたホブゴブリンの棍棒が唸り、ディルの頰すれすれをかすめて大木の根をえぐる。

木の皮が弾け、土が舞い上がる。


「〈ウィンドカッター〉!」

ミーナの風刃が横から走り、ホブゴブリンの耳を切り裂いた。

痛みに目が泳ぐ。

(いまだ!)

トリスは三投目を指から解き放ち、こめかみ――ではなく眉上へ。

骨の厚いところは浅い方が効く。衝撃で視界が揺れれば、それだけで足は鈍る。

狙いは崩し、切り込みは仲間がやる。


正面の個体はなおも凄まじく、ルークの盾を押し潰そうと力任せに踏み込む。

剣を振るう間もない。盾で受け続けるのは危険だ。

棍棒がもう一度、斜め上から振り下ろされ――


「上!」

トリスの声に、ルークは半身を取って盾を立て、斜めに衝撃を滑らせる。

棍棒が盾の縁を滑り、地面へ突き刺さった。

わずかな“間”。

そこへアリアが滑り込み、足首へ斜め二連の剣戟。

筋が切れ、膝が折れる。

巨体が前のめりに沈む――ルークの剣が、額へ、短く、まっすぐ。


どす、と重い音。

正面の一体が、沈んだ。


「一体、落ちた!」

ディルが叫ぶ。

だが、息をつく余裕はない。残る二体が怒号を上げ、後続の小型たちが左右の隙間から滲み出す。


「小型、私が散らす!」

ミーナが杖を振り、火花を散らす。

「〈ファイアスパーク〉!」

ぱちぱちと連鎖する閃光がゴブリンの顔を焼き、短い悲鳴の壁を作った。

その薄い壁に、アリアの矢が三本続けて打ち込まれ、穴を開ける。

矢をつがえる指は迷いがない。

アリアはすぐに弓を背へ、剣を握り直し、残る二体のホブゴブリンの前へ躍り出た。


「左を釣る、右は任せた!」

彼女の刃が左の巨体の視線を奪う。

剣先が耳元をかすめ、肩口に浅い傷が増える。

怒りに任せて棍棒が振り下ろされるたび、アリアは半歩だけ外して抜ける。

踏み込み、退き、踏み込み、退く。

速い。

剣の軌跡が、相手の動きを一本ずつ遅らせていく。


右の個体はディルを追い、足元の短剣に苛立って大振りになっていた。

(大振りは、狙い目)

トリスは肩の動きが大きくなる瞬間――胸の奥を細くまとめた。

喉の奥で、風を作るみたいに。


――《威圧》。


「……見ろ」

囁き。

空気が、ほんのわずか固まる。

巨体の肩が一瞬だけすくみ、足の運びが遅れる。

(今っ!)

「ディル、背中!」


「了解!」

ディルの体が地面を滑るように近づき、背へと回り込む。

短剣が、脇腹の柔らかい肉へ潜った。

黒い血が噴き、巨体が唸り声を上げて振り向く。

だが、その半拍の遅れが命取り。アリアの矢が、横合いから喉に吸い込まれた。


「二体目、崩れる!」

ルークが前に詰め、倒れかけの巨体の胸を剣で打ち据える。

ごき、と嫌な音。心臓のあるあたりまで届いたかはわからない。

だが巨体は武器を手放し、片膝をついた。


残る一体が、怒りの吠え声とともに棍棒を振りかぶる。

狙いは――ミーナ。

詠唱を続けていた彼女の動きが、ほんの一瞬遅れる。


「ミーナ、下!」

トリスは石を拾いざま、全身のばねを指へ集中させた。

――《石投げ》。

石は回転しながら飛び、巨体の眼窩の縁を打ち抜いた。

「グルァッ!」

顔がのけぞり、棍棒が狙いを失う。

かすめた一撃が地面にめり込み、土と黒蟻が一緒に噴き上がる。


「〈ウィンドカッター〉!」

ミーナの風刃が、のけぞった喉を斜めに切り裂いた。

浅い。けれども、致命へ向けての階段の一段。

アリアは弓から剣へ――

踏み込み、右足の外側で重心を受け、刃を斜めに滑らせる。

肩から胸へ。皮と筋が裂け、血が噴く。


「押す!」

ルークが盾で巨体の腹を突き、のしかかるように前へ。

巨体の足が根に引っかかり、ふらつく。

その瞬間、アリアの剣が、額へ――浅く、だが止めない。

もう一度、角度を変えて、短く強く。

金属が骨を擦る音。

巨体が、倒れた。


「三体目、落下!」

ディルが叫び、息を吐く音が複数重なった。


周囲の小型のゴブリンたちが、一瞬だけ怯んだ。

ミーナの火花がその怯みを薄い壁に変え、アリアの矢とトリスの石が穴を塞ぐ。

短い静寂。

しかしすぐに、奥からまた、ざわ、と群れが流れてくる気配。


「まだ残ってる」

アリアが低く言う。剣先から血が滴り、土に赤い斑点が増える。


「追い込むな。形を保て」

ルークは呼吸を整えながら、盾を少しだけ上げ直した。

「傷者、交代! ミーナ、軽傷優先で治癒、できる分だけ!」


「いける。〈マジックシールド〉も薄く張る!」

ミーナが杖を掲げ、前列の胸元に淡い膜を走らせた。

完全な盾ではないが、一撃の刃を鈍らせるには十分だ。


トリスは掌を見た。

巻いた布の隙間から血がにじんでいる。石の角で皮がよく裂ける。

(痛い。でも、まだ、投げられる)

深呼吸。

目の前の一体だけを見る。

肩。腰。目。


茂みの向こうで、別の唸りが重なった。

今度の音は、さっきよりも少しだけ、低い。

腹に響く。土が震える。

ホブゴブリンの残りか――それとも、もっと。


「アリア」

トリスが呼ぶ。


「わかってる」

アリアは弓を肩に掛け、剣を持つ手を軽く振った。

「来るなら斬る。遠ければ射る。……どっちでも倒す」


その言葉に、ルークが笑った。

「頼もしい」


ディルは短剣の血を払って構え直し、ミーナは杖の先にまた風を集める。

風は湿っているのに、少しだけ冷たい。

汗と血の匂いが混じり、喉は焼けるほど乾いているのに、なぜか体は軽い。


(怖い。けど――やれる)

トリスは小刀の柄を握り直した。

《洞察眼》が、揺れる葉と足の影を同時に拾う。

角度。高さ。間合い。

そして、投げるべき瞬間。


「来い」

アリアが囁いた。

弦が鳴り、剣が鳴り、風が鳴る。


茂みの影が、また、大きく膨らんだ。


――まだ終わらない。倒すべきものが、ここにいる。

初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。

AIをとーても使いながらの執筆となっております。

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