大規模討伐・戦闘開始
夜気の冷たさが石畳に残る。
王都東門前は革鎧の軋み、鎖帷子の触れ合う硬質な音、馬の鼻息で満ちていた。
旗が湿った朝風にぱたつき、油を引いた弓弦が鈍く光る。
「……こんなに人が集まるの、見たことない」
トリスは目を丸くして周囲を見渡した。小刀を握る掌が汗ばむ。
「ビビるな。俺たちは補助隊だ」
ルークが肩を軽く叩いた。
「前に出るのは騎士団。俺たちは後ろを守る」
「深呼吸、はい、すー……はー」
ミーナが笑って見本を見せる。杖の先に埋め込まれた青い魔石が朝日をわずかに反射した。
「気を抜かないこと」
アリアは弓を手に、矢羽を撫でる。
指先で弦を弾き、乾いた音を確かめると短く告げた。
「目の前の一体に集中する」
「行軍開始ーっ!」
号令とともに列が動き出す。
土路を抜け、鬱蒼とした森へ。湿った土、苔の匂い、薄暗い木漏れ日。啄木鳥の音が遠ざかる。
奥から甲高い鳴き声――「ギギッ」「ギャァ」。
前列の盾が上がる。
茂みが裂け、ゴブリンが十数体。黄ばんだ牙、泥だらけの棍棒。獣臭が鼻を刺す。
「来るぞ!」
金属音と怒号が一度に弾けた。
⸻
「トリス、下がって援護だ!」
ルークの声。
トリスは石を拾い、息を短く吐く。
――《石投げ》。
石は矢のように飛び、こめかみを打った。
「ギャッ!」――一瞬止まったところへ、ルークが斬り込む。
「ナイス!」
ミーナが杖を振りかざす。
「〈ファイアスパーク〉!」
ぱちん、と火花が弾け、ゴブリンの顔を焼いた。焦げた匂いが漂う。
すぐ横で――
アリアの弦が鳴った。矢は喉を正確に射抜き、次の瞬間にはすでに次矢をつがえている。
「二体目!」
放たれた矢はほとんど音を立てず、別の喉に突き刺さった。
⸻
「後衛、割れた!」
右後方から二体が回り込み、矢筒を狙う。
「〈ウィンドカッター〉!」
ミーナの詠唱。風刃が走り、一体の肩を裂いた。
残った一体に、アリアが振り返りざま矢を放つ。
一直線。眉間を貫かれ、絶叫と共に倒れた。
「助かった!」
トリスが叫ぶと、アリアは矢羽を撫でながら小さく頷いた。
⸻
押し引きが続く。列は波のように前後し、盾の角度が呼吸と揃う。
だが藪の陰からさらに二十近く。圧が増す。叫びと金属音が重くなる。
トリスは石を三つ連投。顔・こめかみ・足首。密集が崩れ、一瞬の“空白”。
ルークが踏み込み、はね、薙ぎ、蹴り上げて空白を広げる。
その頭上を矢が二本走った。
アリアの矢だ。二つの影が同時に崩れ、地に沈む。
「すご……」
思わず呟くトリス。アリアは無言で次の矢をつがえた。
⸻
押し上げの声が出かけ、先頭が半歩深く入りすぎた。
右の盾が草にとられた隙に二体が抜ける。
(間に合わない)
トリスは一歩踏み出し、胸の奥を細く固めた。
――《威圧》。囁くほどの低さ。
「……止まれ」
二体の肩が縮み、足が半拍遅れる。
そこへ矢と槍が同時に突き刺さり、崩れた。
(使いすぎない。……いまのは突風だよ〜)
ルークがこちらを見たが、トリスは笑って石を投げた。
⸻
やがて圧が薄れた。前で倒れる影が増え、背後の叫びが短くなる。
風が通る。
「……引き始めてる」
アリアが矢羽を撫でながら呟く。
「追うな。追えば死ぬ」
ルークが釘を刺す。
「列を整えろ。傷者交換。水を回せ」
トリスは掌の皮が少しめくれて血が滲むのに気づいた。ミーナが布を差し出す。
「ありがと」
きゅっと結び、また石を拾う。
⸻
「今の波、よく耐えた。……トリス、よく見てたな」
ルークが言う。
「僕は投げてただけだよ」
でも、それでいい。
「投げて“当てる”のは簡単じゃないさ」
ディルが肩をすくめた。
「音が重くなってきてる」
アリアが弓を構えたまま低く言う。
「……大きいのが来る」
森が静かになった。だが完全ではない。薄い気配が残る。
「動くぞ!」
先頭から声。列が再び前へ。
土が鳴り、金具が応える。
トリスは小刀を握り直し、石を拾う。
森の奥で、低い唸りが腹を震わせた。
前列の穂先が沈み、盾の角度が変わる。
「慌てるな。目の前の一体だけだ」
ルークの声に全員が頷く。
アリアは弓を構え、矢をつがえた。
ミーナは杖を構え、ディルは短剣を。
トリスは小刀と石。自分にできる全部。
「来る」
アリアが囁き、弦が鳴る。
トリスも息を止めた。
森の影が、色ごと動いた。
――戦いは、まだ、はじまったばかりだ。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




