詐奪の才覚
訓練の日々でのある日
王都のギルドは、大規模討伐の告知で熱気に包まれていた。
冒険者たちがテーブルを囲み、酒をあおり、掲示板の前では依頼内容を確認する声が飛び交う。
「報酬は破格らしいぞ」
「森に巣なんて、本当ならやばいぞ」
「雑魚ゴブリンなら楽勝だろ」
浮ついた笑いと不安の声が交じり合い、広間の空気はざわついていた。
そんな中で、ひときわ耳障りな怒鳴り声が響く。
⸻
「おいガキ、そのポーション寄越せ! どうせお前にゃ使いこなせねぇ!」
壁際では、中年の冒険者ガルバンが新人を脅していた。
がっしりした体を安っぽい鎧に包み、酒臭い息を吐きながら胸ぐらを掴んでいる。
「や、やめてください……!」
周囲の冒険者は知らぬ顔をして席を立たない。
討伐前の今、余計な揉め事を避けたいのだろう。
(……また弱い者いじめか)
トリスは小さく息を吐き、《鑑定》を発動する。
――【対象:ガルバン】
職業:下級冒険者(元兵士を自称)
スキル:〈威圧〉Lv1[コモン]
(やっぱり……。人を怯えさせるスキル。それをこんなくだらないことにしか使ってない)
胸の奥に、小さな怒りが灯った。
⸻
「そんなにすごいなら……僕にも見せてください!」
トリスは小走りで近づき、目を輝かせた。
「どんな感じなのか、試してみたいんです!」
「はぁ? ガキが何言ってやがる」
「お願いします! すごい力なんですよね? 僕も感じてみたいです!」
あまりに無邪気な声音に、ガルバンは鼻を鳴らす。
その隙に、新人はトリスの視線の合図を受け、慌てて人混みへと駆け去っていった。
「……ちっ、逃げやがったか」
ガルバンは舌打ちし、今度はトリスに顔を向ける。
⸻
ずしりと胸を押し潰すような圧力が襲いかかる。
呼吸が乱れ、心臓を掴まれるような重圧。
これが――スキル〈威圧〉。
(効く……確かに、効く。けど……)
トリスは肩を震わせ、無邪気に驚いたふうを装った。
「す、すごい……! 本当に……貴族さまだって黙っちゃうんじゃないですか!?」
「なにっ!?」
ガルバンの顔がにやりと歪む。
「僕なんか一瞬で動けなくなりました! こんな力があれば……王さまですら言うことを聞いちゃうかも!」
「はははっ! そうだろうそうだろう!」
(……いや、効くわけがない。
《威圧》は精神が弱い相手にしか通じない。
兵士のように訓練を積んだ者や、王や貴族のように地位や誇りに守られている者には届かない。
けれど――この人にはその違いがわからない。だから嘘を信じ込む)
その瞬間――。
――《スキル〈威圧〉Lv1[コモン]を詐奪しました》
圧はふっと消え、空気が軽くなる。
「……あれ?」
ガルバンは違和感に首を傾げたが、理由を掴めず、強がって鼻を鳴らした。
「へっ、俺の力は本物だ!」
そう吐き捨て、得意げに立ち去っていった。
⸻
広間の隅に取り残され、トリスは深く息を吐いた。
胸の奥には、新しい力の手応えが宿っている。
(……わかった。やっぱり嘘を信じ込ませれば、相手のスキルを奪える。それが――詐奪)
孤児院の子どもたちの顔が脳裏をよぎる。
仲間たちの姿が浮かぶ。
(脅すためじゃない。この力は、守るために使うんだ)
小刀の柄を握りしめ、トリスは決意を新たにした。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




