紅晶操手《クリムアーキスト》の前夜
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44層を突破したあとも、紅晶の残滓はしつこく床に残っていた。
蒼晶洞の青い光は弱まり、かわりに赤い呼吸のような明滅が奥へ奥へと続いている。
「……あれが、45層の入口ね」
アリアの声は小さかった。
洞窟の奥――黒いアーチのように口を開けた空間。
その境界から、蒼晶と紅晶がせめぎ合う音 が“かすかに聞こえる”。
パキ……パキ……
氷ではない。
蒼晶の結晶が割れ、紅晶が侵食する音。
「蒼晶の層で、これは異常すぎるわ」
ミーナが魔導計を握る手を少し震わせた。
数値は壊れたように乱高下している。
「紅晶の濃度……43層の三倍以上。
ここまで高密度の“侵食区域”なんて、本来ありえないの」
「つまり、“誰か”がやってるのか」
俺が言うと、ミーナは静かに頷いた。
「うん。自然現象じゃない。
これは“意図的な紅晶化”よ。
紅晶の魔力を引き上げて、蒼晶洞そのものを染めようとしてる」
「……操ってる存在がいるんだな」
アリアが弓を握る手に力を込めた。
「魔族……とか?」
「可能性はゼロじゃない。
ただ、証拠はまだ薄い。でも――」
ミーナが指差す。
45層の黒いアーチの内側、
蒼と紅が争う境界に、明らかに“人工的な模様” が浮いていた。
◆Δ◇Λ
そんな文字にも幾何学にも見える、見たことのない“魔紋”。
「魔族語にも、古代語にも一致しない……。でも、魔力の癖だけは一つわかる」
ミーナが魔力糸を伸ばし、紋を触れた。
瞬間、赤い火花が走る。
「っ……!」
アージェが前に飛び出し、ミーナの前で障壁を展開した。
「大丈夫かミーナ!」
「だ、大丈夫……! ただ、これは……強制支配の魔紋」
「支配……?」
トリスが目を細める。
「紅晶を、誰かの魔力で“操ってる”の。
さっきの紅晶傀儡も、たぶんこの紋から生成されてる。
つまり――」
「この先に、“操ってる本体”がいるんだな」
アリアが静かに言った。
「うん。この層のボスは、魔物じゃなく……“操手”」
ミーナが紅晶の揺らぎを見る。
「45層の名前、仮に付けるなら……
――紅晶操手」
全員が息を飲む。
ノクスは影の中で耳を伏せ、
ルメナはトリスの肩にしがみつくように羽を縮めた。
アージェだけが前に出て、喉の奥で低く唸り声を鳴らす。
それはまるで「やるしかない」と言っているようだった。
「行けるか、みんな」
俺が問うと、全員の視線が重なった。
アリアは強気の笑みを、
ミーナは静かに決意を、
ノクスは影を鋭く伸ばし、
アージェは地面を蹴る準備をし、
ルメナは胸の光を強くした。
「決まりね」
ミーナが杖を握り直す。
「45層の奥に“紅晶の操手”がいるなら……
蒼晶洞を取り戻すために、今ここで止めるしかないわ」
アリアも頷く。
「このダンジョンはトリス領の心臓部。
好きにさせるわけにはいかないよ」
「問題ない、俺たちならいける」
トリスは刀《繋》を握り直した。
雷が小さく散り、紅の光を押し返す。
蒼光と紅光がぶつかり合う境界。
それはまさに“戦場の前”そのもの。
「行くぞ。蒼晶洞を守るために――
紅晶操手を叩き潰す」
赤い風が吹き抜ける。
45層の扉が、音もなく開いた。
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