紅に刻まれた呪印
このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。
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紅晶融合体が崩れたあと、洞窟は嘘みたいに静まり返っていた。
さっきまでの轟音が嘘のように、ただ“赤い呼吸音”だけが残る。
地面に転がる紅晶の破片が、かすかに光を放っていた。
それは生き物の鼓動のように、一定のリズムで明滅している。
「……これ、死んでない」
ミーナの声は低かった。
魔導計の針がゆっくり動いている。
「紅晶の魔素が、まだ動いてる。
分裂した後も、勝手に自己再構成してるわ」
「再生力、ってことか?」
トリスが刀を構えたまま、破片のひとつを警戒して見つめる。
だがそれは、動かない。
ただ、光だけが脈打っていた。
ノクスが影の中から音もなく近づき、匂いを嗅ぐ。
“ニャ……”
鳴き声が低い。違和感の警告だ。
「何かあるのか?」
ノクスの尻尾が、壁の一点を指した。
そこには、紅晶に覆われた壁面。
けれど、その中央に奇妙な刻印が刻まれていた。
燃えるような線。
まるで焼きごてで押したような、黒い紋様。
紅晶に浮かび上がったその印は、見るだけで魔力がざわつく。
「……見たことがない紋章ね」
ミーナが眉を寄せ、杖を構える。
「でも、どこか“呪印”に近い。
紅晶を制御するために……誰かが“刻んだ”ものよ」
「誰かが、って……人間が?」
アリアが弓を下ろし、半歩下がる。
紅い壁が息づくように揺れた。
「いや、魔力の波長が違う」
トリスが低く呟いた。
掌に電光が走る。
「人間でも獣でもない。もっと深くて……濁ってる」
「まさか、魔族の……」
ミーナが言いかけた瞬間。
紅晶が鳴いた。
ギィン、と金属音のような響きが洞窟中に走る。
紅い壁が揺れ、印の中央が裂ける。
「離れて!」
ミーナが叫ぶ。
だが、もう遅かった。
裂け目から、黒い霧が噴き出した。
その霧の中で、紅晶の破片が浮かび、形を取り戻していく。
再び異形の気配――だが、今度は違う。
紅晶ではなく、“影”が動いていた。
その影の中から、細い腕が現れた。
紅ではなく、黒紫の爪。
人のようで、人ではない。
「……紅晶を通して、何かが侵入してる」
ミーナの声が震える。
「この層は、“向こう側”と繋がってるのよ!」
トリスは即座に構えた。
刃が光を帯び、雷鳴が走る。
「ここで止める。上に行かせるわけにはいかねぇ」
ノクスが影を広げ、アージェが咆哮。
アリアが矢を番え、ミーナが魔力を集中させる。
紅と黒。
光と闇が、洞窟の中でぶつかり合った。
黒い腕が伸び、壁が割れ、紅晶が震える。
だが、まだ形は完全ではない。
それは“来る前の兆し”――呼び水のような存在。
ミーナの魔導計が悲鳴のように鳴った。
「紅晶の反応が変質してる! ……もう“鉱石”じゃない!
この層そのものが、召喚陣に変わってるのよ!」
「召喚陣……だと?」
「ええ、何かが呼ばれてる。
でも完全に開く前に止めないと!」
トリスは刃を構え、紅晶の中心に飛び込んだ。
雷が爆ぜ、紅と黒の光が弾ける。
「蒼と紅……二度も歪めさせてたまるかッ!」
雷閃が走り、召喚陣が割れる。
黒い腕が崩れ、霧が吹き飛ぶ。
紅晶が砕け、洞窟に沈黙が戻る。
ミーナが膝をつき、深く息を吐いた。
「……危なかった。もう少しで、何かが“出て”きてた」
「今のは……試し、だな」
トリスは刀を下ろし、割れた紅晶を見つめる。
その断面に、かすかに人の顔のような模様が浮かんでいた。
アリアが青ざめた顔で呟く。
「ねぇ……あれ、笑ってなかった?」
答えは誰にも返せなかった。
ただ、紅晶の欠片がくすぶるように光を残していた。
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