紅晶の門を越えて
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階段を下りた瞬間、空気の重さが変わった。
熱い――だが炎の匂いはない。
肌にまとわりつくのは、蒼晶特有のどこか澄んだ冷気ではなく、
猛々しく赤く燃えるような熱の波だった。
壁を覆う結晶は、すべて紅に染まっていた。
かつて青く光っていた蒼晶が、
今は心臓の鼓動のように規則的に明滅している。
「……色だけじゃない。魔力の性質そのものが違う」
ミーナが魔導計を展開する。
針が振り切れ、盤面に薄い霜が走った。
「蒼晶が“変質”してる。安定していた魔力が逆流してるのよ」
アリアが弓を構えたまま、前方を見据える。
「音が吸い込まれてる……。反響が消えてるわ」
「魔力の流れが空間を歪めてるのかもしれん」
トリスは刀《繋》に手をかける。
その時だった。
カチリ、と乾いた音。
前方の岩壁に、細い亀裂が走った。
紅い光が滲み出す。
そして、ゆっくりと――裂けた。
中から這い出てきたのは、
全身を紅晶で覆われた大型のトカゲだった。
体長は四メートルほど、鋭い爪と尾が赤く輝いている。
蒼晶の反応は一切ない。
それは完全に“別の魔素”で動いていた。
「紅晶リザード……?」
ミーナが眉をひそめる。
「生命反応はあるけど、魔力の構成が――他のリザードよりなんか不自然。まるで外から注入されたみたい」
リザードの眼が光った。
次の瞬間、口から紅色の閃光が放たれる。
ブレス――否、熱線だった。
トリスが前へ出て刀を抜く。
雷光が刃を走り、熱線を弾き返す。
弾かれた火花が床に落ち、蒼晶が焼けるように変色した。
「蒼晶が……紅に染まった!?」
アリアが矢を放つが、紅晶の外殻が火花を散らして弾いた。
「硬い……! 通らない!」
「外殻の密度が高すぎる。まるで金属だわ!」
ミーナが警告を叫ぶ。
リザードが尾を振るう。
紅晶が床から飛び出し、槍のように伸びる。
アージェが咆哮して前へ出て、衝撃波で押し返した。
ノクスが影を走り、尾の死角へ回り込む。
だが、紅晶の破片が宙を漂い、
まるで磁力に引かれるように再び本体へ戻っていった。
「……自己再生。外殻ごと再構成してる」
ミーナが歯を噛む。
「でも、再構成には一瞬の隙があるはず!」
トリスが短く息を吐いた。
「なら――その隙をもらう!」
刀に雷が集まり、青白い稲光が紅を裂く。
一閃。
紅晶が砕け、内部の柔らかな組織が露出した。
「アリア!」
「任せて!」
矢が放たれる。
雷の矢が心臓部に突き刺さり、
リザードがけたたましい咆哮を上げた。
全身が震え、紅晶の鎧が一気に崩壊する。
破片が霧のように散り、床に紅の残滓だけを残した。
静寂。
洞窟に、再び熱が戻る。
ミーナが膝をつき、紅晶の欠片を拾い上げる。
「これは……蒼晶の構造を部分的に保ってる。
でも、核が違う。蒼ではなく、何か“外の因子”が入り込んでる」
トリスは黙って頷いた。
刀の刃先に付着した紅の粉が、じわりと溶けて消える。
「この紅晶、自然発生じゃない。
何かが蒼晶を“変えた”んだ」
奥の通路から、低い振動が響いた。
まるで遠くで岩が軋むような音――だが、周期が一定ではない。
「……まだ終わってないみたいね」
アリアが弓を構え直す。
トリスは刀を握り、前を見据えた。
「進もう。この変質の正体を突き止める」
紅晶の光が、通路を脈のように照らす。
その先に、何かが“待っている”気配だけがあった。
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