蒼の秩序、紅の影
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転送陣が光を失い、足元の感触が変わった。
冷たい蒼の洞窟から、一瞬で温かい夜のハルトンへ。
広場の空気は、戦いを見届けた民の熱でまだざわめいていた。
「トリスさま!」「紅の巨人を倒したって本当ですか!」
誰もが興奮を隠せず、蒼晶塔の光もいつもより明るい気がした。
トリスは剣を収め、息を吐く。
「……ふぅ、地上の空気はうまいな」
「そりゃそうよ。凍るよりはずっとマシ」
アリアが肩を回し、ミーナが笑う。
「でもね、紅晶……あれ、ただの敵じゃなかった気がするの」
「同感だ」
トリスが頷く。
「蒼晶が紅に変わった……あの現象、何かに“感染”したような感じだった」
ミーナは黙って手元の魔導計を見つめる。
数値はまだ揺れている。蒼晶の波が、どこか不安定だ。
「……放っておけないわね。蒼晶塔にも似た波形が出てる」
「つまり、地上にも紅晶化の兆候が?」
「ありえる。明日、研究所で詳しく調べるわ」
ミーナの瞳に研究者の光が宿った。
ノクスが“ニャ”と鳴き、アージェが尾を揺らす。
ルメナは肩の上で羽を震わせ、微かに蒼い火花を散らした。
まるで、「急いだ方がいい」と言っているように。
⸻
翌日。
ハルトン魔導研究所・第一解析室。
天井から吊るされた蒼晶灯が、規則的なリズムで明滅している。
机の上には、討伐時に採取した紅晶片。
ミーナがそれを魔導釜に入れ、蒼光を流し込む。
「紅晶化は、蒼晶の魔力構造が“反転”して起きる現象ね」
「反転?」
「蒼晶って、もともと“生命エネルギーの安定形”。
でもあれが一定以上の魔力を吸収すると、内部の秩序が壊れて、
安定から“攻性”に転じる。――それが紅晶」
「つまり、暴走ってことか」
「うん。でも、暴走にも“意志”があった。
紅晶は明確に敵意を持って動いていた。……何かが導いてる」
トリスは黙って顎に手を当てる。
「もしそれが自然発生じゃないとしたら?」
「外部からの干渉。……もしくは、ダンジョン深層で蒼晶そのものを“育てる”何かがいる」
「紅晶の親玉か」
「ええ。多分、まだ下にいる」
ルメナが短く鳴いた。
研究室の窓の外、蒼晶塔の光が一瞬だけ赤く瞬いた。
それを見て、ミーナの表情が変わる。
「……やっぱり、塔も影響を受けてる」
「つまり、紅晶の“種”はすでにこの街にも?」
「かもしれない。けど、まだ初期段階よ。
今のうちに原因を突き止めれば、拡大は防げる」
「なら、急ぐしかないな」
トリスが立ち上がる。
「次の探索で、その“根”を断つ」
アリアが弓を背負い直す。
「ふふ、結局また潜るのね」
「それが俺たちの仕事だ」
「やれやれ……領主も楽じゃないね」
ミーナは魔導釜を閉じ、光の粒を封印瓶に集めた。
「この紅晶片、分析を続けるわ。
でもトリス、気をつけて。紅晶は“蒼晶の影”でもある。
つまり、あなたの力とも関係してる可能性が高い」
トリスの表情がわずかに揺れた。
だが、すぐに笑みを浮かべる。
「心配すんな。俺が暴走したら……お前が止めろ」
「それは――絶対に嫌」
ミーナが小さく笑って、紅晶片を見つめる。
淡い光が、瓶の中でゆらめいた。
蒼と紅、その境界は薄く、今にも混ざりそうに見えた。
⸻
その夜。
蒼晶塔の頂で、誰もいない空に蒼光が走る。
塔の奥で、誰も知らない“紅の脈”が、ゆっくりと息づいていた。
――紅晶化は、まだ終わっていない。
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