第40層 紅晶の巨人《クリム・タイタン》
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紅晶が、立ち上がった。
轟音。
洞窟の天井が軋み、蒼と紅の光が絡み合う。
結晶が砕ける音が、まるで心臓の鼓動みたいに響いていた。
「紅晶……自分で“形”を取ってる!?」
ミーナの声が震える。
地脈の流れが乱れ、魔導計の針がぐるぐると回った。
紅晶の腕がゆっくりと動いた。
それは石ではない。
“意志”を持つ光の塊――紅晶の巨人。
「完全に層の守護者クラスだな」
トリスが刀《繋》を握りしめる。
背後ではアリアが矢を番え、ルメナが蒼光を纏って浮かび上がる。
アージェが低く唸り、ノクスが影に沈んだ。
「地上のダンジョンビュー、まだ繋がってる!」
ミーナが叫ぶ。
「都市中が見てるわ!」
「見せつけるしかねぇな」
トリスの口元が、わずかに笑った。
巨人が動いた。
足を一歩踏み出しただけで、衝撃波が洞窟を揺らす。
蒼晶が共鳴し、紅晶の波を押し返そうとする。
“生命”と“衝動”がせめぎ合う音が、層全体に響き渡った。
「アージェ、正面を押さえろ!」
銀狼が咆哮を上げ、《魔障壁》が展開する。
紅晶の拳が叩きつけられ、火花と光の波が衝突した。
「ミーナ、あの装甲を解析!」
「……紅晶が蒼晶を“取り込んでる”。つまり、蒼の波で打ち消せば裂ける!」
「了解!」
トリスが刀を構える。
雷が刃を包み、空気が震える。
「アリア、右腕を撃ち落とせ!」
「任せなさい!」
弦が鳴り、矢が蒼光を引いた。
紅晶の腕に突き刺さり、蒼の光が内部に走る。
爆ぜた。
紅晶の装甲が剥がれ、内部の蒼が脈動する。
「そこだ――ッ!」
トリスが踏み込み、雷光とともに斬り上げた。
紅晶の腕が砕け、巨人の体勢が崩れる。
その瞬間。
地上のダンジョンビューが閃光に包まれ、観客席が総立ちになった。
子どもが歓声を上げ、職人が拳を突き上げる。
「トリスだ!」「やったぞ!」と叫び声が夜空に響く。
⸻
洞窟内では、巨人がなおも動いていた。
傷口から溢れた紅光が蒼晶を飲み込み、再生を始めている。
「再生する……!?」
「核がまだ生きてる!」
ミーナの声が緊張で張り詰める。
「なら、根を断つしかねぇ」
トリスが雷を纏い、刀を地面に突き立てた。
「ノクス、影をつなげ!」
“ニャッ!”
影が走り、巨人の足元に網のように広がる。
トリスの刀に雷光が奔り、影に流れ込む。
その瞬間――影の網が蒼に染まった。
「《影走り・雷鎖》!」
影と雷が融合し、巨人の足を縛り上げた。
雷が走り、紅晶が軋む。
「ミーナ、今だ!」
「《蒼環展開・共鳴封止》!」
蒼環の光が広がり、紅の波を押さえ込む。
紅晶がきしみ、蒼の輪の中で静止する。
「アリア、仕上げて!」
「了解!」
矢が三連射され、紅晶の胸を撃ち抜いた。
トリスが跳躍し、雷光とともに刀を振り下ろす。
轟音。
紅と蒼が爆ぜ、巨人の胸に大穴が開いた。
そこに――紅と蒼が溶け合う核が見えた。
「これが……紅晶の“心臓”か!」
トリスは雷を一点に集束させた。
刃が白く光り、空気が焦げる。
「――喰らえッ!」
雷閃。
紅晶の心臓が裂け、光が洞窟を満たす。
紅が蒼に飲み込まれ、やがて静寂が訪れた。
⸻
地上。
スクリーンの光が収まり、観客たちは息を呑んでいた。
次の瞬間、映像の中で蒼の光が静かに揺れた。
歓声が爆発した。
ハルトンの街に、勝利の声が響く。
⸻
洞窟に戻る。
紅晶の残滓が粉となって散り、蒼晶がゆっくりと光を取り戻す。
ミーナが息をつき、アリアが弓を下ろした。
ルメナが肩に舞い降り、柔らかく鳴く。
アージェとノクスが寄り添い、静かに見守る。
「……終わったな」
トリスが刀を納めた。
「紅晶の反応も沈静化。これで、この層は安定するわ」
ミーナが魔導計を閉じる。
「地上の映像塔も正常化した。……きっと、みんな見てたわね」
「派手にやったしな」
トリスが笑う。
「けど、これで蒼晶の流れも戻った。
次はもっと深く――紅晶の根を、見つけに行く」
ルメナが翼を広げ、光を散らす。
洞窟の奥へ、蒼い道が続いていた。
「よし。行こう」
トリスが前を向く。
仲間たちが頷き、歩き出した。
地上では、蒼晶塔が静かに脈を打つ。
誰も知らない、その鼓動の奥に、次なる“紅の影”が潜んでいることを。
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