蒼晶塔計画
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ハルトンの空が、ゆっくりと白み始めていた。
窓の外で蒼晶灯が消え、代わりに朝日が街を照らす。
ミーナが机いっぱいに図面を広げながら、目を輝かせていた。
「――これを見て、トリス!」
「……また、すごいもの作ってるな」
紙の上には、街の中央にそびえる巨大な塔の設計図。
外壁は蒼晶の板で覆われ、内部には魔力循環管と多層魔導陣。
塔の頂には、蒼晶を媒介に空の魔素を吸収する構造が描かれている。
「“蒼晶塔計画”――これが、ハルトンの次の段階よ!」
ミーナの声が弾む。
「今までダンジョンから得た蒼晶は、武具や灯りにしか使ってなかった。
でも本来の性質は“循環”。
それを街全体に広げれば、魔力も電力も、全部自給できるの!」
アリアが横から覗き込む。
「つまり……街そのものを一つの魔導器にしちゃうってこと?」
「そう!」
ミーナが嬉しそうに頷く。
「蒼晶は“理の記憶”を持つ鉱石。
ちゃんと制御できれば、地脈を流れる魔力を安定させて、
ダンジョンの暴走だって抑えられる」
「すごいけど、そんなこと……人間にできるのか?」
俺の言葉に、ミーナは微笑んだ。
「だから“やってみる”のよ」
その目は真剣だった。
彼女が領地の代官でありながら、研究者である理由。
“未知を恐れず、理を明かす”という信念がそこにあった。
⸻
昼過ぎ、俺たちは街の中央広場へ出た。
人々が立ち止まり、俺たちを見つめる。
ここに蒼晶塔を建てる――その計画を、正式に発表するためだ。
「辺境伯様! 本当に、あの塔を建てるんですか?」
通りの職人が声を上げる。
「蒼晶は暴走するって話も聞いたが……」
「だからこそだ」
俺は広場の中央に立ち、静かに告げた。
「暴れる力を恐れるより、正しく使う道を選ぶ。
俺たちはダンジョンを制した。次は、その力を街のために使う番だ」
沈黙のあと、職人たちがうなずき始める。
アリアが後ろで苦笑した。
「ほんと、演説慣れたね」
「俺だって、最初は緊張してたんだ」
「今でも顔ちょっと赤いよ」
「うるさい」
ノクスが影の中で“にゃふっ”と鳴き、アージェが低く吠えた。
まるで“その通りだ”と茶々を入れているようだった。
ミーナが杖を掲げる。
「蒼晶塔計画――第一段階、コア基礎の設置を始めます!」
掛け声とともに、研究員と魔導技師たちが動き出す。
広場の中心に刻まれた魔法陣が光り、蒼い粒子が地面から噴き上がった。
「わぁ……!」
アリアが思わず声を上げる。
蒼晶が空気中に浮かび、粉雪のように舞う。
地脈から吸い上げた魔力が、塔の“核”を形づくっていく。
「これが、ハルトンの心臓になる」
ミーナが呟く。
「塔が完成すれば、蒼晶の呼吸が街全体を包み、
紅晶の暴走も、魔力の偏りも抑えられるはず」
「なるほど。防衛にも使えるってことか」
「そう。街全体を“結界化”できるの。
攻撃じゃなく、防御のための塔――それがこの計画の根幹」
ルメナが光の中を飛び回り、キュルルッと鳴く。
蒼晶の粒子がその翼に絡み、虹のような光を散らした。
「……やっぱり、綺麗ね」
アリアが目を細める。
「蒼晶って、冷たいはずなのに、見てると不思議と温かい」
「それは、蒼が“生命の色”だからよ」
ミーナが微笑む。
「冷たくても、生きてるの。だからこそ、動力にも、癒しにもなる」
俺は塔の基礎部を見下ろした。
地脈の光が脈を打ち、まるで街の鼓動のように感じた。
――この地は、生きている。
「完成すれば、紅晶との共鳴実験もここでできるな」
「ええ。蒼晶塔は、研究所の拡張にもなるわ。
魔導の循環を確立できれば、紅晶の不安定性も制御できるはず」
「つまり、この塔は“希望の塔”だな」
「そうね。世界の未来を照らす――蒼の希望よ」
ミーナの言葉に、風が吹いた。
蒼い粉が宙に舞い、陽光を受けてきらめく。
まるで、街全体が新しい息を吹き返したかのようだった。
⸻
夕暮れ。
工事は順調に進み、塔の基礎部はすでに形を成していた。
職人たちが魔導具を運び、子どもたちがその様子を見上げている。
ルメナが空を舞い、影の下でノクスが見守り、アージェが門のそばで静かに座っていた。
「……ハルトンは、変わるな」
俺の言葉に、ミーナが頷いた。
「ええ。でも、“誰かが変える”んじゃない。
みんなが手を伸ばして、一緒に作るの。
それが、私たちのハルトンよ」
アリアが笑う。
「詩人みたいなこと言うじゃない」
「ふふ、領主様が横で見てると、ちょっと格好つけたくなるのよ」
「おい」
「冗談よ」
三人の笑い声が、夕焼けに溶けた。
塔の基礎が蒼く光る。
それは、夜の始まりを告げる灯火のように
これから始まる、蒼晶塔の鼓動だった。
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