共鳴のはじまり
このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。
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午前のハルトン魔道研究所は、いつもより静かだった。
外の街は活気づいているのに、この部屋の中だけは、まるで時間が止まっているようだ。
理由はひとつ――机の上に置かれた、紅と蒼、二つの結晶。
紅は熱を、蒼は冷を纏う。
光が交わるたび、空気がビリッと震えた。
まるで「お互いを警戒してる」ような雰囲気だ。
「……これ、本当に大丈夫なの?」
アリアが呆れ半分、不安半分で俺を見る。
「理論上は問題ない」
ミーナが胸を張る。
「紅晶と蒼晶を直接ぶつけるんじゃなく、魔導陣の“共鳴点”で繋ぐだけ。
要はお見合いみたいなものよ」
「お見合いって言っても、失敗したら爆発するんだろ」
「まあ……そうね。愛が噛み合わなければ」
「冗談の温度差で凍えそうなんだが」
俺がぼやくと、ミーナがくすっと笑った。
「平気よ。前回みたいにルメナが反応してくれれば、暴走前に抑えられるはず」
机の隅で眠っていたルメナが、まるで自分の名前を聞いたように顔を上げた。
“キュルッ?”
金と紅の瞳が小さく瞬く。
「ほら、やる気出してる」
「……頼もしいけど、ちょっと不安だな」
ノクスが影の中から姿を出し、アージェが低く唸る。
二匹とも空気の変化を察している。
魔力の波が、ゆっくりと部屋の中心に集まり始めていた。
⸻
魔導陣が光を帯びる。
床の蒼晶板が淡く発光し、その中心に紅晶を置く。
ミーナが詠唱を始めた。
「蒼なる環よ、静を描け。紅なる核よ、動を刻め。
交わりは争いにあらず、調和の理を我に示せ《共鳴結界・起動》!」
陣が展開した瞬間、空気が弾けた。
紅と蒼の光が交差し、部屋全体が震える。
机の上の魔導器が唸り、計測針が狂ったように踊る。
「ミーナ、反応が強すぎる!」
「まだよ……もう少しだけ安定するはず!」
ミーナの額に汗がにじむ。
蒼の輪が拡がり、紅の光とせめぎ合う。
まるで二つの心臓が互いを探り合っているようだった。
ルメナが羽を広げた。
“キュルルゥ……”
その声が響いた瞬間、紅と蒼の光が一気に引き寄せられた。
融合?かと思ったが、違う!
轟音。
魔力の渦が爆ぜ、風が吹き荒れる。
紅晶と蒼晶の境界から、光の波が弾けた。
まるで二つの世界が衝突しているようだった。
「ルメナが吸ってる!? 魔力が流れ込んでる!」
アリアが叫ぶ。
ルメナの身体が輝き、翼の縁が紅蒼の稲光を放っていた。
「駄目、バランスが崩れる!」
ミーナが魔導計を叩き、詠唱を変える。
「《蒼環・逆位相展開》!」
だが紅晶が抵抗するように光を放ち、床の陣が悲鳴を上げる。
「トリス、止めて!」
「了解!」
俺は踏み込み、刀《繋》を抜く。
刃に雷が走り、蒼と紅の光を裂いた。
空気が震え、光が一瞬だけ止まる。
その隙を突いて、ミーナが結界を閉じる。
「封環、固定!」
音が消えた。
まるで嵐の後の静寂。
蒼と紅がゆっくりと溶け合い、ひとつの柔らかな光になった。
ルメナは俺の肩に戻り、小さく息を吐くように鳴いた。
“キュルッ……”
紅蒼の光が胸の奥で脈打ち、穏やかな波動を放つ。
「……成功?」
アリアが息を詰める。
ミーナが慎重に魔導計を覗き、ゆっくりと頷いた。
「安定してる。紅晶の波形が完全に蒼の循環に乗った……!」
「つまり――共鳴成功、か」
「ええ。紅と蒼、相反する理が初めて同じ周期で動いたの」
ミーナの瞳が輝いていた。
「これでわかった。紅晶は“争う力”じゃない、“進化を促す触媒”よ」
ルメナがその言葉に応えるように羽を広げ、蒼と紅の光を放つ。
それはもう、危険ではなく、美しかった。
⸻
夜。
研究所の屋上に出ると、ハルトンの空が静かに光っていた。
蒼晶塔の灯に、わずかに紅の揺らぎが混ざっている。
それは不安ではなく、新しい命の鼓動のようだった。
「……やっぱり、世界は変わってる」
ミーナが隣で呟く。
「でも悪くない変化だと思うわ」
「俺もそう思う」
風が吹き抜け、ルメナが鳴く。
“キュルゥ……”
その声が夜空に響き、紅と蒼の光が溶け合った。
紅と蒼。
二つの理は、確かに今、共鳴していた。
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