紅晶研究、始動
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ハルトンの昼は、いつもより少し静かだった。
紅晶坑での出来事から数日
街全体が、どこか息を潜めているように感じる。
魔道研究所支部の白い塔の中では、試験器具の音と魔力の振動だけが響いていた。
ルメナは魔導台の上で丸まり、淡い光をまとって眠っている。
その鱗の一部が、ほんのり紅く染まっていた。
「……安定してるわね」
ミーナが魔導計を見つめながら呟く。
「紅晶の影響は完全に馴染んでる。
蒼の循環も乱れてない。ルメナ自身の魔力が“紅を包み込んでる”感じ」
「つまり、紅を支配してるってことか?」
「ええ、現時点ではね。だけどこのまま放っておくのは危険。
紅晶は生きた結晶。魔力の流れが噛み合わなくなった瞬間、暴走する」
アリアが壁に寄りかかりながら腕を組む。
「で、暴走したらどうなるの?」
「紅晶坑のときみたいに、魔力災害。
あの時はまだ小規模だったけど……次は街ごと吹き飛ぶかも」
「やれやれ、怖いこと言うな……」
俺はため息をつき、机の上にある紅晶の欠片を見つめた。
蒼晶とは違う、脈打つような赤。
見ているだけで、血の奥がざわめくような光だ。
「それで、研究テーマは決まった?」
「今のところ三案出てる」
ミーナがホワイトボードに魔導チョークを走らせる。
一、紅晶と蒼晶の安定共鳴実験
二、紅晶の魔力波形解析
三、紅晶を用いた魔導炉試作計画
「三番は無し。爆発しそう」
アリアが即答した。
「……はい」
ミーナが咳払いして続ける。
「現実的なのは一番。紅晶と蒼晶の共鳴安定を研究する。
蒼は“静”で、紅は“動”。この二つが共存できれば、
魔導炉や結界の制御にも応用できる。
何より、ルメナの成長にも関係してる」
俺はうなずく。
「蒼と紅の共鳴……確かに、今の俺たちにはぴったりだな」
「でしょ?」
ミーナの目がきらりと光る。
「紅晶をただ危険視するんじゃなく、“利用する”。
人の手で、理を制御できるかどうかの挑戦よ」
アリアが笑う。
「つまり、いつものミーナの“危ない橋渡り”ってことね」
「違うわ、挑戦よ」
「結果が爆発じゃなきゃいいけどな」
俺の言葉に、ミーナはむっと頬を膨らませた。
「爆発させないために研究してるのよ」
ルメナが小さく鳴き、翼をひらめかせる。
机の上の紅晶がわずかに共鳴し、光が広がった。
蒼と紅が溶け合い、部屋の空気が柔らかく震える。
「……綺麗だな」
アリアがぽつりと呟く。
ミーナも思わず、手を止めた。
ルメナがまるで誇らしげに鳴き、尾をくるんと巻く。
「決まりね」
ミーナがにっこりと笑う。
「第一研究課題――“紅蒼共鳴安定化実験”。
この世界で初めて、蒼晶と紅晶を共存させる試みよ」
俺は刀《繋》の柄に手を当て、深く息を吸った。
「紅晶を制御できれば、ダンジョンも、魔力も、きっと新しい段階に進める」
「そうね。次の層、その先に踏み出すために」
ノクスが影の中で尾を揺らし、アージェが静かに吠えた。
ルメナが再び光を放ち、部屋中の紅晶が淡く明滅する。
新しい光。新しい研究。
俺たちの次の戦いは、戦場じゃなく――研究所の中から始まる。
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