紅晶坑のざわめき
このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。
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風が冷たい。
夜明けのハルトンには、いつもより濃い靄が漂っていた。
空気がわずかにざらつく――まるで世界そのものがざわめいているみたいだった。
「……これ、ただの朝靄じゃないわね」
ミーナが魔導計を覗き込みながら言った。
針が振り切れている。
「蒼晶坑の魔力濃度が一晩で二倍になってる。地脈が暴れ出してるのよ」
「また蒼晶の成長か?」
「それならよかったんだけど……波長が違うの。蒼じゃなく、紅」
紅――。
その言葉に、俺とアリアは顔を見合わせた。
研究所の観測班が報告していた“異常光”が、昨夜から坑道の奥で観測されていたのだ。
俺たちは装備を整え、蒼晶採掘坑へ向かった。
⸻
坑口に立つと、冷たい風が頬を打った。
中から漏れる淡い蒼の光は、以前よりも強い。
だがその蒼に――ところどころ、不穏な紅が混じっていた。
アリアが眉をひそめる。
「なんか……息してるみたい」
確かに、光が呼吸のように脈打っていた。
まるで生き物の心臓の中に入るみたいだ。
「気をつけて。蒼晶が変質してる可能性がある」
ミーナが警戒を促す。
ルメナが羽を広げ、薄く蒼光を纏う。
ノクスは影の中を進み、アージェが低い唸りを上げた。
奥へ進むたびに、光は強くなっていった。
そして、坑道の最深部に着いた時――俺たちは息を呑んだ。
壁一面に、紅く染まった結晶が咲いていた。
蒼晶と混ざり合い、まるで花が咲くように紅い線を伸ばしている。
「……これが、紅晶」
ミーナが震える声で呟く。
近づくと、結晶がかすかに震えた。
それは風でも、地鳴りでもない。
まるで“心臓の鼓動”だった。
「魔力……吸ってる」
ミーナが魔導計を構える。
数値が異常に跳ね上がる。
「蒼晶の魔力を喰って、紅晶に変えてる……! 成長してるのよ、今も!」
「生きてるってことか」
俺の声が自然と低くなる。
アリアが弓を構えた。
「止められそう?」
「試すしかない」
ミーナが両手をかざす。
《蒼環の理》が発動し、青白い光が坑道を包む。
蒼と紅の光がぶつかり、空気が震えた。
しかし、紅晶はむしろ輝きを増していく。
「……だめ、吸い返されてる!」
「魔力干渉を“逆に利用”してるのか」
「つまり、触れれば喰われるわ」
ルメナが鳴き、俺の肩に飛び乗る。
その目は、紅晶の群れを真っすぐに見据えていた。
“キュルル……”
鳴き声に呼応するように、紅晶が淡く光った。
一瞬、紅の中に蒼が混じる。
まるで、ルメナの魔力が干渉しているようだった。
「……止まった?」
アリアが息を呑む。
確かに、紅の脈動が一瞬だけ緩んでいた。
ミーナが小さく頷く。
「やっぱり……竜種系の魔力には反応が鈍る。
つまり、紅晶は“竜の系統”に耐性がない」
「なら、ルメナが鍵か」
「たぶん。だけど、今止めても一時的よ。根が地下深くまで伸びてる。
本格的に抑えるには、研究が必要になるわ」
「研究、か……」
俺は紅に染まった坑道を見渡した。
蒼と紅が交錯する光景は、美しいのに――どこか、不気味だった。
その時、地の底から微かな音が響いた。
ゴウン……ゴウン……
低い脈動。地脈そのものが、何かを運んでいるような音。
「……今の、聞こえたか?」
「ええ。地脈の“下”が動いてる」
「何かが目を覚ましてる」
ミーナの言葉に、背筋が冷たくなった。
⸻
坑道を出る頃には、空は赤く染まり始めていた。
朝日ではない。紅晶の光が、地面の下から滲み出している。
俺はその光を見下ろしながら呟く。
「蒼晶の眠る洞……本当に“眠ってる”だけなのか?」
ルメナが鳴く。
風が吹き、紅と蒼が混ざり合う。
――その瞬間、紅晶の奥で、確かに何かが動いた。
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