紅の残響
このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。
読んでくださる方々ありがとうございます。どうか顔文字の評価ボタンか★マークを押してもらえるとありがたいです。
夜のハルトンは、静かすぎた。
街を照らす蒼晶灯の光がゆらゆらと揺れ、風すら息を潜めている。
その中で、魔道研究所の屋根だけが、かすかに赤く、明滅していた。
「……おかしいな。蒼晶の反応が、さっきから変なの」
ミーナが机の上の魔導計を覗き込み、目を細める。
針がぐるぐると狂ったように回っている。
「壊れたんじゃないのか?」
「いえ、機器は正常。でも――この光、蒼じゃない。赤……?」
その瞬間、空気がピリッと張り詰めた。
壁際の蒼晶ランプがパチパチと火花を散らし、
淡い蒼光の中に、どこか不気味な“紅”が混ざる。
「……色、変わった?」
アリアが眉をひそめる。
「そんなこと、今までなかったよな」
ノクスが低く唸り、アージェが立ち上がる。
ルメナは羽をふるわせ、瞳を細めていた。
「ミーナ、離れろ」
俺が言うと同時に、机の上の蒼晶が弾けた。
バチンッ――!
紅の光が迸り、床に亀裂が走る。
空気が熱く、重く、呼吸さえしづらい。
「なんだこれ……っ」
アリアが身をかがめる。
まるで紅い炎と氷が同時に燃えているようだった。
ルメナが翼を広げ、前へ飛び出す。
“キュルルッ!”
その声とともに、青白い光が弾けた。
紅と蒼がぶつかり合い、閃光が走る。
床が揺れ、研究室の窓が鳴る。
だが、次の瞬間には――光が消えた。
残ったのは、焦げた蒼晶と、ほんのわずかな紅の残光だけ。
⸻
「……収まった?」
アリアが弓を下ろす。
ミーナは小さく頷き、震える手で魔導計を確認した。
「はい……今の一瞬だけ、すごい魔力の波が出た。
でも、正体はまだ……わからない」
「蒼晶が……赤に?」
「そう。理屈じゃ説明できない。
でも、ひとつだけ確か――“何か”が反応した」
ルメナが肩に降り立ち、まだ警戒を解かない。
その金の瞳が、床の焦げた蒼晶をじっと見つめている。
“キュルッ……”
まるで、その奥に“何か”がいるとでも言いたげだった。
⸻
夜風が窓を揺らす。
研究所の外では、いつも通りのハルトンの灯り。
けれど、俺たちだけは気づいていた。
――あの紅は、偶然じゃない。
ほんの一瞬だったが、確かに“呼吸”をしていた。
生きているように、俺たちを見ていた。
「……トリス」
ミーナの声が震える。
「もしかして、“蒼晶の力”は……私たちが思ってるより深いのかも」
「だろうな」
俺は焦げた床を見下ろす。
紅い痕跡が、まるで脈を打つように光った。
それはほんの一瞬。
けれど、胸の奥がざわつく。
まるで、何かが――
“俺の中の雷に、返事をした”ような気がした。
⸻
その夜、誰も眠れなかった。
ハルトンの空は静かに、だが確かに紅を孕んでいた。
応援ありがとうございます!
皆さんのブクマや評価が更新の大きな力になっています!٩( 'ω' )و
「次話も楽しみ!」と思っていただけたら、ポチっとお星★★★★★様を押してもらえると嬉しいです!




