蒼雷の兆し
このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。
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ハルトンの朝はいつもより少し賑やかだった。
広場の鐘が鳴り、街の中央に建つ新しい建物――
王立魔道研究所ハルトン支部、その正面には見慣れぬ顔が並んでいる。
「すごいわね……王都からこんなに人が来てるなんて」
アリアが呆れたように言い、屋根の上から群衆を眺めた。
魔術師、学者、貴族、そして見物の市民たちまで。
広場が“知の祭”のような熱気に包まれている。
「ハルトン支部初の成果発表だからな」
俺は苦笑した。
今回は36層で実験してすぐに戻って来てからミーナが研究したいといい出したのだった。
「まさかこんなに注目されるとは思ってなかったけど」
「あなたがいるからでしょ」
ミーナが白衣の襟を整えながら言う。
いつもより少し緊張した声だった。
「辺境伯トリス・レガリオン――“蒼雷現象の実験体”。
そう噂が広まってるのよ」
「実験体言うな」
「じゃあ、“雷と蒼を結んだ人”?」
「……それもなんか恥ずかしい」
アリアが笑い、ルメナが肩の上で“キュルッ”と鳴いた。
ノクスは影の中に潜み、アージェは静かに門番のように控えている。
⸻
壇上にはミーナが立っていた。
背後の魔導板には、蒼と雷の波形が美しく重なっている。
彼女の目は真剣そのもので、少しの迷いもない。
「――この現象を、私は《蒼雷理論》と名付けました」
ざわめきが広がる。
王都から来た学者たちが一斉に耳を傾ける。
「これまで“相反属性”とされていた雷と氷――その境界を超え、
蒼晶という“媒介鉱”を通すことで、両者の共鳴が可能であると確認しました。
これは単なる魔力干渉ではなく、世界の理――“音律の共鳴”です」
ミーナは淡々と説明を続ける。
だが、声の奥には確かな熱があった。
あの、命がけの実験をやり遂げた者だけが持つ熱。
「トリス・レガリオン辺境伯の協力により、共鳴は安定化。
蒼鳴層における暴走を逆位相干渉により鎮静化できました。
これが証明するのは――
“雷は破壊ではなく、調律の理”だということです」
その言葉に、場の空気が変わった。
ざわめきが止まり、広場全体が静まり返る。
「調律の理……」
誰かが小さく呟く。
その響きが、なぜか心地よく耳に残った。
⸻
「すげぇな、あいつ」
アリアが小声で呟いた。
「なんか、王都の魔導会議みたい」
「いや、あいつの方がよっぽど説得力あるよ」
俺は苦笑した。
あの小さな背中が、今は世界に向かって立っている。
ミーナは締めくくりの言葉を告げた。
「この理論は、まだ始まりに過ぎません。
もしこの共鳴を応用できれば――
ダンジョンを壊すことなく“安定化”させることが可能になる。
それは、争いではなく共存への一歩です」
拍手。
最初はまばらだったが、次第に波のように広がっていった。
学者たちが立ち上がり、市民たちが声を上げる。
ハルトンの空に、蒼い光が舞い上がった。
⸻
発表後。
人々が帰っていった広場で、ミーナが小さく息を吐いた。
「……緊張した」
「よくやったな」
俺が言うと、ミーナは微笑んだ。
「あなたがいてくれたから。……それに、雷の調律、綺麗だった」
「おかげで鼓膜死にかけたけどな」
「ふふ、それも実験成功の証よ」
アリアが笑いながら近づく。
「まぁ、王都の連中も度肝抜かれてたわよ。
『雷で魔を鎮める』なんて、誰も信じちゃいなかったからね」
ノクスが“にゃ”と鳴き、アージェが短く吠える。
ルメナが光を散らし、空へと舞い上がった。
まるで祝福するように、蒼の光を空に描く。
「……なぁ、ミーナ」
「なに?」
「この“蒼雷理論”が、もし世界の理に触れたらどうなる?」
「……たぶん、世界が少しだけ“変わる”。
けど――その先に、もっと大きな何かが眠ってる気がする」
彼女の声が、どこか遠くを見ていた。
その視線の先で、蒼晶塔の光が一瞬だけ強く輝く。
……その光に、俺は気づいてしまった。
蒼ではない。
一瞬だけ、“紅い閃光”が混ざっていた。
⸻
風が止まり、空気が静まり返る。
ルメナが翼を畳み、低く鳴いた。
ノクスの耳が立ち、アージェが空を睨む。
「……今の、見た?」
アリアが囁く。
「うん。蒼晶塔の光が、紅に揺れた」
ミーナの声がかすかに震える。
俺は無意識に刀《繋》の柄に手を添えた。
遠く、風の向こうで“低い鼓動”が聞こえる。
まるで――蒼鳴層の奥で、何かが“呼応”しているようだった。
⸻
ハルトン支部の成果は、確かに王国を驚かせた。
だが同時に、それは新たな理への“扉”を叩いた。
その扉の向こうに、何が眠っているのか。
まだ誰も、知らない。
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