蒼鳴層、共鳴する雷
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音が、見える。
最初にそう感じたのは、足を踏み入れた瞬間だった。
洞窟の空気が淡い光を纏い、低い“唸り”が岩壁を震わせている。
まるで、大地そのものが呼吸しているようだった。
「……これが、“蒼鳴層”。」
ミーナが魔導計を見つめながら、息をのむ。
「音が魔力になってる……空気の密度が違う。すごい……!」
壁の蒼晶が律動するように明滅し、音が響くたびに光が反応する。
高音は鋭い閃光、低音は波のような蒼の揺らぎ。
まるで“光の音楽”が空間を支配していた。
アリアが弓を握りしめる。
「なんか……ここ、綺麗だけど気味悪いわね。耳の奥がビリビリする」
「音が直接、神経に干渉してる」ミーナが答える。
「普通の人間なら気を失うレベル。でも――」
ミーナは振り返り、俺を見た。
「あなたの“雷”なら、干渉できる。共鳴の中心に立てるわ」
「つまり実験開始ってことか」
「そういうこと♪」
まったく……この笑顔、危険の香りしかしない。
⸻
ミーナは背中の装置を起動した。
円環状の魔導具――《共鳴導環》。
彼女が新たに作り上げた、雷と蒼をつなぐ“音の変換装置”だ。
装置が展開すると、六つの蒼晶板が宙に浮かび、
音波と魔力を変換するように淡く鳴り始めた。
「準備完了。トリス、あなたの雷を……“音”として流して」
「音として……? つまり、唱えるんじゃなく“感じさせろ”ってことか」
「そう。雷を鳴らすんじゃなく、奏でるのよ」
ミーナの言葉に、俺は苦笑した。
「奏でる雷ね……詩人みたいなこと言うじゃないか」
「だってあなた、雷の詩人でしょ?」
……そんな肩書き、聞いたことねぇよ。
⸻
俺は刀《繋》を抜き、静かに構えた。
呼吸を整え、体内の魔力を“音”の波として流す。
耳ではなく、肌で感じる。
空間全体が震えた。
バチッ――!
雷が走り、蒼の光が呼応した。
導環の六つの板が高音を奏で、洞窟全体が震える。
「成功……! 波形、完全一致!」
ミーナが歓声を上げる。
「トリス、今のまま維持して! 共鳴値を上げるわ!」
「了解!」
俺の魔力と蒼晶の光が絡み合い、次第に空気が熱を帯びていく。
まるで雷と氷が踊っているようだった。
アリアが矢を番えたまま周囲を警戒する。
「すごい……空気が“歌ってる”みたい」
ノクスが影を揺らし、アージェが低く唸る。
ルメナは翼を広げ、旋律に合わせるように舞い上がった。
その瞬間だった。
洞窟の奥から、異様な音が響く。
――グゥゥゥウオオオオオオオッ!
空気が裂けるような重低音。
蒼晶壁が割れ、奥から氷の刃のような何かが飛び出した。
「反応、急上昇! 魔力波形、共鳴暴走中!」
「止められるか!?」
「まだ……まだ解析が――!」
光が弾け、霧が吹き荒れる。
氷を纏った獣――氷轟獅が現れた。
蒼晶に“音を喰われた”守護獣。
耳を裂く咆哮が、音と魔力を共鳴させて暴走している。
「音で動く敵か……やっかいだな!」
アリアが即座に矢を放つ。
だが矢は空気の震動で弾かれ、壁に突き刺さった。
「音壁!? 攻撃の“音”を吸収して跳ね返してる!」
「……なら、沈黙させるしかない」
俺は刀を構えた。
「ミーナ、導環を――俺の音に合わせろ!」
「了解!」
導環が音を変換し、蒼と雷の波長が一つに重なった。
俺の雷が共鳴し、蒼晶が呼応する。
音が一瞬、消えた。
次の瞬間――轟雷。
刃が走り、光が閃く。
雷が蒼に溶け、音が消える。
静寂の中で、氷轟獅の胸が裂けた。
「音が……止まった?」
「成功……“雷と蒼”で、音の理を打ち消したのよ!」
氷轟獅が崩れ、蒼の霧となって消える。
光が静かに収束し、再び洞窟に静寂が戻った。
⸻
ミーナが息を吐く。
「成功だわ……“音の共鳴干渉”を再現できた……!」
「俺の耳はまだビリビリしてるけどな」
「まぁまぁ、それは成功の証よ」
「命の危険を成功扱いすんな」
アリアが肩をすくめる。
「まぁ、でも今回は本当にすごかったわ。
見てて鳥肌立ったもん。音が“戦う”なんてね」
ミーナは嬉しそうに笑い、装置を抱えた。
「これで第一段階は完了。データが取れれば、
“雷と蒼”が共鳴する理――証明できる」
ルメナがふわりと降り立ち、翼を畳む。
その翼が淡く光り、音の残響を吸い込むように揺れた。
「……ほんとに、“奏でる雷”になっちまったな」
俺は空を見上げ、呟いた。
蒼の光がまだ微かに瞬いている。
「この調子なら、“音を操る雷”も夢じゃないかもね」ミーナが笑う。
「そんな器用な雷、聞いたことねぇよ」
「だから面白いの」
ミーナの目が輝く。
その横顔を見て、俺は思う。
――やっぱり、この女が笑ってる時が一番怖い。
⸻
こうして、ハルトン支部の最初の実験は大成功を収めた。
蒼鳴層で記録された音波と魔力のデータは、
後に“蒼雷理論”と呼ばれる礎となる。
だがその影で、
洞窟のさらに深く――第37層の壁の向こうで、
何かが“共鳴”に応えるように、静かに目を覚まし始めていた。
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