王立魔道研究所ハルトン支部、会議にて
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朝日が、ハルトンの街を包んでいた。
昨日の宴の名残か、街角では子どもたちが“雷伯さまの誕生日ごっこ”なんて遊びをしている。
まったく、どこでそんなの覚えたんだ。
領主館の一室――昨日まで倉庫だった建物。
今はすっかり「研究所」と呼べる空間に変わっていた。
壁一面の魔導図、試験管の光、魔力導線の配線。
そして、中央の大きな机の前にミーナが立っていた。
「ふふっ……なんか、いい響きよね。“支部長ミーナ・エイル”」
アリアが笑う。
「ふぅん、急に偉そうに聞こえるけど、顔はいつも通りよ?」
「失礼ね。これでも責任重大なんだから」
ミーナは軽く頬を膨らませたが、どこか誇らしげでもあった。
俺は腕を組みながら机の前に立つ。
「で――初会議ってことでいいのか?」
「そう!」ミーナが勢いよく頷く。
「今日からこの研究所の最初の研究テーマを“正式決定”します!」
「はじまったな、支部長会議」
「うん。記念すべき第一回目ね」
アリアが椅子にどっかり座り、ノクスがその膝に飛び乗る。
アージェは入口付近で伏せ、ルメナは棚の上からこちらを見ている。
ミーナは小さく深呼吸をした。
白衣の袖を整え、魔導板に光の文字を走らせる。
⸻
【王立魔道研究所ハルトン支部 第一研究議題】
・“雷と蒼の属性共鳴現象”の実証実験
・ダンジョン環境下における魔力循環の変異観測
⸻
「まず、メインテーマはこれにしたい」
ミーナの瞳が、研究者のそれに変わる。
「トリス、あなたの雷が“蒼晶”を破壊しないどころか、共鳴して増幅した。
この現象を解析すれば、ダンジョンの成長理論に新しい答えが出せるはずなの」
「つまり、“雷”がダンジョンに影響を与えている可能性か」
「そう。これまでの魔導理論では、相反する属性同士は干渉でしかなかった。
でも――あなたの雷は、蒼晶を壊さず、融合した。
あれは偶然じゃない」
アリアが唸る。
「なるほどね。つまり、トリスの体が実験装置ってわけ?」
「実験“体”ではなく“協力者”よ」
「言い方変わっただけじゃん!」
ルメナが“キュルッ”と鳴いて、光を散らす。
その光が、ミーナの手元の魔導図を優しく照らした。
「次のダンジョン探索で、三十六層から四十層――“蒼鳴層”のデータを取る。
あそこは蒼晶が“音で共鳴”する層。属性の干渉を測るのに最適よ」
「音で……?」
「ええ。蒼晶が魔力振動を音として放つの。
理論上、雷の波長と干渉させることで、属性融合の現象を直接観測できる」
「つまり――」
俺は苦笑する。
「また俺が雷をぶっぱなすのか」
「はい、できるだけ多く」
「……そういう予感はしてた」
アリアがくすっと笑う。
「まぁ、爆発してもミーナが責任取るんでしょ?」
「え、トリスが爆発する前提なの?」
「大丈夫、ノクスが避ける練習してるから」
「にゃあ(やってない)」
会議室に笑いが広がる。
でも、ミーナの表情はやっぱり真剣だった。
「ねぇ、トリス」
「ん?」
「この研究、本気でやりたいの。
ダンジョンを“危険な場所”じゃなく、“理を学べる場所”にしたい。
それが私の夢なの」
その声に、俺は小さく息を吐いた。
ああ――この表情を見るたび、やっぱり思う。
俺が戦う理由は、こういう奴らを守りたいからだ。
「わかった」
俺は頷いた。
「だったら、雷を好きに使え。
ただし、爆発したら責任取ってもらうからな」
「……そのときは、全力で看病する」
「物騒な返事だな」
アリアが机を軽く叩く。
「よし、決まりね。“雷と蒼の研究計画”始動!」
「異議なし!」
「ワン!(アージェ)」
「にゃあ!(ノクス)」
「キュルッ!(ルメナ)」
ミーナが笑いながらペンを取った。
その光が魔導板に文字を刻む。
王立魔道研究所ハルトン支部 第一研究課題
『雷と蒼の属性共鳴現象の解析と応用』
書き終えると、彼女は深く息をついた。
「――これで、正式に始まったわね」
「そうだな」
俺は外の空を見た。
蒼晶塔の光が、少し強く瞬いている。
まるで、次の冒険を祝福しているかのように。
⸻
その夜、研究所の屋根の上。
星の下で、ルメナが静かに旋回していた。
小さくなった光が尾を引き、空へと消える。
ミーナがその光を見上げながら呟いた。
「……きっと、ここから始まるんだね」
俺は頷く。
「戦うための力じゃなく、“知るための力”か。悪くない」
アリアが笑う。
「ねぇ、次の探索、また忙しくなるわよ」
「知ってる。でも――」
俺は微笑む。
「今度は、“学者と冒険者の旅”だ」
⸻
こうして、ハルトン支部の初研究は正式に始動した。
雷と蒼。
破壊と創造。
二つの理が交わるとき、
新しい“世界の法”が――姿を現す。
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